特集 2008.1・2/vol.10-No.10・11

環境問題の「見える化」
カーボンオフセットという考え方
 「カーボンオフセット」とは、自分が排出したCO2の量を知り、その量に応じて省エネや自然エネルギー、植林などの排出削減事業に資金を提供することで、排出分を埋め合わせることだ。この仕組みを個人にまで提供するために設立された非営利組織が、日本カーボンオフセット(COJ)だ。すでに、イオン、積水化学工業、ユニ・チャーム、東京海上日動火災保険、三菱東京UFJ銀行など20数社が協賛企業に名を連ねている。見えない温室効果ガスをオフセットするという考え方の核心はどこにあるのだろうか。

――COJは、どういうサービスを提供する組織なのでしょうか。
 企業や個人に対してカーボンオフセットの仕組みを提供する組織です。カーボンオフセットという考え方はEU諸国では広く市民レベルでも一般的なものになっていますが、省エネ活動だけでは削減できずに排出されてしまうCO2などの温室効果ガスを、それを削減する取り組みやプロジェクトを活用し、打ち消すという考え方です。
 すでに日本の旅行会社からも、飛行機などによって旅行中に排出されるCO2を相殺する料金を上乗せした「CO2ゼロツアー」が売り出されています。これを「カーボンオフセット付き商品」と言いますが、COJは、そういうカーボンオフセット付き商品やサービスを販売しようとする企業に、その仕組みを提供します。また、個人でもCOJのウェブサイトで自分が排出しているCO2の量を算出し、オフセットサービスをオンラインで申し込めるようになっています。個人向けのサービスをオンラインで提供するのは、このウェブサイトが日本初だと思います。
 カーボンオフセットのインフラとして、いろいろな方たちに広く使っていただくプラットフォーム的な役割を果たす目的で作られた非営利組織がCOJです。

――コンサルティング的なことも行っている?
 コンサルティングというより、サポートですね。企業の方は、この仕組みを商品やサービス、あるいはCSRの中にどう生かすかという狙いを持って来られる方がほとんどです。ただ、カーボンオフセットという考え方はまだなじみがないですから、改めてきちんと説明をして、どうすればうまく使えるのかというお話をさせていただいています。その場合は基本的にNDA(秘密保持契約)を結んで、1対1で話をさせていただいています。我々としては日本全体のプラットフォームを目指しているわけで、競合会社も利用されるという理由からです。

国連に認定されたクレジット

――オフセットに温室効果ガス削減プロジェクトを活用するというのは?
 プロジェクトで削減・吸収されたと見なされる温室効果ガスの排出量を「クレジット」と言います。COJは国連が認定した温室効果ガス削減プロジェクトから得たクレジットを購入して、カーボンオフセットサービスを提供します。このクレジットは京都議定書の目標にも算入され、日本の削減目標達成にも貢献します。
 COJが扱っているのは、京都議定書に盛り込まれたクリーン開発メカニズム(CDM)に基づいて発行されるクレジットで、CER(Certified Emission Reduction)と呼ばれるものです。CDMは、発展途上国でCO2の抑制につながるプロジェクトに投資すれば、そこで抑制できた排出量を自国の削減量として計上できる制度で、対象となるプロジェクトかどうかは国連が認定しています。 

――クレジットにはほかの種類もある?
 大きく分けると、京都議定書の規定に基づいて発行されるCERなど国連に認証されたクレジットのほかに、排出削減量を実施主体や民間機関が認証して発行する自主的クレジット(VER)があります。
 もちろん、自主的なクレジットが必ずしも悪いということではありません。草の根的な温室効果ガス削減プロジェクトにも質のいいものはあるわけで、要は、きちんとした認証と組織に関するルールがあればいいわけです。欧米では自主的なクレジットを使ったオフセットが拡大していますが、それを運用するルールが、まだ整備されていないんですね。ルールができて、削減効果が確かめられるなら、将来的には我々も使っていきたいと思っています。

当面は既存のクレジットで

――クレジットはCOJが事前に購入しているのですか。
 クレジットは先行して購入しているものもありますが、今後は需給関係を見ながらですね。それは普通のビジネスと一緒で、在庫をたくさん抱えることになってしまいますから。

――世界中でカーボンオフセットを始めたら、取引するクレジットがなくなるということはないのですか。
 資金が先でもいいわけです。植林や風力発電、バイオマスなどの温室効果ガス削減事業の計画を提示して、資金が集まった段階で実行に移すということもできます。そこで作られたエネルギーをCO2換算して削減効果と見なすことによって新たなクレジットが得られます。その場合は、例えば風力発電のプロジェクトを実行に移すのにも2、3年はかかるかもしれませんね。ただ、我々は、まずは既存のクレジットでやろうと思っています。


