マーケティングの新レシピ 2008.5/vol.11-No.2

みんな健康志向で暮らしてますか?
 健康は大切だ。健康であることを否定する人はいない。そして、今の日本において「健康」がマーケティングにおける重要なキーワードになっていることは周知のことである。
 さて、いまの日本人は健康志向が強まっているのだろうか? イエスか、ノーか?
 あなただったら、どちらに答えますか?
 これは、研修や講演でよくたずねる質問である。すると、ほぼ全員がイエスと答える。そして、その理由を聞くとどうか。
 「健康関連の記事やテレビ番組が増えた」「健康食品が増えている」そんなことを「状況証拠」に挙げる人が多い。
 さて、本当にそうなのだろうか? 定点観測のデータを見てみよう。

健康志向と健康不安の大切な違い

「健康志向」は伸びるどころか…

 今回概観するデータは博報堂生活総合研究所が2年に1回調査・公表している「生活定点2006」である。
 同じ質問を継続しているので、日本人の志向性の推移を見るには適したデータだ。ではこのデータから「日本人は健康志向を強めている」ことは読み取れるのか?
 結論を先に言うと、かなり強い疑問符がつく。明らかに健康志向が強まっているという傾向は見いだしにくい。
 まず「健康に気をつけた生活をしている」という人は96年からの10年で漸減傾向にある。「健康に気をつけた食事をしている」人も同様だ。細かく見ていくと、20〜30代でこの傾向は強い。
 「健康のための努力は惜しまない方だ」という人も減り続けている。
 どうやら健康志向が強まっているという様子は読み取りにくい。では、なぜ私たちは「健康志向が強まる」と思ってしまうのだろうか。
 もう一つのデータに重要なヒントがある。「健康に不安がある」という人が着実に増えているのだ。もっとも顕著な増加を見せている50代男性の数値は今の日本人の中高年の状況を如実に表している。ちなみに40代男性の06年時点での「不安がある」割合は69.5%。かなり高い数値である。
 つまり「健康不安」が強まっているが、「健康志向」なことはしていない。まずいまずいと思いながらも、ダラダラと改善できていない現状が見えてくる。

着実に高まる「健康不安」

「メタボ」は日本人の行動を変える?

 「健康不安」と「健康志向」の差異をうまくとらえると、マーケティングのチャンスが生まれる。つまり、ストイックな健康志向よりも、「不安を解消する」ものがニーズの根底にある。それが消費者インサイトなのだ。
 そう考えるとサントリー「黒烏龍茶」のアプローチが巧妙なことがわかる。ストイックに節食するのではなく、「これを飲めば、脂っこいけどおいしいものを食べられますよ」という訴求だ。日本人の「健康不安」を上手にとらえている。
 そもそも冷静に世の中を見れば「健康志向」が怪しいことがわかる。「痩せるらしい」ということで納豆が品切れになった頃、「メガマック」がヒット商品となった。納豆もメガマックも両方買ったという人もいただろうが、いったい痩せたいのか、太りたいのか? 少なくとも真剣な健康志向とは思えない。
 だが、この潮流も変化する可能性がある。「メタボリック症候群」への注目である。本誌3月号の特集にもあったが、健康診断にも取り入れられるなど、もはや国策となった肥満への逆風は、日本人の意識を真の「健康志向」に変える可能性を秘めている。
 先の定点調査は2006年が最新である。だが「メタボリック症候群」が注目された昨年くらいから、中高年男性を中心にした意識の変化が見られているようなデータも散見されている。定点調査の変化にも注目してみたい。
 では、このような状況でマーケティングやコミュニケーション戦略に求められることは何だろうか? それは過剰な不安をあおったり、安易な情報を流すのではなく、健康への理解を深める広範な啓蒙活動との一体化にあると思う。
 ニューズウィーク日本版の4月2日号の特集「肥満が犯罪になる日」は、世界中で「メタボ狩り」が行われている現状を伝えている。だが、過剰なまでに肥満を悪者扱いすることで、就業が阻まれたり、保険に入れなかったりする米国の現況は「太った人を二流市民だと思わせる」差別的な側面があることを浮き彫りにしている。
 他方で「飲むだけで痩せる」ことをうたった商品広告を行った企業に、公取委から排除命令が出た。このような時こそ正しい情報を伝達することで、メディアの社会性が改めて評価されることになるだろう。
 なお一つ気がかりなのが、今後の景気動向である。先の健康志向度を示すデータを見ると、「健康は後回し」の傾向は04年に底を打っている可能性も高い。つまり90年代後半から経済状況も悪く多忙な中で、健康にまで気をつけていられないまま、健康への意識が低下したという仮説も成り立つ。「健康志向」の底流にはいろいろな要因が潜んでいるのである。

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