特集 2007.12/vol.10-No.9

広告賞から見たクリエイティブの今
世界の広告賞に見る広告の潮流
 90年代まで、日本の広告は海外でも高く評価されていた。しかしここ数年、国際広告賞で日本勢が賞を獲得するのがむずかしくなったと言われている。その原因はどこにあるのだろうか。また、日本と海外のクリエイティブの違いとは何なのだろうか。海外の広告に詳しい電通クリエーティブ・マネジメント局の丸茂巧氏に話を聞いた。

――国際的な広告賞にも、特徴があると思いますが。
 世界的な広告賞はたくさんありますが、その中でも特に大規模なものとしては、カンヌ国際広告祭、クリオ賞、IBA、ニューヨーク・フェスティバルなどが挙げられると思います。
 これらは、総合広告賞なんですね。つまり、広告会社や制作会社に贈られる賞なのです。その中でも、最近、カンヌは抜きん出た存在になっています。作品のエントリー数も約2万5000点にのぼりますし、授賞部門も増えていて、今年は9部門、来年は10部門になる予定です。
 またクリエイター個人に贈られる広告賞としては、イギリスのD&ADやアメリカのワンショーが有名です。D&ADやワンショーは非常に難関で、カンヌを上回る難易度ではないでしょうか。人によって見方は違うと思いますが、D&ADは世界で最も獲得がむずかしく、次いでむずかしいのがワンショーと言われています。ですから、優秀なクリエイターは、若いうちにカンヌで賞を獲得して、次にD&ADやワンショーを目指すと言われていますね。

――日本の広告は、インターネット広告を除くと、国際的な広告賞を取ることが少なくなったと言われていますね。
 90年代は日本もかなり多くの国際的な賞を取っていたのですが、最近はなかなかゴールドやグランプリは取れなくなってきていますね。それは参加国が増えて競争が激化してきたり、日本の広告の世界観が一種独特で、なかなか海外で評価されにくいことが原因だと思うんです。特に新聞や雑誌、ポスターなどのプリント部門での獲得がむずかしくなっていますね。
 海外の場合は、プリント部門でも賞を獲得しているのは雑誌広告がほとんどです。アメリカは新聞大国ですがローカル紙が中心で、広告媒体としては雑誌が非常に力を持っています。日本とはメディア事情が違うんですね。そういう背景から雑誌広告の表現方法が進んでいったのだと思います。ですから、雑誌の隆盛と広告表現の発達はシンクロしているんですね。

 2002年 One Show Newspaper Silver Award
2002年 クリオ賞 プリント&ポスター部門 Grand Clio)
Harvey Nichols(百貨店) Winter Sale: Neck(ウィンターセール:首)
イギリス
「ハーベイ・ニコルズ セール始まる。 ロンドン・リーズ・バーミンガム 1月27日まで。」

