特集

2008.6/vol.11-No.3


価値創造型プロモーションとは何か

カルネコ─プロモーションを革新する視点

 カルビーの「CalNeCo(カルネコ)」は、メーカーが実施する店頭プロモーションの革新を目指したシステムだ。値引き販売に代わる手段として、商品の価値を伝えるメッセージ型のプロモーションを事前に多数用意し、その中から小売店が必要なPOPをオンデマンドで届けるのが基本的な仕組みで、これまで見込み生産され、大量に廃棄されていた販促ツールのロスをなくすなどの利点がある。さらに、消費者モニターがその店頭プロモーションを評価する仕組みも提供している。推進役の加藤孝一氏に、マーケティングプロセスを変える「カルネコ」開発の背景と意義を聞いた。

――「カルネコ」を始められたのは、いつからですか。

 正式スタートは02年1月の経営計画会議で「プロモーション革新プロジェクト」が承認されてからですが、直接のきっかけは、01年11月に当時の社長から、「価格ではない売り方、付加価値販促の方法を考えろ」という指令が下りたことです。カルビーのポテトチップスは安売りの目玉になっている。安売りは誰ももうかる人がいないし、その売り方から脱却したい。そのためには、ブランド価値を伝えるプロモーションの革新が必要だというのが社長の考えでした。
 カルビーの製品はスナック菓子ですから、スーパーマーケットが販売の中心ですが、当時、それまでの一律型のプロモーションがどうもうまくいかないという問題があったのです。その原因を探っていってわかったのは、顧客の構成が店舗ごとに違うということでした。では、その店舗にフィットするプロモーションを行うにはどうすればいいか、というところから生まれたのがカルネコです。3か月ごとに50企画を紹介した「プロモーションパック」というカタログ冊子を発行し、そこから店舗に合った企画を選んでもらう形でスタートしました。

売り上げ復活をめざして

――そこに至る背景には、どんなことがあったのでしょう。

50企画が入ったプロモーションパック(カルビイー東日本カンパニー版)  カルビーの主力商品であるポテトチップスの売り上げは、91年を境に微減傾向に転じたのですが、それをなんとか復活させたいというのが、そもそもの始まりです。
 どこのメーカーでもそうだったと思いますが、まず起こったのが新商品の乱発でした。カルビーでも、90年ころまでは年間25から30アイテムだった新商品が、売り上げが落ちていく中で、年間50から60アイテムに増えていったのです。営業が新製品の紹介を終わって帰ってくると、また次の新製品があるといった具合で、販売予算も組めない状況になっていったのです。最後は、小売りから「カルビーの都合ばかりで売り場を取るわけにはいかない」と言われるようになってしまったんですね。
 そこで着手したのが、商品の鮮度の向上です。96年10月から「シンプルウェイ」と呼ぶモデルチェンジ作戦を始めるわけです。カルビー製品の原材料は野菜ですから、その鮮度を保つためにオペレーションの再構築に着手したんですね。できたてのおいしさを提供するために様々な取り組みを行い、出来栄えを店頭鮮度で確認していきました。そこで重要な役割を担ってくれたのが店頭を巡回する「フィールドレディー」でした。こうして、製造から一週間で商品がほぼ全国の店頭に並ぶ体制を作っていきました。
 しかし、チェーンストア本部にプロモーションの提案をする場合、例えば事前の商談で150店舗1000ケース納入すると決まっても、いざ企画がスタートすると600ケースだったという問題もこのころから起こってきました。
 その原因はチェーンオペレーションの変革です。96年当時というのは、本部一律のマネジメントではなく、お客様の近くにマネジメントの拠点を移さないと心に響くプロモーションや売り場提案はできないとチェーン各社も感じ始め、意思決定権を本部から店舗の方に移してきた時期だったのです。
 そういういくつかの要因が重なって、取り組みを進め高鮮度オペレーションを実現しても、売り上げがなかなか上がらないという現実に直面するわけです。

商品を買う決定的な理由

――それにどう対応したのでしょうか。

 モデルチェンジ作戦に取り組む一方で、アメリカからコンサルタントを招いて、商品開発や販促を根本から見直す作業も同時に行っていました。私がその事務局を任されていたのですが、このとき学んだのが「プライマリー・ベネフィット」という考え方です。プライマリー・ベネフィットとは「顧客には商品を買う決定的な理由が一つある」という考え方で、購買動機を発見して商品を開発・販促することがすべての出発点になるというものなんですね。
 消費者起点という言葉はそれ以前からありましたが、それまでカルビーというのは「作って出せば売れる」という成功体験しか実際は持っていなかったのです。そこで商品作りをお客様起点に変え、お客様の求める商品しか作らないと発想を転換していきました。
 それから、フィールドレディーも、もともと地元の主婦ですから、買い物のプロとしての感性を生かして売り場に合わせたプロモーション提案をしてもらおうということで、「ゾーンセールス」へと名前と機能を変えていきました。

――その後、いよいよカルネコの導入になる?

