マーケティングの新レシピ

2008.6/vol.11-No.3


男女の境は消えていくのか?

 よく研修やセミナーで「タウンウオッチング」を課題とすることがある。街へ出て、どんなことでもいいから「兆し」を発見するのが目的だ。そうした時に必ずのように皆が気がつくテーマがある。
 「女子の男子化、男子の女子化」だ。これは、さまざまな面で話題になっているが、あらためて観察すると、いろいろなことが見えてくる。
 よく聞かれるのは「若い男性がキレイになっている」という声だ。こういう声は大体女性から聞かれる。久しぶりに大学のキャンパスに入ってみると、男性の肌がきれいなことに驚くという。
 一方で「牛丼屋で女性を見かける」という声も聞く。こちらは主に男性の発見だ。女性どうしはもちろん、一人の来店もあるという。
 こうした男女の越境現象はこれからも続くのだろうか?

進み続ける「男女の越境」

図1 男性用化粧品 マーケットサイズの推移 (金額ベース)

図1

 先の「キレイな男の子」については、数字的な裏付けからもうかがえる。調査会社のインテージが昨年の夏に発表したデータによると、メンズビューティー市場は05年から拡大が続いているという。【図1】
 女性の「丼物」への関心はどうだろうか。昨年10月2日の産経新聞は“女性だって「丼」好きです”という見出しの記事を掲載した。それによれば若い層を中心に牛丼屋などの女性客は着実に増加しているようだ。そこでは「かつては客の1割程度だったが、最近では2割弱」と語る、ある牛丼チェーン店のマネジャーの声が紹介されている。
 かつては「女性では入りにくい」業態の一つだった牛丼屋にも、かなりの変化がみられるようだ。
 こうした越境現象は他にも見られる。コンビニのam/pmでは朝の売り上げ比率でヨーグルトが急減したデータを分析して、若い女性の朝食が「オッサン化」していると結論。雑穀を使ったおにぎりを開発したという。 一方で、お菓子売り場に目を向ければ、男性向けに開発された商品が増えていることが分かる。ピンクや赤ではなく、ブルーや黒などを基調にしたパッケージデザインのチョコレートなどである。酒を飲まずに甘いものを食べながら夜を過ごす男性も増えているのだ。
 ちなみに、最近私が気になるのは、趣味の世界における越境現象である。
 女性が競馬やゴルフに「進出」したのは、ちょうど20年前のバブル期の頃だが、最近話題になるのは「鉄子」、つまり女性の鉄道ファンの増加である。
 一方、知り合いの若い男性会社員でジャニーズのコンサートに通っている者がいる。男性どうしで行って、カラオケでは振り付けまで覚えて大騒ぎをするらしい。まだまだ男性客は少ないようだが今後は段々と変わるかもしれない。
 また宝塚歌劇や歌舞伎を見に行くと、ここにも若い男性がジワジワと増えてきているように思う。美術館でもそうだ。こうした中高年女性の多いところにも、男性の進出が始まっている。

図2 男性用化粧品 年齢別 購入率の比較

図2

経験値が出遅れを生む

 こうした男女の越境現象は、アタマでは理解できてもどうも腹に落ちない、という人も多い。そして、そう言う人は一度マーケティングで成功した人、つまり経験豊富なベテランによく見られることが多い。
 つまり、現在観察される「女子の男子化、男子の女子化」はある世代から若い方に向かって、加速をしているのだ。先の男性化粧品や丼物のケースだと、大体20代後半くらいに「価値観の見えない壁」のようなものを感じる。
 実際に、セミナーなどでたずねてみると、ある程度から若い層では「女性が牛丼屋」というのは抵抗が急減していることがわかる。どうやらBSE騒ぎの時に「食べられなくなるなら一度」と入ってから、すっかり気に入ったという人も多いようだ。
 そして男子大学生にインタビューすると、驚くことになる。彼らが化粧品に関心を示す過程を聞くと「高校の頃に母親の化粧水を使ってみた」という声も聞かれる。先の調査でも20代男性の化粧品購入率は高い。【図2】
 こうした声を聞いて「ここまできている」と思えば先回りできる。だが、ベテランの人ほど「彼は特殊だ」と思いがちだ。たしかに、高校生の頃に母の化粧水に関心を持つ男子は、「特殊」というイメージになってもおかしくはない。
 しかし、こういう変化の起きている時代には経験がかえって目を曇らせるものだ。そして、そういう時には虚心に現場を観察して兆しを発見していくしかない。
 こうした境界の消滅を取り上げて、「男らしさ、女らしさ」が失われたと嘆く向きもある。だが、過剰な規範は社会の活力をそいでしまう面があると思う。
 ターゲットを性別で規定した瞬間に市場は半減する。だが、人口が減少に向かう中、性別の枠組みを取っ払うことで、潜在市場は発掘できるかもしれない。マーケティングにおいては、自由な発想を持つ者がより多くのチャンスに巡り合うのである。

※相澤利彦「一気にアクションに到達する仮説が立てられる地頭力」THINK! 08年冬号(東洋経済新報社)を参照した。
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