特集 2008.1・2/vol.10-No.10・11

環境問題の「見える化」
 今年7月に開催される北海道洞爺湖サミット(G8)では、地球温暖化対策が主要なテーマになる。CO2の削減は、国ばかりではなく、企業や個人を巻き込んでの課題となってきた。環境省では電気製品のCO2排出量を店頭で目に見えるように表示するシステム作りに取り組み始め、流通現場でもエコ効果について表示する動きが広がってきた。また、CO2削減事業などに資金を提供することでCO2排出量を相殺する「カーボンオフセット」という考え方が日本国内にも現れ、事業化が進められている。目に見えない存在のCO2の「見える化」によって新たなステージを迎えた環境問題の今を展望する。
環境競争力の時代へ
 10年前、環境を基軸にした新しい産業革命を「環業革命」と命名し、地球温暖化を防止するためには産業のあり方自体を変える必要があり、それが日本の国際競争力になると訴えてきたのが、ノンフィクション作家の山根一眞氏だ。環境を基軸にした産業のあり方とは? 日本が元気を取り戻すために進むべき方向とは?

――08年は、環境の年になると言われていますが。
 今年は洞爺湖サミット(G8)があります。その関連会合も九つありますが、それがもう3月に始まるんですね。このG8は前回ドイツで開かれたハイリゲンダムサミットを受けて、中心課題は完全に地球温暖化になる。今年から京都議定書の第一約束期間に入るわけですが、06年には中国がアメリカを抜いて世界最大のCO2排出国になったと言われているし、インドも急成長している。両国ともCO2削減義務は課せられてなく、京都会議(COP3)の97年とはまるで世界の状況が変わっています。
 もう一つは、EUは京都議定書の約束をクリアできると言われ始めていますが、日本は目標達成が困難だと言われる中で間違いなく世界の目が日本はどうするかというところに注がれるだろうということです。国としてどうするんだ、ということです。しかし、日本にはCO2削減を大胆に進めるための法的な裏付けがないのです。

北海道洞爺湖サミット間での関連会合
3月14〜16日 千葉 気候変動・クリーンエネルギー及び
持続可能な開発に関する閣僚級対話
4月5〜6日 東京 開発大臣会合
5月11〜13日 新潟 労働大臣会合
5月24〜26日 神戸 環境大臣会合
5月28〜30日 横浜 TICAD(アフリカ開発会議)
6月7〜8日 青森 エネルギー大臣会合
6月11〜13日 東京 司法・内務大臣会合
6月13〜14日 大阪 財務大臣会合
6月26〜27日 京都 外務大臣会合
7月7〜9日 北海道洞爺湖サミット

――「地球温暖化対策推進法」では不十分ということですか。
 世界をリードするようなビジョンが、まだ法律化されていないのです。07年5月24日に、安倍前首相が50年までに世界のCO2の排出量を今の50%にすることを目標にしようという「美しい星50」を提案しました。これは大変いいことですが、法的な裏付けがない。国民や企業の地球温暖化に対する関心は非常に高まっているのに、国そのものにビジョンがないのです。
 日本は2000年に「循環型社会基本法」という世界でも非常に進んだ法律を作って、物のリサイクルに関してのエコ対応は進みました。「モノごみ」を減らして有効活用することが循環型社会、あるいはゼロエミッションと言われる世界ですが、そこでは非常に日本は進んでいる。しかし、モノごみではなくて、CO2など「ガスごみ」に対応するダイナミックな法律がまだできていないのです。
 日本という国は、民間や国民の動きを受けて法律化していこうという体質なのかもしれないですが、少し情けない感じがしますね。新しい政治のムーブメントは、地球温暖化問題を軸に起こってほしいと思います。
 実は、それを象徴することが、最近、オーストラリアで起こっています。オーストラリアはブッシュ政権を支えてイラク戦争に派兵するし、京都議定書も批准していなかったのですが、07年末、政権が代わったとたんにすぐ京都議定書を批准し、バリ島で開かれたCOP13でも大きな拍手をもって迎えられた。それは何を物語っているかというと、国のたった1人の指導者によって地球温暖化対策が進んだり進まなかったりすることを終わらせなければいけない時代になったということなのです。

急速に高まった温暖化への意識

――国民や企業の関心が高まってきたと言われましたが。
 日本の企業や個人の環境意識は、特にこの一年、劇的に変わりました。新聞、テレビでも環境問題が取り上げられない日はなくなってきています。
 また、地球温暖化対策に対して非常に消極的だったアメリカも変わり始めています。ブッシュ大統領の凋落はエコに対して非常に消極的だったことが大きく影響しているし、ゴア元副大統領の『不都合な真実』が注目され、アメリカの産業界も気候変動問題に取り組み始めています。アカデミー賞の授賞式にセレブたちがリムジンではなくてプリウスで来ることがステータスになっているんですね。
 温暖化防止のさまざまな動きが、大きなうねりとなって現れてきた。それがこの一年です。やっと温暖化が産業と結びついて、表裏一体で語られる時代になったということなんです。

