特集 2008.3/vol.10-No.12

メタボ市場は拡大するか!?
花王 体脂肪が気になる時代のヘルシア戦略

 花王の「ヘルシア緑茶」は、お茶飲料初の体脂肪に関するトクホ(特定保健用食品)として03年5月に発売された。次年度には300億円の売り上げを達成するヒット商品となり、その後も移り変わりの激しい飲料市場の中で定番ブランドの地位を確立している。そのブランド戦略を統括するのが、担当ブランドマネージャーの市丸誠男氏だ。市丸氏は、4月から始まるメタボ健診をどうとらえ、ターゲットに対してどのようにアプローチしようとしているのだろうか。


花王のトクホ「ヘルシア緑茶」「ヘルシアウォーター」のラインナップ

――4月から特定健康診査、特定保健指導が始まりますが、どのようにとらえていますか。
 絶好の機会だと思っていますが、我々がやることを特に変えるわけではありません。
 確かに4月から健康診断の中でいわゆるメタボ健診が義務化され、これまでの被保険者だけでなく、その扶養者も対象になる。「奥さんも全部受けなさい」という話ですから、そういう人たちに広く“気づき”を与えられるのは間違いないと思っています。また、メーカー営業と流通の間でも、この機会に関連商品の売り場を広げましょうという話が交わされていると聞いています。消費者の意識も高まるでしょうし、買い物をするときの売り場もそういった“気づき”を与えてくれるでしょう。
 健康診断は4月から始まって6・7月がピークになりますし、7月12日には「人間ドックの日」がありますから、夏休み前に健康チェックが終わって、健診結果が1か月ぐらい後に返ってくる。「あ、おれはメタボリック症候群か」とか、奥さんが健診結果を見て「あなた!」ということもあるでしょう。買い物に行くと売り場がつくられていて、奥さんに「お父さん、ちょっと」と言われるでしょうし、「おまえもだな」とだんなさんが奥さんに言うシーンも出てくるでしょう。確実に市場は活性化されると思っています。

市場活性化のきっかけに

――サントリーの「黒烏龍茶」だけではなく、この4月末には伊藤園もコレステロール値を下げるトクホのお茶飲料を発売すると聞いていますが。
 06年まではトクホ商品の体脂肪・コレステロールカテゴリーでは、「ヘルシア緑茶」がお茶飲料の唯一の商品でした。そこに競合商品が出てくることは、市場の拡大につながるととらえています。調査を見ても、「ヘルシア緑茶」から競合商品へのスイッチはほとんどありません。また、「ヘルシア緑茶」「ヘルシアウォーター」の併飲も2割程度です。ですから、むしろ市場は広がったと見ていいと思いますね。
 飲料市場全体は、今、非常に冷え込んでいます。この冬は気温が低かったこともあって、お茶飲料やスポーツドリンクも前年をかなり割り込みました。そういう厳しい状況の中で、お茶飲料にトクホの競合商品がそろい、4月から新健診制度も始まることは、市場が活性化するきっかけになると思います。
 ただ、その時、我々はどうするかということなんですね。

――先ほど「やることを特に変えるわけではない」と言われましたが。
 もちろん、機会を見て啓発活動は行っていきます。2月第一週の生活習慣病予防週間には3年前から「ヘルスケアフェア」を展開していますし、7月には先ほど言った「人間ドックの日」がある。また、10月は食生活改善普及月間があります。そういう機会をとらえて消費者に“気づき”を与えていこうと思っています。
 正直いえば、今回の新健診制度の盛り上がりにあわせて積極的にヘルシアの効能・効果をアピールしたいという気持ちはありますが、そうできない理由の一つには、トクホの制約があります。
 ヘルシアはトクホであるため、「体脂肪が気になる方に」という許可された表示しかできないし、過度にあおることも、それ以上の効果の約束もしてはいけないという制約があるんですね(注)。その制約の中でギリギリの線で戦っていかなければいけないということです。それは、トクホ商品を抱える各社、同じだと思いますが。

(注)トクホ(特定保健用食品)は厚生労働省が認定した健康食品のことで、91年にできた制度。トクホとして販売するためには、製品ごとに食品の有効性や安全性について人による臨床実験を行い、審査を受け、表示について国の許可を受ける必要がある。医薬品・医薬部外品は「体脂肪を減らす」などの効果を表示できるが、トクホでは、「体脂肪が気になる方に」というように間接的にしか表記できない。

