特集

2008.6/vol.11-No.3


価値創造型プロモーションとは何か

<strong>店頭プロモーションと広告の接点</strong>

 「価値創造型プロモーション」と広告はどのように関係するのだろうか。それは、広告と売りの現場である店頭をどう結びつけるかという答えになるかもしれない。東急エージェンシーでマーケティングに長年携わり、「価値創造型プロモーション」の実験調査の分析にも携わっている専修大学商学部教授の熊倉広志氏に聞いた。

――広告とセールスプロモーションの違いは何でしょうか。

 これまでは、広告はブランド価値をつくるなどの長期的効果、セールスプロモーションは売りに直結した短期的効果という定義が一般的で、その「機能」が決まっていたと思うのです。また、「形態」という点では、広告はマス媒体を使うことが最大の特徴であり、セールスプロモーションは有料のマス媒体以外、何でもありということでした。少なくともインターネットの登場前は、広告とセールスプロモーションはそれぞれ機能と形態が強固に結びついており、別ものだったと思います。

――それが、今世紀に入ってメディアニュートラルと言われ出したころから変わってきたということでしょうか。

 広告とセールスプロモーションの機能は変わってきましたが、形態は変わっていない、というのが私の考えです。形態が違うということは、調達方法も違うということです。つまり、マスメディアに関しては新聞社やテレビ局といった媒体社から広告枠を買いますし、セールスプロモーションはそれを提供している会社やツールを開発する会社に製作してもらう。あるいは、屋外広告などの場合は設置も依頼します。広告部門とセールスプロモーション部門は、必然的に分かれざるを得なかったところがあります。
 つまり、形態の違いが組織の違いを生んできたということでもあるのです。メーカーもそうですし、広告会社もそうですが、今も広告とセールスプロモーションでは担当する部署が違うところがほとんどです。二つの組織の間には、あまり人材の交流も行われていません。マーケティング活動を担う企業内の組織が、時代の変化についていっていないという面もあると思うのです。

店頭プロモーションの広告機能

――熊倉先生は、「価値創造型プロモーション」の実証実験にも参加されていますが、この試みをどうとらえていますか。

 私自身は、「価値創造型プロモーション」を店頭プロモーションを使った「広告」だと理解しています。クーポンや増量パックといったインセンティブ型の非価格プロモーションと異なり、「価値創造型プロモーション」は商品そのものの価値を訴えることで、消費者の購買行動を喚起する試みです。
 先ほど言った機能と形態の話で言えば、形態は店頭を使ったセールスプロモーションであり、機能は広告だということです。商品の価値を伝えるということは、長期的なブランディングを行っていることです。しかも、価格プロモーションと同等、商品によってはそれ以上の短期的な売り上げ効果も上げています。

――カルビーの「カルネコ」をどう見ていますか。

 「カルネコ」は、消費者モニターが店頭プロモーションを評価する機能を持っていますが、これは店頭プロモーションの“質”を測っていることになると思います。商品の売り上げという“量”はPOSデータで測れます。しかし、どういう顧客がどういう理由で買ったか、買わなかったかまで分かれば、それもプロモーションの効果を測る重要なデータになります。そういう意味で、「価値創造型プロモーション」とは相性がいいんですね。「コープさっぽろ」の実験調査でも、「カルネコ」を利用したのは、そういう理由です。

広告の短期的売り上げ効果

――「価値創造型プロモーション」は店頭で価値訴求する広告だという意味は納得できたのですが、実験では実際に売り上げを上げるという短期的効果も出ている。それをどう考えればいいのでしょうか。

 一つはそのように機能するように店頭プロモーションをプランニングしたということですね。短期的効果、長期的効果というのは、店頭を一つのメディアとするなら、メディアの使い方で変わってくるということです。これまでは広告やセールスプロモーションの形態と機能が強固に結びついていたため、その使い方が特に意識されてこなかったということもあるかもしれません。

――広告にも、ブランドを作る機能だけでなく、モノを売る機能もあると思うのですが。

 広告にも短期的な売り上げ効果があるという研究結果は、以前からありました。アメリカのジョン・フィリップ・ジョーンズが90年代初めに、広告の売り上げに対する直接的な効果の研究を発表したのが、その代表的な例だと思いますね。
 ジョーンズは、食品と日用品78ブランドについて広告の売り上げに対する効果を分析したのですが、購買前7日間の広告接触の有無に注目しました。その結果、あるブランドの広告に接触した人のほうが、広告に接触しなかった人よりも、そのブランドの顧客内シェアは平均1.24倍高いという結果を得ました。
 その後、さまざまな追加研究が行われています。私自身もビデオリサーチのシングル・ソース・データ(テレビ視聴データと購買データ)を使って、同様の分析をしたことがありますが、広告は売り上げに対する即時的な効果があることを確認しています。

――広告の売り上げに対する効果の研究は、さまざまなメディアで行われている?