――山根さんが「環業革命」という言葉を使い始めたのは10年前ですね。
 97年に僕が「環境を基軸にした新しい産業革命を」と言い出したころは、ほとんど関心が持たれなかったですね。それどころか、05年の愛・地球博で僕は愛知県館のプロデューサーをしたのですが、02年ごろの企画段階で地球温暖化を基本テーマにしようと提案したところ、知事に「環境問題がテーマではイメージが暗い」と言われ、苦労したことも……。
 環境をテーマにした講演を僕は今まで500回はやってきています。環境と言っても、以前のテーマは温暖化だけではなかったのですが、今は「地球温暖化」がメーンです。昨年2回進行役を務めた温暖化がテーマの「環境賢人会議」では、1000人もの方が集まった。間に長い休みがあっても、途中で帰る人がほとんどいないのです。今は、本当に環境の時代になってきた感じがします。

地球温暖化の深刻な影響

――地球温暖化に急速に関心が高まった理由は何ですか。
 目先の技術や工夫では、もう地球温暖化は防げないことがわかってきたからです。地球が温暖化すると何が大変なのか、はっきり指摘する人はあまりいませんが、それは地球上のあらゆる生物が滅びることなのです。人類を含めて絶滅してしまうということなのです。それが2050年には来るのではないかと言われるほど地球温暖化は深刻になってきています。
 IPCC(注)の第4次報告書が07年に出ましたが、この中で初めて生物の問題に触れていて、このまま温暖化が進めば、50年代には地球上の生物の2割から3割、80年代には4割が絶滅すると予測しています。地球上の生物が4割滅びるというのは、バクテリアを含めていなくなるということです。生物の世界を支えているのは食物連鎖ですから、それが成り立たなくなるのです。
 たとえば、農作物が作れなくなったり、変な病気がめちゃくちゃ増えるということが起こる。気象現象も非常に荒くなる。IPCCの第4次報告書ではアマゾンのサバンナ化も予測しているんですね。地球規模で雨の降り方に偏りが起こり、水不足が深刻化する。今でさえ食べる物がない途上国があるのに、食物や農耕地、水を巡って世界は不安に陥る。そうなると、富のある者だけが食物を独占しようとし、戦争が起こる。人類にとって大変な危機が来るということなんです。
 だから、IPCCのパチャウリ議長とアメリカのゴア元副大統領がノーベル平和賞を受賞したというのは当然のことなんです。平和の維持には気候の安定が欠かせない時代になっているのです。
注)IPCC:気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)。世界気象機関と国連環境計画により1988年に設立された国連の組織で、地球温暖化についてのリスクについて最新の科学的・技術的・社会経済的な知見をとりまとめて評価し、各国政府に情報提供することを目的としている。数年おきに発行される「評価報告書」(Assessment Report)は地球温暖化に関する世界中の数千人の専門家の科学的知見を集約した報告書で、国際政治や各国の政策に強い影響力を持つ。

環境を基軸にした産業革命を

――地球温暖化を止めるためにはどうしたらいいか、ですが。
 それを克服する技術を持っているのは先進国、特に工業国しかありません。中でも環境技術に関しては日本は世界のトップにいる。だから、僕は「環業革命」を起こすべきだと言ってきたんです。環境を基軸にした産業を興すことによって、地球温暖化を克服できると思っています。それが企業の国際競争力にもなるのです。
 昨年末、タクシーの値上げがありましたね。売り上げが落ちているし、ドライバーの給料も下がっているのが値上げの理由です。タクシーの運転手さんに聞いたら、だいたいタクシーは1日200キロちょっと走る。燃料は30リッターぐらい使う。タクシーはだいたい55%は流しで走っている。お客さんを乗せていないわけです。30リッターのうちの半分以上は捨てている。だから、燃料の値段が上がれば、ますますコストが増えていくのは当然なんです。
 ところが、その中で運賃を値上げしないで、業績も伸びている会社があるんです。全車プリウスを採用しているからです。このハイブリッドカーは、燃費が3分の1ですみますから。
 個人タクシーのガソリン車では1日のガソリン代が4500円、月20日の稼働で9万円ぐらいかかっているものが、3万円ですむ。エネルギーの消費が下がれば利益が上がるし、競争力になる。だから、日本のタクシー全部をプリウスのような低燃費カーにすれば、値上げの問題も解決できるはずです。
 また、トヨタがGMを抜いて世界一に迫ったと言われている。あるいはデンソーがボッシュを抜いて自動車部品メーカーで世界一に、と。その背景には、やはりエコへの取り組みが間違いなくあるはずです。しかも、京都議定書の約束年開始ということを考えれば、もう日本の企業が進んでいく道は、地球環境問題を抜きにしてはまったく考えられないと思います。
 トヨタの張会長も「良い製品をより安い価格で、しかもエコに良いということが国際競争力になる時代だ」ということを言っている。環境対応がコスト増になると言われていた時代はそろそろ終わりで、逆に競争力になる時代なんです。
 自動車も家電製品も、これからアジアの途上国と戦っていかなければいけない。そういう時に、よりよい性能で、彼らと同じ価格で、しかもCO2排出が少ない製品を作れば間違いなく勝てる。 そうすると何が起こるかというと、途上国、あるいは先進国の競合メーカーも同じところで勝負しないと売れないですから、エコで競争する時代が来る。これが日本の目指すべき国際競争力だと思います。


次のページへ→



 CO2を可視化する
環境省 地球環境局地球温暖化対策課
国民生活対策室 国民生活企画係長 林 俊宏氏→


 店頭からみた消費者のエコ意識
ビックカメラ 営業部 係長 草柳貴之氏→


 カーボンオフセットという考え方
有限責任中間法人 日本カーボンオフセット 事務局長 村上賢之氏→
もどる