マーケティングの新レシピ 2008.4/vol.11-No.1

日本人はクルマが要らないのか?
 スポーツファンや評論家の言うことには、一定の傾向がある。まず敗戦時はやたらと「ダメな理由」を並べ立てる。そして、勝利の際には感情優先で「良かった、頑張った」の大合唱である。
 本来は敗戦理由の冷静な分析から、次のプランを提示するのが重要なのだが、これができる評論家にお目にかかることは少ない。ファンにしても同様である。
 だが、これはスポーツの世界に限ったことではない。ビジネスの世界でも同じではないか。後退期には自虐的になり、調子がいいと浮かれるばかり。常に状況をキッチリと見て、次の手を打つのが当然だが、この「当たり前」が結構難しいのである。

クルマが売れないホントの理由は

 ビジネスが低調の時に議論が混乱するのはなぜか。それは先のスポーツと同じである。噴出する「ダメな理由」の中から「真の理由」を見つけ出すことを忘れて、さまざまなノイズに振り回されるからだ。
 一つのケースとして、日本国内における自動車販売を見てみよう。既にご存じのとおり、国内自動車販売は昨年末に2年連続の前年割れとなった。世界一をうかがうトヨタにしても、国内は苦戦している。どのメーカーも海外市場の販売により利益を上げているのが実情である。
 そうなると、さまざまなところで「売れない理由」について解説がされる。だが、メディアを俯瞰すると、この解説が本当にいろいろなのである。【図表1】に挙げてみたので、ざっと見てみよう。
 さて、どれももっとものように思える。だが、自動車メーカーにとって自らの努力でどうにかなるものはあるだろうか? 実は最初の三つは、メーカーの努力ではどうしようもないところがある。つまり、マーケティングでいうところの「外部環境要因」の中でも、コントロール困難なところだ。
 次の三つはどうか? 若者が携帯やパソコンにお金を使うから……という解説もよく耳にする。一方で、魅力あるクルマがない、という指摘も聞くが、それはメーカーにとって良手なのか? 判断は難しい。
 最後のガソリン高騰自体はどうしようもないが、燃費向上や環境対応は企業努力で可能だし、今後も需要が見込める。こう考えると、たくさんある「売れない理由」に対して打てる手はそんなに多くないことがわかってくる。

ニーズと生活者に立ち返る

 そこで、市場の現状を整理したのが【図表2】である。ニーズとセグメントをきわめて単純化して表にした。ニーズについては「今後のニーズ」の高低で二つにわけた。セグメントについては「現保有者=買い替え層」と「非保有者=新規購入層」の二つとした。
 左側の層は「ニーズに応える」ことが求められるが、右側の層は「ニーズを掘り起こす」ことが求められる。単純にいえばハードルが高いことがわかるだろう。
 まず現保有者で今後のニーズがあるのに買わないAの人々は、どう考えているのか。故障も少なく十分に乗れるのであれば、焦る必要はないと思うだろう。実際に耐用年数は延び続けているのである。背中を一押しする何かがいる。
 現保有者でも将来のニーズが低いBはどうだろう。現在のクルマをできるだけ乗るか、転居などを機にクルマ無し生活を選ぶと思われる。この層の発掘は難しい。
 そうなると、未保有で将来ニーズも低いD層へのアプローチはより困難だ。いわゆるクルマ離れをしている若者はこの層に属するわけだが、彼らは「クルマを持つ」ことへの憧れも低い。「面白いクルマがない」という評論家もいるが、本当に製品の力でニーズを掘り起こせるのだろうか?
 こういう論調は大概「80年代に比べて……」という流れで論じられていることが多い。当時20代だった中年がぼやく、典型的な「年寄りの戯言」のにおいがする。当時の発想で「面白い」クルマを作ることは経営的にはギャンブル発想とも考えられるはずだ。
 最後に現在非保有で将来ニーズがあるCの人はどう行動するか。所得の伸びが鈍く見通しが立ちにくければ、当然余計なコストはかけたくない。必要最小限の機能があるクルマを求めるだろう。
 結局、AかCの人が求めるクルマを供給することが企業戦略の中心となる。そうなると、コンパクトで燃費のいいクルマをコツコツ供給することが基本となるはずだ。特に環境性能は、買い替える際の「背中を一押し」の重要ポイントになる。
 自動車メーカーは十分にこのことをわかっているのだが、メディア情報はこうした構造分析をしていないことが多い。だから「面白いクルマを」という声も聞こえるが、それが決して筋のいい手でないことは先の整理ですぐ見える。
 こうした流れを捉えれば、個々のマーケティング施策もまだ変わるべき点が多い。広告にしても新車発売時に集中的に出稿しイメージ中心に訴求するより、恒常的に性能への理解を深めるコミュニケーションはどうだろうか? 冷静に考えれば、日本にはまだまだクルマが必要なのである。



NAOTO YAMAMOTO
1964年東京生まれ。慶応義塾大学法学部卒業。博報堂に入社後、制作、研究開発、人事局などを経て2004年独立。著書に『話せぬ若手と聞けない上司』『マーケティング企画技術』など。青山学院大学、産業能率大学講師。
http://www.naotoyamamoto.jp/
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