Creativeが生まれる場所 2008.5/vol.11-No.2

「手帳は高橋」の定着へ新たな趣向を毎年追求
植村:福井県大野市生まれ。91年多摩美術大学卒。同年電通入社。Honda、サッポロビールなど担当。NY Festival金賞、日経広告賞、電通賞など受賞。
杉谷:富山県富山市生まれ。92年東京大学卒。同年電通入社。Honda、Nikon、第一生命、再春館など担当。TCC最高新人賞、日経広告賞、ACC賞など受賞。
 03年の末、「失礼ですが、あなたは高橋ですか?」「今日、高橋を失った。」など企業を擬人化したコピーとシンプルなビジュアルで注目されたのが、高橋書店「手帳は高橋」の広告だ。
 その後、旬のタレントを起用して話題を呼んでいるが、いわゆるタレント広告とは一線を画し、どこか品のあるインテリジェンスを漂わせている。高橋書店の一連の広告はどのような考えで制作されているのか、アートディレクターの植村氏、コピーライターの杉谷氏に話を聞いた。


──杉谷さんがTCC最高新人賞を受賞したのは、高橋書店を担当した03年末の最初の広告キャンペーンですね。
 杉谷 まず僕のところに話がきましたが、どんな仕事になるかわからなかったから、信頼していた植村さんに声をかけて……。
 植村 たまたま杉谷の後ろに座ってたから、だったと思うけど(笑)。

──ふたりのコンビは、結構長いんですか。

 杉谷 以前からいくつか仕事をしていましたね。この仕事も、ふたりで割と自由にやらせてもらったところがあります。オリエンもシンプルで、知名度を上げてほしいというものだったんです。高橋書店の手帳のシェアはかなりあったにもかかわらず、知名度がそれほど高くなかった。社内では、そのことに歯がゆさを感じていたんですね。

──コピー中心の展開は、最初から考えていたのですか。 

 杉谷 「手帳は高橋」というロゴをつくろう、というのが最初の発想でした。職人っぽい技やこだわりを感じさせるような“タグ”にしたかったんです。そして、コピーで人の目を引く導入を作り、「この広告はどこが出しているのか」と思って見ると、最後にここに目が行く。そうすることで社名を強く印象づける広告を作ろうという方針を立てました。この方針は、タレントを使うようになった今も変わらなくて、実は僕たちが制作しているすべての広告は、この“タグ”を記憶に残すために作っているんですね。

 

──“タグ”の上に乗っているのは……。

 植村 “かものはし”です。“たかはし”と“かものはし”で強引に韻を踏ませています(笑)。もともとこれは、最初のプレゼンテーションで別案のビジュアルとして使っていたものだったんですが、「手帳は高橋」というコピーだけでは、この先のいろいろな展開がしづらいと思って、さりげなく乗っけておいたんです。そしたら、特に議論されることもなくそのまま原稿になってしまった。ふたりで「いいのかなあ」と心配になったりしましたが(笑)。
 後で少しずつわかってきたんですが、どうやら社長は気に入ってくれているらしく、今ではこの“かものはし” の付いた「手帳は高橋」のロゴが、高橋書店の名刺や新社屋の看板にも使われています。
 杉谷 「シンプルだけど、凝っている。」というスローガンも別のプレゼン案に入れていた言葉なんです。“高橋”というブランド名にフォーカスするだけではなく、やっぱりどこかで手帳の良さを強調する必要があると思い、商品に寄った案で使ったのがこのコピーだったんです。時々こっそり外そうとすると、「いや、あれは入れてくれ」と社長に言われる。結果的に見ればロゴマークは、いくつかプレゼンテーションした案の要素を組み合わせたものになっているんですね。

広告と店頭の統一感を


──商品である手帳にも、この“タグ”が使われていますね。
 植村 通常、企業にはロゴマークがあって、そのロゴをどこかで見かけた時に、「あ、あの会社だ」と連想すると思うんですが、他社の手帳も高橋書店の手帳も、そういう目印となるものが弱かったんです。広告を見て売り場に行っても、広告の記憶と商品の接点がないのが問題だと思ったんですね。ならば、商品にもきちんとロゴマークというか、この“タグ”を入れて、そこへブランドの価値がストックされていくようにすべきだと、こちらから提案したんです。
 杉谷 それがきっかけで、04年の暮れからは、店頭やPOP、手帳に付いている帯も含めて、すべてこちらでデザインするようになったんですね。広告を見て、お店に行っても、実際は他社の商品も多く並んでいる。その中で高橋書店の手帳をすぐ認識してもらうためには、広告と店頭のトーンを統一することが重要だと考えたんです。

一味違うタレント広告

──3年目の広告からは、レイザーラモンHGさんや高橋ジョージ・三船美佳夫妻、そして小島よしおさんといった旬のタレントを起用していますが。

 植村 高橋書店の広告は、1年目、2年目で、広告業界では少しは知られるようになりました。しかし、一般の人には、まだまだ「手帳は高橋」という言葉は浸透していない。賛否両論があってもいいから、さらに目立つものを制作しようということになったんです。そういう意味では、社長は理解があり、また、大胆な方でもあるんです。
 2005年にレイザーラモンHGさんを起用した時には、先にコピーができていたんですが、それを誰に発信させるかというところで、いろいろな候補が上がったんですね。打ち合わせを重ねる中で、たまたま冗談半分で社長に「HGって知っていますか」と聞いたら、「知ってるよ。いいんじゃないかな」とおっしゃったんです。言ってはみたものの、僕たちの方が最後まで起用方法に悩みました(笑)。
 高橋書店の取引先である街の書店さんや文房具屋さんからも反響があって、最近は「次は誰が出るの?」という話題作りにも一役買ってくれているようですね。今後の展開は未定ですが、いつも前回以上に目立つことが課題なので、毎年違うことを考える難しさは変わりませんね。
 杉谷 ただ、僕たちは、たとえタレントを使っても、その知名度や人気に寄りかかったタレント広告は作りたくないと思っています。小島よしおさんもそうですが、普通はこういう起用の仕方はしないだろうというひねりを加えた表現を、毎回、模索しています。そこにウィットやインテリジェンスが効いていれば、最初に目指した職人的な世界観に着地するだろうと思っています。
 ブログを見ていると、単なる“小島よしおの自虐ネタ”というとらえ方だけでなく、「『2008年のあなたは、白紙だ。』というエールに勇気づけられて、私も来年に向けて元気が出ました」という書き込みがあったりする。見る側の理解する度合いも上がっているなと思いますね。
 これからも、「手帳は高橋」を印象づけるためのアイデアを考えていきますが、チープな表現にはならないようにしたいと思っています。

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