from Europe 2008.4/vol.11-No.1

視覚に訴えるフランスの「決算広告」
 パリ駐在事務所を開設するため、1月末にパリに着き、まだホテル暮らしだった頃、テレビのニュースを毎日にぎわせていたのは、フランス大手金融機関のソシエテジェネラル(SG)の49億ユーロ(約7,700億円)にも上る巨額損失事件だった。先物不正取引の容疑で拘置された31歳の同社ディーラー、ジェローム・ケルヴィエルのトム・クルーズ似の憂いを含んだ横顔を見て、最初は容疑者と気がつかなかった。その後、共犯者捜し、組織としての責任に追及の矛先が向かう一方、SGの買収をめぐるBNPパリバなど欧州各銀行の虎視眈々とした様相が加わり、面白い展開になってきた。
 フランスでは、1月末から3月にかけて前年度の決算報告が行われるが、法律で新聞広告でのアニュアルリポート(年次報告)の掲載が義務づけられている。基本は前年の収支と次年度の見込みの発表だが、日本の無味乾燥な決算公告と違って、営業広告と同じ大きさのカラー広告のため、よく目立つ。
 読売の提携紙フィガロに掲載されたのは、サンゴバン(ガラス)、LVMH(ファッション)、トタル(石油)、ダノン(食品)、グループセブ(調理器具)、サノフィ・アベンティス(薬品)、アクサ(保険)など、広告営業の立場で見ると、喉から手が出そうなラインアップだ。同紙は経済面が充実し、かつ部数が多いため、経済紙のレ・ゼコーよりも、競合紙のル・モンドよりも、この種の広告取り込みに成功しているようだ。
 SGは2月2日付のフィガロ紙で全面のおわび広告を出稿したあと、21日の決算報告日を待たずに、16日付からアニュアルリポートを含んだ企業広告の出稿を始めた(事件の早期収拾を誰よりも願ったのは同社の宣伝担当者だっただろう)。「私たちは前進する、私たちは行動する」というメーンコピーに社員の笑顔を添え、国際性、経済発展への貢献を読者に対してダイレクトに訴えた。
 これに対して、覇権を握ろうとするライバルのBNPパリバは、23日付から登場。通勤時のメトロを舞台に「世界中の人々に語られるこの業績」というコピー一本で、さまざまな人種からなる人々を通じて、同社の国際性や雇用増加などの社会貢献度を間接的に語らせていた。業績をアピールするのが目的のはずだが、2社のやり方は対照的だ。
 広告業界の知人に聞いたところ、業績をひけらかすと国民の反感を買うため、もうかっている企業ほど慎ましやかな表現に徹するよう気を使うようだ。
 各社の決算広告を見て、もう一つ印象的なのは、とにかく数字があふれているのに美しいことだ。グラフを駆使するなどカラフルなデザインは説得力があり、見習うべきところが多い。
 パリに来て約2か月。国民性や文化の違いはいろいろなところに顔を出す。事務所の清掃業者が、最初のアポイントの1時間後に遅刻の連絡をしてきたときは驚いた。数字のデザインには敏感でも、時間への感覚は日本に比べかなり個人差があるようだ。
 これからパリを拠点に、フランスをはじめとするヨーロッパや中東なども含め、各国の国民性や文化にも目配りしながら、本リポートをお送りしていきたい。
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