IT弁護士の法律ノート 2007.12/vol.10-No.9

肖像権をめぐる裁判例はまだ発展途上?
 今回は肖像権に関する裁判例を説明します。
 肖像権について最高裁が初の司法判断を示したのは、京都府学連事件の最高裁昭和44年12月24日判決でした。この判決は、肖像権と称するかどうかは別として、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有すると判示しました。しかし、公安条例による無届けデモ取り締まりの事案であったので、警察官がデモ参加者の写真を撮影することが許されるための基準を明らかにしただけにとどまり、私人間における肖像権侵害の成否の判断基準などは示しませんでした。
 その後、この判決をベースに、マーク・レスター事件の東京地裁昭和51年6月29日判決をはじめ、下級審では私人間における肖像権紛争をめぐる多くの裁判例が蓄積され、「人のパブリシティ権」として議論されてきました。
 議論を整理すると、人の肖像権が侵害された場合、通常人なら肖像には一般に財産的価値がないので精神的慰謝料が発生するにすぎません。これに対し、有名人の場合には、その社会的地位に照らして侵害の成立範囲が狭い半面、肖像に財産的価値がありますので、財産的価値の賠償も認められる点で異なるとされています。
 京都府学連事件判決から40年近い歳月が経過した平成17年11月10日、最高裁は肖像権に関する新たな司法判断を示しました。
 事案は、和歌山毒カレー事件の被疑者・被告人の写真を、写真週刊誌のカメラマンが法廷内で撮影、公表したことなどが、肖像権侵害にあたるかどうかについて争われたものでした。
 この判決は、個人の容ぼう等を承諾なく撮影することが私人間で損害賠償の対象となるための基準につき、「被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超える……かどうかを判断して決すべきである」としています。
 さらに、この判決は「容ぼう等を描写したイラスト画についても、これをみだりに公表されない人格的利益を有する」とする新たな判断を示しました。その一方、写真の場合と違って、イラスト画の描写には作者の主観や技術が反映し、公表された場合も、それを反映したものであることを前提とした受け取り方をされるので、社会生活上受忍限度を超えて違法とされるかの判断は、こうした「イラスト画の写真とは異なる特質を参酌すべきである」としています。
 他方で、この判決以降にも、肖像権関連の裁判例として東京高裁平成18年4月26日判決(ブブカスペシャル7事件)が登場しています。
 この判決は「人のパブリシティ権」を、「著名な有名人の……肖像等が有する顧客吸引力を経済的な利益ないし価値として把握し、これを独占的に享受することができる法律上の地位」とした上、「他の者が、当該芸能人に無断で、その顧客吸引力を表す肖像等を商業的な方法で利用する場合」には賠償対象となるとしました。
 以上のように、両判決が示した各基準を体系的に説明できるのかなど、肖像権をめぐる議論は、今なお発展途上の状態といえそうです。
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