from America 2008.4/vol.11-No.1

国内「異文化」コミュニケーション
 米国には中南米からの移民であるヒスパニック系住民が多く暮らしている。その数は米人口の14%を超え、4,190 万人にものぼる。ところが、マーケティングリサーチ会社シノベイトがまとめた調査結果によると、「大企業の多くはヒスパニック系消費者へのアプローチに失敗している」という。彼らは合法的な米国民であるものの、自分たちの出自にかかわる文化的・言語的背景を強く残しており、広告をはじめとするマーケティング戦略において独自のアプローチが求められるのだが、「自宅ではスペイン語しか話さない人が多い」、「人と人とのつながりを重視する」といった特徴を踏まえたマーケティングが不十分だというのだ。
 言語については、まず多数のスペイン語メディアが米国に存在していることからも、その重要さがわかる。なにしろ、ヒスパニック系住民の実に75%(全国平均)が自宅では英語を話さず、特にテキサス州やニューメキシコ州では、その割合は90%を超える。彼らの多くは17世紀に移民として定住し、すでに何代も重ねているのにもかかわらず、である。国の中にもうひとつ、スペイン語が公用語の国を抱えているようなものである。
 そのため、自社サイトに英語版に加えスペイン語版を用意する企業が増えてきた。また、マイスペースやリンクド・インのようなSNSも、スペイン語版の提供を開始した。特にSNSは「常に人とつながっていたい」彼らには重要な存在で、マイスペースはAOL Latinoから担当者をヘッドハンティングしてまでスペイン語版の充実に力を入れている。
 彼らはビジネスや取引においても「個人的な関係構築」を求めている。例えば「営業マンと親密な関係が築けない銀行とは取引したくない」とまで考えており、シノベイトは、「この点については単に広告するだけでは効果がない。まず営業マンが顧客の人となりを知り、信頼関係を築き、何かあった時には頼りにされる存在になる必要がある。もちろん、スペイン語は必須である」と説明している。
 米国においては、銀行と顧客の関係は非常にドライなので、これが成人ヒスパニック系住民の貯蓄口座保有率61%、住宅ローン利用率26%、有価証券保有率18%といった低い数字につながっているというわけだ。米国の金融機関への「不信感」は、ヒスパニックメディアによる金融機関格付けランキングで50位以内に入ったのがVISAインターナショナル(46位)だけという結果からも明らかだ。これは、4,000万人市場における膨大な「機会損失」ととらえられても仕方のない状況である。
 米国にはヒスパニック系のほか、アフリカ系やアジア系の国民も多い。
 広告会社のOMDが今年1月に行った調査では、彼らマイノリティーごとにメディアの接触状況が大きく異なるという結果が出ている。ヒスパニック系はラジオ、アフリカ系はテレビ、アジア系はインターネットが接触時間で各1位になっているのに加え、特にアフリカ系では商品購入前に「口コミ」を非常に重要視することが明らかになった。
 効果的なマーケティングを行うためには、訴求対象の特性を踏まえたマーケティング戦略は欠かせない。「マルチ・カルチュラル・マーケター」なる専門職を置く企業や広告会社も増えてきたが、その真価が問われる場面がますます多くなるのではないだろうか。


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