ハーベイ・ニコルズは、高級ブランドのブティック。「ただ今セールが始まっている!」と、身体に残る生傷が、激しい争奪戦の末、欲しい商品を手に入れたことを告げている。

ビジュアル+タグライン

――日本の広告表現は一種独特ということですが。
 どちらが上ということではなく、表現方法が違っているというだけの話だと思います。その大きな要因としては、広告のグローバル化があります。90年代以降、広告会社だけでなく、クリエイターもワールドワイドに活動するようになった。その影響を日本はあまり受けなかったということがあります。
 世界でどのような広告表現が主流になっているのか。順に説明した方がわかりやすいと思います。
 まず、60年代にドイル・デーン・バーンバック(DDB)という会社が優れた広告を作って、日本も含めて世界中の会社がそれをお手本にしたんですね。その代表的な広告がフォルクスワーゲンの「Think small(小さいことが理想)」で、大きくて立派な車を持つことがステータスだった時代に、ユーモアに富んだ一連の広告でぐいぐい消費者を引きつけて商品に誘導していった。非常にコピーの力が重視された時代だったんです。テレビが黄金時代を迎える前で、『Time』や『Life』といったグラビア雑誌にそうした広告が掲載されていたんですね。
 それが80年代になると、ビジュアルを駆使するようになってきます。ビジュアルで笑わせたり、面白いと思わせた後で、その商品のメッセージを伝えるという形が出てきた。つまり、コピーから力点がビジュアルに置かれ、その面白さで人を引きつけるようになるんですね。より「ビジュアルランゲージ」が強力になったということです。
 象徴的な事例としては、アメリカ西海岸にあるシャイアット・デイという広告会社が挙げられます。この会社はアップルコンピュータの成功を担ったことで知られています。MACの登場を予告した「1984」という広告や、90年代にアップル・ブランドの再生を図った「Think different.」の広告は特に有名ですね。
 それからアップルコンピュータもそうですが、80年代から90年代にかけてペプシやスミノフ、バドワイザー、イケア、アディダスなど、ブランディングを追求する企業が広告のクリエイティビティーを引き上げていったのです。この時期に、広告は新たな表現を獲得していくんですね。その代表的な例が、ワイデン+ケネディが手がけたナイキの広告です。非常に魅力的なビジュアルで見る人を引きつけて、最後に「JUST DO IT」という鋭いタグラインが入る。こういう「ビジュアル+タグライン」という形態の広告が90年代には続々と登場しました。
 こうして見てみると、最初はDDBのコピーの力、それからコピーに加えてビジュアルアイデアを注入し、それに90年代にタグラインが加わって、一つの完成形に到達したと言えると思います。

 2004年 One Show Newspaper Gold Award
2004年 カンヌ国際広告祭 プレス部門グランプリ)
Volkswagen Cops(警官)
イギリス
「小さくてもタフ。ポロ。」

凶悪犯を追いつめ、包囲する警官隊が隠れているのは、大きなクルマがある中で、小さくてもタフなポロだった。

謎かけからアートへ

――最近は、どういう傾向が出てきていますか。
 実は2000年代に入ってから、広告表現は激変しているんです。それには2つのスタイルがあります。1つは広告にストーリー性を持たせる手法です。60秒以上の長いテレビCMをつくり、息もつかせぬ展開で見る人を引き込んでいき、最後にタグラインで終わるやり方。もう1つは、レトリックを駆使したパズルのようなビジュアル表現が出てきます。ビジュアルが、一種の謎かけになっている。それが非常にテンションの高いビジュアルで、見る人は「何だろう」と思ってついつい広告の謎を読み解くと、「なるほど」という喜びが得られる仕掛けです。プリント広告でも、受け手を参加させることにより、ブランドや商品に対するロイヤルティーが一層高まるということで、競ってそういう手法が取られました。
 謎かけやクイズ形式という表現が登場し始めたのは90年代の後半からですが、2000年以降は世界中のクリエイターがその広告手法に自分たちなりのアイデアを加えていったわけです。
 こういう広告表現がさまざまな広告賞を獲得してしばらく続いていたのですが、最近やや飽きられてきた感が出てきた。ここ2、3年前から、ビジュアルが非常にアーティスティックな方向に向かっています。クイズでもパズルでもなく、非常に美しかったり、奇怪なユニークさを持った表現が出てきましたね。さらに、ウェブとのミックスという手法も出てきています。CMやプリントでインパクトのあるビジュアルを見せて、そこからウェブに誘導する形ですね。

――そういう形になってきたきっかけは何ですか。
 ウェブが力をつけたことも挙げられますし、これまで広告を引っ張ってきた戦後生まれのベビーブーマーの次の世代が広告クリエイティブの主流になってきたこともその要因でしょう。それまでの広告はデザインやアートを勉強してきた人たちが、正統的な手法で作っていたのですが、今の世代は、おもちゃやゲームなどさまざまなポップカルチャーの情報の中で育っていて、それが広告表現に反映され始めていますね。
 また最近のコピーも、DDBのようなきちんとした文法というよりは、いろいろな遊びを組み合わせて表現するようになっています。旧来の文法には縛られずに、自由に発想するようになっている。これは日本でも同様のことだと思います。