 その前に、マーケティングの意思決定フローを変える必要がありました。セールスをきちんと段取りよく提案できる土壌を生み出すためには、商品を市場に投入するスケジュールが社内の各組織できちんとディスカッションされ、計画化されている必要があります。
 当時、カルビーには八つの地域カンパニーがあったのですが、その事業部体制も含め意思決定フローを変えたのです。そうすることによって、半期半期で市場に投入される商品の計画が立てられるようになり、予算化もうまくいき、新商品投入に向けたプロモーションもきちんと準備できるようになる。カルネコを導入する上で、これは重要な点です。
 最初にカルビーでは四半期に一度、50企画ほどのプロモーションを紹介する営業用のカタログを発行すると言いましたが、これは少なくとも半年先までの市場化計画ができていないと定期的にカタログを発行することができません。
 このようにカルネコを導入すると計画策定マネジメントがうまく回っているかどうかということが浮かび上がってくるという側面を持ちます。

表1

安売りの代替プロモーション

――カルネコ導入で、マーケティングのプロセスが変わった?

 カルビーは01年11月にリベート廃止を前提にした新取引制度の設計に入り、02年8月に全商品をオープンプライスにしました。思い切った決断でしたが、初めに言ったように、カルビーの商品はよく売れるということで安売りの目玉にされることが多かったからです。安売りの目玉として大量に納入できれば、見かけ上のメーカー出荷額は上がりますが、安く売るために小売りは卸に値引きを要請し、卸はメーカーに販促費の要求を出すという構造になっていたんですね。安売りの原資であるリベートを廃止しない限り、それが繰り返されると、やがては利益を確保するために商品の内容量を減らさなければならなくなり、最後は「袋だけ買ってください」という話になる。最終的に損をするのは誰かというと、お客様です。
 逆に、カルビーが生み出す商品の価値をきちんとわかって買ってもらえるなら、無用なディスカウントをしなくてすむわけです。
 しかし、カルビーはリベートをやめても、他社は値引き商売をしているわけですから、その対策が必要になる。

――それがカルネコということですか。

 そうです。値引きしない代わりに、「プロモーション企画を選択してもらえます」という話にしたわけです。言い換えれば、値引きの代替ソリューションを提案しながら、リベートを廃止し、オープンプライスに移行していったということです。

販促ツールの制作費が激減

――カルネコの仕組みを具体的に説明してもらえますか。

 まず、プロモーションのアイデアがありますね。このアイデアは、カルビーの場合、カルネコ、ブランド担当、地域カンパニーの3者で出し合います。例えば「行楽の秋にスナックを」というようなブランドに依存しない季節テーマ、祭事テーマはカルネコで立案します。それからブランド担当が25人ほどいますから、それぞれが自分のブランドのコンセプトに合った企画を作ります。さらに、現在は七つある地域カンパニーでは自分たちの担当する店舗や地域のお祭りをテーマに企画を考えます。それらをカルネコのデータベースの共有テーブルに入れて、そこから七つの地域カンパニーそれぞれが、プロモーションパックに入れたい企画を選ぶ。そうすると、印刷システムにデータが流れていって冊子ができ上がるという仕組みですね。
 その冊子を使って営業先の各店舗で必要なプロモーション企画を受注し、カルネコシステムに受注エントリーすると、POPがオンデマンドで制作され、最短4日で店舗に届きます。ここで面白いのは、受注エントリーされると、全体でその企画用のPOPが何セット受注されたかがわかるので、企画の全国ランキングが出ることです。つまり、人気の高い企画がすぐにわかるので、他の地域でもそれを使ってみようという尺度になるのです。
 それから、もう一つ重要な点は、今までの販促ツールは仮需だったということです。各店舗に実施の有無を確認する前に、プロモーション企画を立てて販促ツールを見込み生産していた。しかし、カルネコは注文を受けてから作って届けますから、完全実需型です。無駄な在庫や欠品がなくなるのです。
 カルネコは実はカルビー以外の企業にも外販しているのですが、カルネコを使用したいという企業が仮テストで導入したところ、販促ツールの制作費を65%削減したところがあります。カルビーも、これまでほかのメーカーと同様、小売店にPOPを配っては売り場に取り付けてもらえずに捨てられるという無駄を繰り返してきたのですが、カルネコを利用するようになってから年間数億円かかった販促資材コストが半減しています。
 こうした点が評価され、最近はカルビー以外のメーカーへの外販が8割を占めるまでになっています。


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