経済カフェテラス 2008.3/vol.10-No.12

男性消費者の声こそ「飯のタネ」
イラスト
 ここ数年、高級炊飯器が静かなブームである。価格が10万円を超えるものもある。高級化とともに、その機能の進化は著しく、同じコメ、同じ水でありながら、食べる人の好みに合わせて「かため」「やわらかめ」のみならず、「もちもち」「しゃっきり」まで炊きわけるという。
 最近の炊飯器には、スペースシャトルや潜水艇と同じハイテク素材が使われていると聞くと、「すごい!」と思う反面、「おいしいご飯も近代技術の賜物か」とちょっと興ざめするところがある。しかし、どんなに技術が進歩しても、おいしいご飯に炊き上げる原点は、おばあちゃんやお母さんが竃で炊くご飯にあると聞くとホッとする。「はじめチョロチョロ」「中パッパ」「ぶつぶつ言うころ火をひいて」「一握りのワラ燃やし」「赤子泣いてもふたとるな」という火加減の調節を、人間の代わりに機械制御に任せているのが炊飯器なのである。

夫婦で買う高級炊飯器

 コメ消費の減少に歯止めがかからないといわれる一方で、高級炊飯器の静かなブームというのは興味深い。
 ある炊飯器メーカーが炊飯器の購入者に「炊飯器の購入を提案したのはどなたですか」というアンケートをとったところ、3万円台の炊飯器の場合は「奥様9割」と圧倒的に女性が購入を提案しているが、価格が上昇するとともに「ご主人が提案」という比率が増え、7万円台の高級炊飯器では「ご主人」の比率が4割近くに達している。炊飯器に限らず、高額商品では「ご主人が提案」という比率が増えると思われるが、高級炊飯器は夫婦で買いに来るという傾向があるのもおもしろい。
 炊飯器を選ぶ時には、「コメを炊く道具」としての使いやすさを求める使用者としての視点と、「おいしいご飯を食べたい」というコメの消費者としての視点がある。たとえば前者について言えば、炊飯器は台所の常連家電であるから見た目のデザイン性も大切であるし、操作が簡単で、洗いやすいというのも重要な要素である。
 後者の「コメの消費者」という立場では、「家庭で食べるおいしいご飯」により大きな価値を見いだし、炊飯器に投資を惜しまないのは男性だと納得できる。周囲に聞いてみても、「炊きたての、白いほかほかご飯をおなか一杯食べる幸せ」に大きくうなずいてくれるのはほとんどが男性だ。昭和25年(1950年)生まれの私の兄がその典型で、子どもの時から「おかずはなくてもいいから、食事の都度、炊きたてご飯が食べたい」というのが口癖だった。
 一方女性は、ボリューム感よりも、目先の変わったものを少しずつ、いろいろ食べるのが好きだ。外食をして、目の前に一口サイズの小鉢がずらりと並んだだけで幸せで贅沢な気分になる。ご飯もしかりである。白飯も好きだが、炊き込みご飯や混ぜご飯、十穀ご飯などのバリエーションへの関心が高い。
 当然のことながら高級炊飯器を購入した人は、コメへのこだわりも強く、産地から取り寄せたり、高級品種を買い求めたりする傾向にある。男性はコメ消費を間接的に下支えしている存在である。

「おふくろの味」にこだわり
タイトルカット&イラスト・谷山彩子

 これからは「男性消費者」をもっと注目してもよい時代である。たしかに現実的には、食材を買ったり、台所で料理をしたりする機会は女性の方が多いが、意外と家庭で「食のこだわり」を主張している「隠れた消費者」は男性なのではないだろうか。食のキャンペーンは女性をターゲットにしたものが目立つが、「おふくろの味」につながるようなコメや味噌汁といった和食の伝統にかかわる部分では、消費の最後の砦になるのは男性かもしれない。
 たとえば味噌汁。健康情報に敏感な女性は「1日19品目とりましょう」と聞くと、それを実現するために一生懸命になる。19品目を煮物や和え物で摂取しようとすると簡単ではない。そこで、私の周囲に多いのは、朝の味噌汁にできるだけ多くの具材を入れるという女性たち。ここで品目数をかせぐのである。一方、「それでは味噌の香りも味わいも消えてしまう」というのが、朝の味噌汁にこだわる男性諸氏の意見。「健康な食事もいいが、まずはおいしい食事が基本」という声があがる。もちろん一概に男女の違いとは言えないが、同じ「食」であっても、男性のこだわり、女性のこだわりの違いが見えておもしろい。

陰に隠れた「消費者代表」

 食に関する会議で消費者代表として意見を述べるのは、ほとんどが女性。これからは「消費者代表」としての男性の声に耳を傾けてみることも必要かもしれない。
 「消費者ニーズの多様化」とよく言われるが、今や男性が炊飯器購入の決定権を持つように、男性が自ら選択する消費の種類が増えたことも大きな変化のような気がする。
 身の回りの品は妻任せにせず、自分で買う。妻が旅行で留守であれば子どもの面倒を見る。掃除担当を自任する男性も出てきた。料理を作る男性も増えている。男性消費者像について、過去と現在との対照表などあったらおもしろいのではないだろうか。


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