From Overseas - London 2008.3/vol.10-No.12

激変した新聞界──イギリスの5年間
 4年8か月にわたるロンドン駐在を終え、日本へ戻った。この機会に、最近5年間のイギリス各紙を取り巻く環境の変化と、業界の対応をまとめてみる。
 マイナス要因のうち、もっとも大きく変化したものは部数だ。
 「タイムズ」「フィナンシャル・タイムズ」など全国高級5紙の合計部数は、2007年12月で約252.0万部。5年前の2002年同月では約270.9万部だったので、7.0%の減少となる。しかも、定価販売部数だけを見ると、この数字は10.1%まで膨らむ。イギリスでは、再販価格維持制度が崩れ、航空会社などへの割引販売が認められており、割引販売部数が増加する一方で、定価販売部数が減少しているためだ。割引部数は16.5万部から23.5万部まで増加し、総部数に含まれる定価販売部数の割合は93.9%から90.7%に下落した。
 この下落の理由は、他の先進諸国と変わらない。主なものとして、インターネットの登場やテレビの多チャンネル化などメディアの細分化、人々の行動様式や興味の変化、フリーペーパーの強大化が挙げられる。
 危機に直面したイギリス各紙は、管理職ポスト数の削減、広告売り上げに結びつかない発行物の廃止、他社との印刷工場共有化などコスト削減に努める一方で、部数の再向上や、新たな収入源の画策を始めた。部数を再度増加させる上での有効策と考えられたのは判型の小型化だが、部数に影響が出たのは短期間にとどまり、結局は再度下落傾向に転じた。その後は有効策が提示されていない。
 一方で、新たな収入源の創出については、多くのアイデアが実行に移された。大きなものとしては、他国への投資、異なるメディア間の垣根の撤廃、インターネット部門での投資拡大が挙げられる。
 他国への投資が行われているのは、成長が期待できる市場に投資することで、自国でのマイナスを穴埋めしようというアイデアだ。イギリスでは新聞市場が成熟してしまったのに対し、経済発展が著しい地域では、部数が増加傾向にあるためだ。
 投資対象として最も注目されているのは、外国企業による持ち株比率を26%まで開放しているインドだろう。「インデペンデント」を発行するインデペンデント・ニューズ・アンド・メディア(本社: アイルランド)、「フィナンシャル・タイムズ」などが、インド紙の株式を一部取得している。しかし、イギリスの新聞社の場合は、以前からオーストラリア、南アフリカなど英語圏を中心に投資を重ねているため、必ずしも目新しい動きというわけではない。
 一方で、メディアの垣根の撤廃は、ここ2年ほどのトレンドと言える。従来、新聞社は新聞を最上位メディアとし、インターネット上の記事や映像は補完的な役割とする考えが大勢を占めていたが、これを消費者側のメディア接触行動の変化に合わせた形だ。記者や編集者は、インターネットに配信することを考慮した記事執筆・編集を求められる。例えば、「デイリー・テレグラフ」の場合は、新聞記事、インターネット上の記事、インターネット上のニュース映像の編集責任を、ひとりの編集局長が負っている。すべてのメディアに同じニュース品質が求められ、特ダネであっても、管理者判断で新聞より先にインターネットに流す場合もある。同様の考えは、「タイムズ」でも導入された。
 インターネット分野への投資は、上記の考えの実践と同時に、広告収入の面で必要となったものだ。イギリスでは、つい最近まで、新聞が案内広告の大半を獲得してきたが、インターネットの登場によって急激に勢力図が変わった。案内広告収入を確保するため、「デイリー・メール」「メトロ」などを発行するデイリー・メール・ゼネラル・トラスト社、「タイムズ」「サン」などを発行するニューズ・インターナショナル社などが、100億円規模でインターネット案内広告サイトの買収を続けている。
 もちろん、イギリスの新聞自体を立て直す方策はとられている。新聞社各社による新聞広告のプロモーションを行う企業の創設、印刷品質の向上などがこれに当たる。しかし、全体を見てみると、従来の知的資産を生かし、国外やニューメディアなど新しい分野で新しい売り上げを創出していこうという方向性のようだ。
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