特集 2008.4/vol.11-No.1

企業広告は進化する
 最近、「企業広告」という言葉をあまり聞かなくなった。しかし、 イメージ広告的な企業広告が少なくなっただけで、環境広告、CSR広告、IR広告、採用広告、社内活性化のためのインナー広告という、 企業のコミュニケーション活動としての明確な目的を持った広告はむしろ増えているのではないだろうか。経営ツールとして重要な役割を担うようになった企業広告の役割を整理し、クリエイティブの考え方や企業ブランド調査についても探った。
コーポレートブランド広告が企業を変える
 企業広告の役割は、どのように変わってきたのか。商品販売のバックアップから企業経営を支える役割へ、さらには企業の変革を加速するための役割へと変わってきたというのが、電通IMCプランニング・センター局長の小林健一氏の見方だ。企業コミュニケーションの研究と実際の企業広告の提案にも長年携わってきた小林氏に聞いた。

 企業広告の役割には大きな流れがあります。その第一期が70年代から80年代前半にかけてです。60年代の日本は毎年10%ぐらいの経済成長を遂げていましたが、70年代に入ると、それが4%から5%に下がります。60年代はみんなが一生懸命働いて日本は経済大国に成長しましたが、この時代は高度成長期から安定成長期に入り、社会、企業、個人すべてが一体となって次の目標を探し始めていたころだったと思います。
 この時代を象徴する企業広告キャンペーンが、富士ゼロックスの「モーレツからビューティフルへ」(70年)です。私自身は75年の入社ですが、このころの企業広告は基本的には商品販売をバックアップするという目的の下に時代への提言や発信を行うものが多く、あまり企業エゴを表に出していません。むしろ、企業が考えていることを社会や個人と共有することによって共感を獲得していこうという企業広告がほとんどでした。社会、企業、個人がひとつの目標を共有できたある意味幸せな時代だったと思います。

事業の多角化とCIブーム

 80年代後半から90年代前半が企業広告の第二期です。今思えばバブル期ですが、企業の業績が非常によくなって、事業の多角化がいろいろな企業で行われました。中には、これまでの事業分野とは何の関連性もない異業種への参入もありました。ところが、事業が多分野に拡大していく中で、改めて自分たちの会社とは何か、何をやる会社なのかを確認し、世の中にも理解してもらわないといけないという問題が起こってきます。これが「CIブーム」の背景だと思います。
 当時は「CI広告」という言い方をしていましたが、企業のロゴを変えることが盛んに行われました。しかし、それはあくまでシンボルで、その根底にあったのは改めて自分たちの企業や事業を定義し直し、それを世の中に伝えることでした。 このCI広告をきっかけに、企業広告の目的が商品販売をバックアップすることだったのが、企業の経営そのものを支える役割を持つようになってきます。そのため、企業広告の目的が細分化することも同時に起こってきました。
 例えば、鉄鋼会社などの重厚長大企業が、採用という目的の下に新聞広告やテレビCMを大々的に使った人材獲得キャンペーンを展開します。また、 CIを行うことによって、社内でも企業の進むべき方向をきちんと共有しようという動きが出てきます。大成建設の「地図に残る仕事」が代表的な例で、社外に対して事業の理解を求めるだけでなく、社内に対して自分たちの仕事に誇りを持ち、活力を上げる目的で企業広告を行うようになってきます。
 また、社会、企業、個人の分化が進んできたことから、ソーシャルコミュニケーションを目的とした企業広告も登場してきます。それ以前からすでに環境広告はありましたが、改めて環境に対する企業の考え方について理解を求め、事業を円滑に進めることを目的にした企業広告が出てきます。また、IR、資金調達を目的にした企業広告も行われるようになってきます。
 人材確保や資金調達など企業広告の目的を各企業が明確に定め、それに向かって広告をする。つまり、企業を支えていくために企業広告という手段を使うようになります。
 また、このころの企業広告には、楽しくとか面白くというバブルの時代らしい特徴がありました。住友金属工業の「やわらか頭」などが代表的な例ですが、世の中の風潮が、そういう方向に向いていたということだと思います。
  こうした企業広告も、バブルが崩壊した後は一時下火になります。消費財メーカーであれば価格訴求の広告を中心に、とにかく買ってもらうことが前面に出てきて、企業広告が低調な時期がしばらく続きます。


変化を加速する企業広告

 今世紀に入ってからの企業広告には、二つの大きな流れがあります。
 一つは、企業を支えるというよりは、「企業を変えるための企業広告」になってきたことです。もう少し具体的に言うと、企業が変わっていくことを加速するために企業広告を打つという流れが出てきています。この背景になっていることを挙げれば、CSR、環境、株主重視の経営、M&A、持ち株会社によるグループ経営、グローバル経営といったキーワードになるでしょう。
 こうしたキーワードからもわかるように、今は経営を取り巻く環境が非常に厳しく、難しくなっています。CSRや環境は企業が成長していくための必要条件で、これを無視した経営は成り立たなくなっていますし、事業の選択と集中を進めていく中で、業態自体が変わっていくこともしばしば起こっています。
 また、株主重視の観点からも、今はどこの企業も経営戦略をきちんと作り、それを実行していかなければならなくなり、その結果についても事実に基づいて開示し、理解してもらうことが今まで以上に求められています。
 こうした経営環境の変化に対応する企業広告の一つに、07年8月からスタートした旭化成の「昨日まで世界になかったものを。」というシリーズがあります。
 旭化成は、事業を世の中に理解してもらうことを目的に、97年から「イヒ!」キャンペーンを10年間にわたって展開していました。このキャンペーンは、途中からアイデアと活力のある企業を作っていこうという社内活性化を目的にするようになったのですが、この間、旭化成はホールディングカンパニー制になり、中期経営計画に基づいたグループ経営を、今まで以上に真剣に考えなければいけない状況になってきました。外に対してはグループの事業を改めてきちんと理解してもらい、内に対しては中期経営計画をベースにしながら、グループ内の意思統一を図り、グループの求心力を高める必要が出てきた。「昨日まで世界になかったものを。」というキャンペーンの目的は、そこにあると思います。
 つまり、企業が変わっていかなければいけないという状況の中で、世の中とグループ内に情報を発信することで、その変わるスピードを加速する、企業が変わることを広告を通じて早めていこうという流れが一つあると思います。




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