企業が避けて通れない温暖化

――EUではカーボンオフセットが一般的になっているということですが。
 カーボンオフセットという市民レベルの運動だけでなく、排出権取引(ページ下部の囲み参照)の市場も大きくなっていますね。EU内だけで流通する独自の排出権を決め、05年からマーケットを作っています。
 アメリカも、京都議定書から離脱して温暖化防止に対して相当後ろ向きな国という印象がありましたが、この1年で様変わりしています。産業界に排出権取引のルールを作ってくれ、という声が高まっているんですね。排出権取引ではEUが先行していますし、グローバルな企業であればあるほど、温暖化の問題を避けて通れないことはわかっている。早くそれに手を打っていかないと、投資家が離れていってしまう。だから、ルールが決まれば彼らは本気で勝ち抜くための投資をしてくると思います。企業は地球温暖化、CO2の削減問題を避けて通れないという認識が、グローバル企業にはもう当然のようにある。それに比べると、日本はまだ動きが鈍い気がしますね。
 ただ、最近企業を回っていると、排出権の問題を放置するわけにはいかないという空気を感じます。やはり株価に影響するんですね。日本企業であっても外国人株主からはカーボンマネジメントをどうするのかという問いかけが来るわけです。それに今後は企業も対応せざるを得ないと思います。

マーケティングの問題へ

――カーボンオフセットが広まれば、世の中は変わりますか。
 カーボンオフセットの考え方は、企業などに温室効果削減プロジェクトで生み出されたクレジットを転売するということではなく、環境意識に目覚めた個人や組織に、クレジットをオフセットサービスという形で提供し、地球温暖化へのより具体的な取り組みを社会全体に広げていくことに意味があると思うのです。
 もちろん、個人がクレジットを活用したオフセットサービスを利用することが一般的になるには、まだ段階を踏んでいかなければならないと思います。しかし、ゴミの回収が有料化する中でも、観光地で出たゴミを自宅へ持って帰る人が増えてきたように、目に見えないCO2を排出することにもコストがかかることや、それが子どもや孫といった将来の世代に良い環境を残すために必要なコストだという意識が、今後はさらに高まってくると思います。
 個人的な意見になりますが、「温暖化問題は市民レベルで動かしていく必要がある」とずっと感じていました。しかし、それは同時に努力レベルや善意のレベルで解決できる問題ではないんですね。削減すれば得になるというような経済合理性に持ち込まないと解決しないだろうと思います。
 COJの末吉竹二郎代表理事は、「CO2削減のためにお金を出すのは大きな一歩だ」とよく言っています。昨日まではCO2の排出に対して誰も責任をとらなかった。今すぐに削減はできないが、せめて金は出すという人が現れたのなら、それは大きな一歩だということです。
 カーボンオフセットに対しては、「単に金を出せばいいのか」という見方もありますが、マクロな視点から見れば、こういう経済合理的な方向でないと地球温暖化は解決できない問題です。先進国は食うに困っているわけではないし、産業革命以降、自ら出してきたCO2であれば、それを削減するためのコストは個人も企業も国も負担していこうよ、ということです。
 善意に期待するだけでは限界がありますから、環境負荷にはコストがかかるという義務的な見方ではなく、これからは、企業にとってマーケティングの問題なんだというポジティブな発想が必要な時代になってきたと思います。


■排出権取引
 温室効果ガスなどの総排出量を抑制するために、企業や国が目標値を上回るCO 2を削減できたり、逆に目標値を下回った場合、排出量の過不足分を市場で売買することを排出権取引という。
 排出権取引には2種類ある。1つは、国連や国などが取引参加者の排出量の上限を定め、これを下回ったところと上回ったところが取引するタイプ。2005年1月にEUで始まった企業間で行われている排出権取引制度が代表例だ。
 もう1つは、本文中にも出てくるCDM(クリーン開発メカニズム)やJI(共同実施)で削減したと見なされるCO 2量を取引するタイプだ。途上国で実施する場合をCDM、他の先進国で実施する場合をJIと呼ぶ。また、これらから生まれた削減・吸収量(排出権)を「クレジット」と呼び、これがカーボンオフセットサービスにも利用されている。
 温室効果ガスの削減方法には省エネ、再生可能エネルギーの導入、植林の3種類がある。




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