栞ちゃん

2008.6/vol.11-No.3


栞ちゃん

Vol.12  徹子と淀川おじさん。

実家にビデオデッキがきたのは、高校1年のときだった。

それまでは、(時には映画館に行ったけれども)たいがいの映画はテレビで観ていた。

ゴールデン洋画劇場の、和田誠のイラストのオープニング映像が大好きで、
いっしょにテーマ音楽を口ずさみながら観ていたし、水曜ロードショーの
水野晴郎の機械仕掛け的な決まり文句(いやあ、映画って・・・ってやつ)も、毎回楽しみにしていた。

なかでもお気に入りは、深夜の映画枠だった。
ノーカット・字幕スーパー、CMなしの時もあって、映画館で観る感覚に近かったから。

映画のチョイスも、往年の名作から、アート系、インディーズなど
大人っぽいものばかりで、少し背伸びした気分もうれしく、とにかく夢中で観た。

が、ビデオに慣れた今にしてみれば、自由にトイレも行けないし、見返すこともできない。
開始が深夜1時過ぎだから、モーレツに眠い。翌日の授業中は爆睡御礼。
家族が寝静まった頃、居間で音を小さ〜く絞って息を潜めて、たまに母親に見つかって怒られて。
いつも、「とにかく最後まで観るのだ」という鉄の意志を持って臨んだ。

あの頃の、映画に向かう集中力ときたら、なかなかのものだった。

ヒッチコックの「めまい」や「フレンジー」や「サイコ」に心臓がバクバクしたし、
「ストレンジャー・ザン・パラダイス」の映像にシビれ、「明日に向かって撃て」にキュンとして。
「モロッコ」も最高。マレーネ・ディートリッヒ、もう憎らしいほどイカしてた。

でも、どの映画番組でも共通して好きだったのが、はじめと最後の解説だった。

ジェットコースターが動きだす前、背中をポンとたたいて「いってらっしゃい」と見送って、
勇敢に戻ってきたら「おかえり、どうだった?実はね・・・」と迎えてくれるような安心感というか。

ただ、日曜洋画劇場の淀川長治の解説には、いつも映画以上の情報があったように思う。
解説に留まらない想い、映画への計り知れない愛情もそのひとつだけれど、
ただ温かいだけではない、凄みのようなものがあった気がするのだ。覚悟ともいうような。
まだほんの子供だったけれども、それはなんとなく、伝わってきた。

淀川さんの、珠玉の言葉の数々を伝える本はたくさんあるけれど、これはお得な一冊。
「徹子と淀川おじさん〜人生おもしろ対談/NTT出版」黒柳徹子・淀川長治
淀川さんが「徹子の部屋」に出演した、全13回の対談をまとめたものです。
徹子の天衣無縫な進行が、やっぱりすごくいい。そして、
淀川さんのお話に触れると、しっかり生きなくては、と褌を締め直さずにはいられない(女だけどね)。

国井美果(文)
ライトパブリシテイ コピーライター

本誌デザイン
帆足英里子(デザイン・写真)
ライトパブリシテイ アートディレクター

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