ヘルシアのヘソは「信頼」


――そういう中で、ヘルシアをどう売っていこうと考えているのでしょうか。
 ヘルシアは06年にスポーツドリンクの「ヘルシアウォーター」を発売してユーザーが拡大し、現在800万人以上に習慣的に飲まれています。しかし、私も店頭で189円で買って飲んでいますが、少々高いんですね(笑)。以前聞いた話ですが、昼、コンビニでお弁当を買うとき、1000円で間に合わせようとすると、普通なら900円のお弁当と100円の飲み物が買える。ヘルシアを買うとお弁当を800円にしなくてはならないというんですね。
 そういう中で800万人強の人に習慣的に飲み続けてもらっているのは、ヘルシアに信頼があるからだと思います。ヘルシアの購入理由として「効能・効果」を挙げる人が7割いますが、これはトクホ飲料全体の中でダントツの評価です。それは、これまで我々がヘルシアの効能・効果を粛々とまじめに伝えてきた結果だと考えています。

――ヘルシアの効能・効果をまじめに伝えるというのは?
 「体脂肪が気になる方に」という厚生労働省の許可表示、ヘルスクレームをいかに伝えるかということです。エビデンスに基づいたこと、あるいは正しい飲み方を伝える。それにこれまで特化してきたわけですが、それを今後も変えないということです。そして、その“ヘソ”は信頼だと思っています。

――信頼が大切なのは、なぜですか。
 トクホというのは、普段飲んでいるもの、普段食べているものに置き換えて摂取することで効果が現れてくるものです。ヘルシアは高濃度茶カテキン成分を含んだ飲料ですが、12週間の臨床試験を行った結果、内臓脂肪、皮下脂肪、体脂肪といった腹部体脂肪のすべてが低減したと認められています。つまり、習慣的に飲み続けてもらって効果が現れてくるものなのです。ヘルシアは対症療法の薬ではないということです。
 はじめは、皆さんも興味をもってヘルシアを飲まれる。しかし、対症療法の薬ではないですから、すぐにおなかがへこむわけではない。だから、効能・効果とともに正しい飲み方を伝えていくことが大事なんです。そこを理解してもらって、初めてヘルシアに対しての信頼が生まれると思っています。
 メタボリックシンドロームでは、高血圧、高脂血症、高血糖もリスク要因となりますが、最も重要になるのはその原因となる内臓脂肪を減らすことだと言われています。ですから、今後も、ヘルシアはその内臓脂肪を減らすお手伝いをするということを、正しい飲み方とともに、きちんと伝えていきたいということなんです。

情緒的ベネフィットにも注目

――具体的にはどのようなアプローチを考えているのでしょうか。
 厚労省の調査では05年時点でトクホ市場は6300億円の規模にまでなっています。その中でヘルシアの属する体脂肪・コレステロールカテゴリーは1100億円強の市場規模でした。花王の「ヘルシア」と「エコナ」で、その7割を占めていたのですが、2年たって競合商品も出てきていますので、市場も拡大している。構成比は多少変わったと思いますが、市場としてはここがターゲットになります。
 この市場でヘルシアが信頼を得ていくために何が必要かというと、やはり、ヘルシアを飲むことによって得られるベネフィットは何かを徹底して訴求することです。
 そのベネフィットには、機能的ベネフィットと情緒的ベネフィットがあると考えています。花王は、これまで機能的ベネフィットにこだわってマーケティングを展開してきたのですが、消費者が多様化したことによって、安心感や爽快感など感情的便益を与えてくれる情緒的ベネフィットを伴った訴求でないと消費者は動かなくなっています。そのためには、消費者インサイト、つまり消費者の本音を探って、消費者がヘルシアのどんな点にくすぐられるか、ピンポイントで見つける必要が出てきています。
 「毎日飲むことで無理なく体脂肪を減らせる」という機能的ベネフィットだけでなく、その先にあるもの、例えば「家族全員がずっと健康でいられる」というような前向きな気持ちになれる情緒的ベネフィットを伝えることが、消費者との信頼関係につながると考えています。

消費者の本音にアプローチする

――中高年男性にはメタボの解消を半ばあきらめた人もいて、難しいターゲットだと思うのですが。
 セルフメディケーションの意識が高く、いろいろなことにお金を掛けている人もいますが、検査に引っかかっても、それほど気にしない人もいる。ヘルシアを飲んでいる人は、中高年男性に限らず、女性や若い人もいますが、今は、どちらかというと前者が多い。  
 しかし、メタボの解消をあきらめたように見える人も、本音ではないと思います。これは持論ですが、深層心理を探っていくと、男性にも女性にも常に異性に見られているという意識がある。あきらめてしまうかどうかは、目標設定の示し方次第です。人はあまり高い目標だとあきらめてしまうけれど、「これを少しずつ続ければ、なんとかなる」と思えるならがんばれる。そういう“気づき”を与えていくことが大事だと思いますね。
 今後、広告展開として具体的にどうメディアミックスするか、どうクリエイティブで表現するかは非常に難しい問題です。トクホに許された表現ギリギリの線なのか、あるいは、われわれが伝えたいことをストレートに伝えるのか。どうすれば、ターゲットが共感を持つ形になるのか。
 ただ、それはコミュニケーションの表現レベルの問題で、最初に言ったように、効能・効果をまじめに伝えていくというヘルシアの売り方が大きく変わるわけではありません。




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