特集

2008.6/vol.11-No.3


価値創造型プロモーションとは何か

 メーカーのコスト削減努力が限界に近づく中、安売りに頼らず利益を上げる効果を期待されているのが、「価値創造型プロモーション」だ。消費者に対して商品本来の価値を訴求することで、その売り場での短期的な購入を促進するとともに、長期的に売れ続けるためのブランディング効果も発揮する。店頭から始まった新しい動きと広告との関係を探った。

商品価値を高める店頭プロモーション

 ブランドの重要性が言われて久しいが、実際の売りの現場では“特売”による価格プロモーションでブランドの価値が損なわれていることが多い。商品の値段を下げずに商品価値を高める店頭プロモーションの開発に取り組んでいるのが学習院大学の上田隆穂教授だ。

――「価値創造型プロモーション研究会」の設立は06年末ですね。

 メーカー4社が参加した産学協同の研究会としてスタートしました。最初は「非価格プロモーション研究会」と呼んでいたのですが、一般には増量キャンペーンやオマケを付けるプレミアムキャンペーンも非価格プロモーションに含まれますから、それと間違えられやすい。私の考えている「商品自体の価値を上げるプロモーション」とは違うということで、途中から「価値創造型プロモーション」と呼ぶことにしました。
 各メーカーの意見を取り入れながら手法の改良を行い、「コープさっぽろ」の協力で最初の実験を行ったのが07年1月です。それがある程度成功したこともあり、今はほかにも協力してくれるスーパーが出てきています。
 流通も快く協力してくれているというのは、研究会の主宰が大学(学習院マネジメントスクール)だということもあると思いますね。メーカー、卸、小売りにとって中立機関であるということです。

――店頭プロモーションの実験は、メーカーが言い出しても、卸が言い出しても、実現は難しそうですね。

 利害関係のある企業のコラボレーションも、大学が表に立てばやりやすいというのはあると思います。そういうところに大学のメリットがあるというのが、最近わかりました(笑)。

――先生はもともと価格研究をされていたと思うのですが、なぜ非価格的なプロモーションに関心を持ったのでしょうか。

 昔からあるマーケティングの教科書では、製品をいくらにするかが価格戦略だと書かれていますが、そうではないんですね。91年に客員研究員として米国のUCLAに行ったのですが、価格について調べると、論文ベースではいろいろな研究があった。それまで日本で言われていた価格研究とはまるで違う。それが、価格を研究し始めたきっかけです。
 それから、価格の視点からマーケティングを見たらどうなるかと考えが発展していったんですね。そうすると、あらゆるマーケティングが価格とつながってくる。きちんとしたマーケティングをすれば、価格を下げないでも利益を出して売れるということです。商品の価値を上げれば価格はある程度高くても買ってもらえるのです。

コープさっぽろの実証実験

――コープさっぽろで行った「価値創造型プロモーション」の実証実験とはどんなものなのでしょうか。

我が家流のシチューの店頭陳列  消費者が無意識にその商品を買いたくなる訴求ポイントを見いだし、それによってプロモーションプランを作成し、価格を下げなくても売れることを実証する目的で行ったものです。
 まず、「シチュー」「ケチャップ」「ウーロン茶」「シャンプー・リンス」の4品目について、消費者の深層心理を探る調査を行い、そこから浮かび上がった訴求ポイントをもとに販促計画を作成しました。 実験は、「コープさっぽろ」の11店舗で07年1月23日の週から13週にわたって実践しました。

――結果はどうだったのですか。

 例えば、シチューのルウの場合、価値創造型プロモーションでは訴求ポイントとして「親子でクッキング」「今夜はお家がレストラン」「野菜たっぷりのバランスシチュー」「我が家流のシチュー」という四つの訴求ポイントから作ったプロモーションをそれぞれ別の店舗で実施したのですが、実験前52週平均の約2倍の売り上げになりました。これは、メーカー自身が分析した特売時のデータと比較しても遜色ない結果でした。特に、「我が家流のシチュー」はコーン缶やスパイスを一緒に並べるクロスマーチャンダイジング(注1)的なプロモーションを実施し、効果が全体で大きかったですね。
 しかも、同時に実施した大量陳列のみの結果に比べ、プロモーション実施後の売り上げの落ち込みも少なくなっています。