 日本でも交通広告で行った例はありますし、新聞で実施することも可能ですね。さらに言えば、形態は広告でも、機能は店頭プロモーションという組み合わせも考えられるわけです。新聞広告で言えばクーポン広告やダイレクトレスポンス広告がそうですね。
 ただ、日本の広告業界では、ジョーンズらの研究はあまり注目されていません。広告の主要な効果はブランド価値の形成にあるという考えが日本の広告界には根強いことが、その一因かもしれません。

なぜ店頭プロモーションなのか

――最近、店頭プロモーションが注目されている理由をどうお考えですか。

 売りが完結する店頭の重要性は以前から指摘されていましたが、それでも今までは安くすれば売れたという状況が長く続いたため、根本的な改革が遅れていました。それが、ここへきていよいよ行き詰まったということが大きいでしょうね。
 だから、特売の悪循環を断ち切って、商品の価値を知ってもらうことで、適正な価格で買ってもらうというマーケティングの原点に立ち返るしかなくなったということだと思います。こうした動きは、リベート制度の廃止とオープン価格制の導入という取引制度の改革と密接に結びついているんですね。

――IMC(統合型マーケティングコミュニケーション)が言われ出した90年代から、顧客接点が重視され、広告からプロモーションまでトータルなコミュニケーション戦略が行われるようになってきたと思っていたのですが。

 確かに、広告キャンペーンは、顧客接点を考慮し、売りの完結まで考えて作られるようになっています。しかし、メーカーでもユニクロのように独自の販売チャネルを持っているところは店頭まで連動したキャンペーンが可能かもしれませんが、量販店が主な得意先の場合は完全な実施は難しいのが現状です。
 メーカーのブランドマネジャーはブランドを見ている。だから、「マーケティングメッセージの統一を」と言うのは当然ですが、それに対してメーカーの営業が見ているのは店頭です。営業にとって大事なのは、個々のブランドではなく、この店舗のこの棚、このスペースが取れるかということです。ブランド単位でキャンペーンのすべてを統一するためには、戦略・戦術だけでなく、組織についても考える必要があります。
 しかし、そういう中でも、売り上げを落とさないで商品価値を伝える店頭プロモーションを起点に、マーケティング活動全体を見直し始めている企業が出てきているのです。

店頭を巻き込んだキャンペーンへ

――「価値創造型プロモーション」の実験だけではなく、商品の価値を伝え、適正な値段で商品を売っていこうという企業が出てきている?

 実際に取り組み始めている企業は増えていると思いますね。代表的な企業に、ハウス食品があります。ハウス食品は07年末に主力商品であるシチューのルウの卸価格を約10%値上げしています。しかし、その裏では「商品価値を訴求することで、適正な価格で売れる」戦略を綿密に作っていたのです。
 ハウス食品は、コープさっぽろで07年1月に行われた「価値創造型プロモーション」の実験にも参加し、非常にいい結果を得ています。それまでハウス食品では、シチューを「冬、体を温める料理」ということで売ってきたのですが、「価値創造型プロモーション」の訴求ポイントを探る段階で出てきた消費者のシチューに対するイメージは、「子どもに多くの野菜を食べさせられること」だったのです。
 また、シチューが家庭で食べられる時期を改めて調べると、冬はもちろん、8月のお盆過ぎに最初のピークがあることや、お彼岸、ボージョレヌーボーの出る時期、クリスマス、大寒など年間六つの需要のピークがあることがわかったのです。
 こうした調査結果をベースにハウス食品は、「野菜」をキーワードに07年8月から新しいキャンペーンを始めました。日本ベジタブル&フルーツマイスター協会が認定する野菜や果物のおいしさや楽しさを理解し伝えることができるスペシャリストの通称を「野菜ソムリエ」と言うのですが、この野菜ソムリエを中心にキャンペーンを組み立てています。
 マス広告では、野菜ソムリエの資格を持つタレントの王理恵さんを使って広告展開し、店頭では野菜ソムリエによるさまざまな野菜を使ったシチューの試食会などを行いました。その結果、キャンペーンの途中に商品の値上げがあったにもかかわらず、07年9月から08年2月までの売上高は前年同期比で6%増えたのです。

――店頭で実際に消費者を動かした訴求ポイントが、大きなキャンペーンでも成果を上げたということですか。

 そういう意味でも、「価値創造型プロモーション」というのは、店頭プロモーションを使った「広告」だと、私は考えているのです。商品を売る側の視点だけでも、単に商品が売れればいいという店頭発想だけでもない。どういう商品価値を伝えれば消費者が動くのか、そういうシンプルな考え方だと思います。
 原油高騰や原材料の値上げで、メーカーは「商品の値上げ」という、この10年間になかった局面に立たされています。そこには、店頭を含めたマーケティング戦略が必要になるはずです。商品開発や広告、店頭まで巻き込んだトータルなコミュニケーション戦略が生まれるのは、これからだと思います。


もどる