 2005年 One Show Newspaper Merit Award
McDonalds Hole(穴)
インド
「ホームデリバリーは1600-00-99にお電話を。」

マクドナルドのホームデリバリーは大忙し。マックのあのキャラクターは、靴に穴があくほど駆けずり回っている。

クリエイターの世代交代


――特に、グラフィック広告の日本と海外の差については、どう思いますか。
 日本のグラフィック広告には細かな技巧があって、表現のレベルは高いですね。昔はきれいで端正な世界を作っていましたが、今は柔軟性に富んだ多様な表現になっていると思います。昔のような骨太のコンセプトで人間の奥行きに触れるような描写は少なくなっているかもしれませんが、人を刺激する技術は多岐にわたっていて、さまざまな意匠がこらされています。
 国際的な広告賞になぜ日本の広告、特にグラフィック広告の入賞が少ないかと言えば、一つにはそういった広告賞に出てくる作品は情報の量ではなく言いたいことのコアがしっかりしている点ですね。逆に、日本ではあれもこれもと情報を入れています。その技術はきわめて高い。よく「日本の広告は幕の内弁当のようにいろいろなものが入っている。欧米の広告は一品料理で人の記憶に残る」なんて言われていますよね。海外の方が見る人を揺さぶるテーマ性をシンプルに強く打ち出した作品が多いのが特徴ですね。

 2006年 One Show Merit Award
2006年 カンヌ国際広告祭 プレス部門 グランプリ)
Lego "Imagine 1"(想像1)/Periscope(潜望鏡)
南アフリカ
「想像してみよう・・・」

青い海原を潜水艇が航行中。それは想像力を発揮すれば何でも創れる玩具、LEGOで創ったシンプル&アート風世界。「想像してみよう」とメッセージする。

日本でもクローバル化の兆し

――90年代以降、日本の企業に元気がなかったことも、国際的な賞から遠ざかっている原因になっているのかもしれませんね。
 それもあるかもしれませんが、日本ではクリエイターが自分のスキルを持って、さまざまな会社を渡り歩くことが海外より少ないことも要因としてあると思います。
 海外では80年代以降、広告会社がM&Aによる離合集散を激しく繰り返してグローバル化したんですね。そこでクリエイターたちも広告賞を取るとそれが勲章になり、自分を高く買ってくれる会社に移るわけです。そうやって、自分のキャリアアップを図るのが海外のスタイルです。また、彼らは国内だけではなく、いろいろな国で仕事をするわけです。アメリカ、ヨーロッパ、南米、アジア、そういった国々を人材がグローバルにどんどん動くんですね。そうすることで、新しいクリエイティブやビジネスを学ぶことができて、鍛えられていくんです。
 先ほど言ったような「ビジュアルランゲージ+タグライン」という手法を身につけたクリエイターは、世界中のどこへ行ってもそれで自分の仕事ができるわけです。今でもその傾向は変わらないと思いますね。

――日本からも国際的に活躍する広告クリエイターは生まれてくるのでしょうか?
 日本にも兆しはあると思いますね。広告業界でも優秀なクリエイターはクリエイティブエージェンシーを作っています。そういう人たちが、これからプレゼンテーションを国内ではなく海外で行って、そのアイデアが採用される可能性はありますよね。英語圏での仕事にそれほど抵抗がない若い人たちも増えていますし、言葉の問題がクリアできればそういう人は増えてくると思います。

――そういう事例はあるのでしょうか?
 電通からもコピーライターを含めてすでに何人も海外のエージェンシーに移っています。日本からも海外へ、海外からも日本へという図式が普通になってくるかもしれません。国内だけを見ていると、そういう動きは見えにくいですが、日本でもそういう空気が臨界点まできているのではないでしょうか。




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