表1

注1)クロスマーチャンダイジング:小売業の販売手法の一つで、商品カテゴリーに関係なく関連商品を一つのコーナーに並べて相乗効果による売り上げ増を目指す手法のこと。

消費者の深層心理を探る

――深層心理を探ってプロモーションの手法を開発するということですが、どのようなものなのでしょうか。

 買う動機を探るモチベーションリサーチは昔からいろいろ研究されていますが、プロモーションに応用することはなかったと思います。「その商品をなぜ買おうと思ったか」「その商品自体がその人にとっていったい何なのか」というのは、消費者自身にもわからないところがあります。それをまず、深層心理を探るデプスインタビューで見つけていくわけです。
 例えば、シャンプーであれば、「一日の終わりの儀式として気持ちよくリフレッシュできて、安眠できる」など、今まで売る側が意識していなかったような消費者の心に刺さる訴求ポイントが調査から見えてきます。個別のブランドでも、その商品に対する心理的な価値を深く探っていくことで差別化できる。こんな訴求をすれば効果があるんじゃないかと経験的にわかることもありますが、そういうところをきちんと調査で確かめていくことが大事なんですね。
 今までのモチベーションリサーチは少人数の深層心理を探るデプスインタビューで終わりですが、我々はさらにそこで得られた結果を仮説として大量サンプルによるウェブ調査を行い、仮説をより確かなものにしてからプロモーションの具体的なアイデアに落とし込んでいます。

――広告でも、消費者インサイトが注目されていますが。

 広告で行われているインサイト分析もモチベーションリサーチと同じです。ただ、我々が行っているように仮説の検証まで手間をかけることは行っていないと思います。我々は、複数回の調査を実施して極力客観性を保つ努力をしているということです。
 もちろん、主観をまったく排除できるわけではありません。特に主観が効いてくるのが、最初の仮説の抽出で、同じデプスインタビューの結果を見ても、人によって拾うところが違うんですね。ここがおそらく一番熟練がいると思いますし、感度のいい人を持ってこないといけない部分だと思います。

表2

牛乳を和食の組み合わせで売る

――先生は、日本酪農乳業協会の牛乳普及キャンペーンにも携わっていますね。

 もう、7年になります。最近、スーパーのヤオコーの店頭で実験したのは、牛乳と和食のクロスマーチャンダイジングです。牛乳と和食を一緒に並べて売ったらどうなるか。消費者の深層心理を調べて得た「和食で牛乳を飲んでもらうと飲む機会が拡大される」という仮説を実証しようというものです。

――和食と牛乳は合いますか。

 それが合うんですね。もちろん、牛乳と合うものと合わないものがあるのですが、「ゴマ」「いも」は非常に合いますね。里いもの煮付けやじゃがいもの煮物が牛乳と相性がいいんです。今回の実験からははずしましたが、「あん」も合いますね。
 実験は、日本最大の料理サイト「COOKPAD」の10人のブロガーの協力を得て牛乳とよく合う和食ベスト3を選び、それを売り方を変えて比較してみたものです。推奨販売を行った牛乳が一番売れて23%アップ、推奨せずに牛乳と和食をそばに置いたもの、つまりクロスだけのものが14%アップ、何もしないで大量陳列したものが9%アップ、定番売り場にPOPだけ付けたものがほとんど変化なしという結果でした。

――推奨販売というのは?

 ヤオコーが常設している推奨コーナーの一角に、試食できるように牛乳と和食を置いたものです。消費者モニターによって店頭プロモーションを評価するカルビーのカルネコシステム(注2)でも推奨販売の評価が非常に高く、短期の売り上げだけでなく、中長期の効果もあることが確かめられました。

注2)カルネコ(CalNeCo):カルビーの社内カンパニーで、小売店が欲しがるPOPだけを実需に合わせてローコストで生産・配送する仕組みと消費者モニターによるプロモーションの評価を行う仕組みを提供する。詳しくは「カルネコ─プロモーションを革新する視点」を参照。

推奨販売が行われたヤオコーの店頭

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