CURRENT REPORT 2008.5/vol.11-No.2

安心・安全でおいしい食品を志ある生産者と協力して提供
 ここ数年、食の安全に対する消費者の関心は食品の生産方法や流通経路にまで向けられている。
 より信頼できる食品へのニーズに、売る側の企業はどのように応えているのか。
 プライベートブランド商品「顔が見える食品。」で生鮮食品の生産地や生産方法などを公開しているイトーヨーカ堂の青果部 チーフバイヤー恵本芳尚氏に話を聞いた。


株式会社イトーヨーカ堂 青果部 チーフバイヤー 恵本 芳尚氏 ――「顔が見える食品。」とは
 販売を開始したのは2002年5月のことです。当時は日本でもBSE問題が喧伝されていた頃で、企業としてお客様に安心・安全をきちんと担保できる食品を提供していこうということではじめました。
 青果物を例にお話しすると、取扱商品の生産、流通、販売の各段階や全体の仕組みについて独自の基準を定めて情報公開しています。それは、
「誰がどのように作っているのか、HPで公開する」
「国産の農産物に限定して取り扱う」
「適地適作に取り組む生産者を厳選する」
「農薬は『平均的な使用回数の半分以下』を目標に減らす」
「信頼性を高めるため、第三者によるチェックを受ける」というもので、「5つの約束」と呼んでいます。
 初年度は賛同いただいた38農家とのスタートでしたが、現在、全国291の産地、2718名の生産者の方に協力いただいています。野菜から始めたこの取り組みですが、今では果物、肉、鶏卵、魚と生鮮食品全体に広げています。

――「5つの約束」の具体的な内容は

 商品パッケージに生産者の名前と似顔絵を入れていますが、詳細な情報はHPで公開しており、携帯電話でもその場で確認できるようになっています。他でも同様の取り組みは行われていますが、おおむね複数の生産者をグルーピングしています。それに対して厳正に個人のレベルまで生産者情報を追える点は大きな特徴です。まあ、商品一つ一つの情報ですから、膨大なデータになってしまいますが(笑)。
 また、年に1回、生産に入る前には必ず産地に行って農家の方と畑や商品を確認し協議しています。安心・安全であると同時に、品質や鮮度にも留意が必要です。我々のメンバーに加わっていただく生産者には土壌分析により自分の畑の状態を認識してもらった上で、そこに適した施肥、農薬散布の計画を立てての栽培をお願いしています。
 収穫した商品についても、品質確認を行い、出荷時には残留農薬の検査も行うなど、厳重に品質を管理しています。
 こうした一連の取り組みは関連会社とチームを組んで実施しているわけですが、我々の申請通り運用されているか、登録認定機関として国から承認を受けた第三者機関による監査を受けているのです。

――コストがかかりますね

 「顔が見える食品。」はプライベートブランドでもありますので、情報管理のコストについてはイトーヨーカ堂の社会的責任として負担をしていくべきだと考えており、商品価格には転嫁していません。
 実際、すべてのコストを乗せてしまうと倍以上の値段になってしまいますので、そうなると消費者から支持をいただけません。ただ、手間暇かかっている分、生産コストは上がっていますので、1割〜2割程度上乗せするような価格設定にしています。

――消費者の反応はいかがですか

 この5年間は生産者を訪問して、説得し、商品を作ってもらい、店舗には販売の協力をいただいてという地道な努力の繰り返しでしたが、昨年あたりから供給体制も整い、売り上げも上がってきました。
 この商品は非常にリピート率が高く、一度ご購入いただくと7割のお客様に再びお買い上げいただいています。価格が多少高くても、安心・安全で味、品質にこだわっているということが理解されてきましたし、その点でも販売が伸びる状況になってきています。
 ただ、認知という点ではまだまだですので、これからは広告、チラシを含めて積極的な販促活動をしていくと同時に、生産者に対しても業界紙・誌などで提案を投げかけて参加を募り、規模を拡大していきます。
 そうすることで今まで以上に生産者と消費者の距離を縮めて、互いの考え方が双方にきちんと伝わり、共にメリットが生まれるような関係を仲介していきたいですね。

――今後の目標は

 スタート時に年間100億円という売り上げ目標を立てました。当初は商品も増えない、販売量も上がらないという状況で、売り上げも10億円程度で推移していたので夢物語に終わってしまうかと思ったこともありました。でも、いつか時代が追いついてくれると信じて取り組んでいる間に、消費者の食の安全に対する認識が大きく変化し、ようやく目標達成が見えてきました。
 数年内には協力いただく生産者を5000名に拡大し、売り上げは200億円を目指したいですね。
 それにしても売れ出したら、あっという間でした。今まではなかなか売れないから値下げしながら売り切っていたものが、急に商品が足りないといわれるようになってしまって。新たな産地の開拓も大変な状況になってしまい、悲しいやらうれしいやらという感じです。


(梅木)

取材メモ
 イトーヨーカ堂では以前から、産地との直接取引による鮮度の良い「産直商品」を販売していた。「顔が見える食品。」では、まずそうした付き合いのある農家から当たったとのこと。
 「最初は『そんなことできるか』と言われましたよ」と恵本氏。
 食の安全を脅かすような諸問題は多数発生していたものの、現在ほど意識は高まっていなかった当時、生産者に栽培の履歴を記帳し、管理してもらおうにも、そうした習慣はほとんどなかった。
 「どんな農薬をどの程度薄めて、どこの畑にどれくらい散布したのかといったことは把握されていなかったんですね。日本の農薬は安全だという認識でしたから。何年か通ううちに徐々に賛同いただけるようになりました」
 一方で形やサイズなど、多少不ぞろいがあっても販売できるものはすべて買い上げることで、生産者の収入を保証し、安全性も高く品質の良い商品を安定して供給できる体制を整えた。
 2006年には、一定量以上の農薬等が残留する食品の販売を禁止する残留農薬のポジティブリスト制が施行され、今では生産者の意識も大きく変わっている。
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