Creativeが生まれる場所 2007.12/vol.10-No.9

コーポレートメッセージに奥行きとスケール感を持たせる
山形季央 氏
1976年大阪芸術大学卒業後、株式会社資生堂入社。1982年〜86年にパリに駐在。現在は資生堂が発信する全デザインのディレクションを行っている。1994年、95年、98年ADC賞、2007年ADC会員賞、1996年ニューヨークADC金賞。資生堂の広告のほか、上田義彦「AMAGATSU」、十文字美信「わび」などブックデザインも手がける。
 11月4日、文化の日の翌日、資生堂の「一瞬も 一生も 美しく」というコーポレートメッセージを前面に打ち出した二連版全30段の新聞広告が朝刊に掲載された。ビジュアルには10代〜50代の幅広い年齢層のモデルを起用し、それぞれに資生堂のシンボルフラワーの椿を持たせたものだ。
 現在では珍しくなった広告制作スタッフまでも社内に抱える資生堂の企業広告とはどのようなものだろうか。そして、どんな役割を果たしているのか。クリエイティブディレクターとして同社の広告制作を手がけている宣伝制作部デザイン制作室長の山形季央氏に話を聞いた。


――コーポレートメッセージ、企業ロゴとマーク、12人の女性モデルだけ。きわめてシンプルな紙面ですが、ここに落ち着くまでに曲折は?

 今回は、方向性が決まるまでに時間がかかりました。4月の社内会議を受けて出た案が50はあったと思います。
 しかも当初は、会社にあるファクト、つまり商品やさまざまな企業活動を取り上げて展開しようという方向だったんです。ところが、検討を重ねていくうちに、もっと人の気持ちに触れるような企業広告にシフトしようということになったんですね。
 商品はプロモーション広告に任せながら、我々は「人が美しくなりたいという気持ちを応援したい」という企業姿勢をはっきりさせていくことに注力しようということで、案を練った結果なんです。

――見開き30段は、ずいぶんぜいたくなスペースの使い方に思えますが。
 実は最初、15段で考えていたのですが、「一瞬も 一生も 美しく」というコーポレートメッセージに奥行きやスケール感を持たせたかったんですね。新聞の見開き30段は、確かにぜいたくなスペースだとは思うんですが、見る人をひとつの世界に感情移入させられる理想的なサイズだと思います。
 もうひとつ、こだわったのは滞在時間の長さなんですね。ここにどのくらい時間をかけてもらえるか。家族が一緒に見た場合、そこに起こる会話も期待しました。

――今回も企業広告に新聞を使われた理由は?
 資生堂というのは新聞広告で育ったようなところがある企業なんです。メッセージを受け止める媒体としての存在感を考えると、新聞以外にはないですね。読者のそのときの気持ちが社会と向き合っている、そういう精神状態だから有効という面はあると思います。
 それから、メッセージは社員に向けてもいるわけですね。社員も「一瞬も 一生も 美しく」と言っている企業の社員として恥ずかしくない活動をしなければいけないという点でも、効果があるだろうと見ています。

11月4日 朝刊

外部の力を取り入れる

――今回広告に登場しているモデルの方というのは?
 資生堂の広告にこれまで出演していただいた方たちです。もう少し多い人数を考えていましたがスケジュールの関係で、この12人になったんですね。モデルのお仕事から引退された方もいらっしゃいます。実は、娘さんとご一緒の方もこの中にいらっしゃるんですね。

――撮影はスタジオで一度に撮ったものですか。
 今回の広告は、資生堂にかかわりのある方に一堂に会してもらうというのも狙いだったんです。少女から年配の女性まで、ということも意識しました。面白かったのは撮影の時です。カメラマンは上田義彦さんですが、最初、皆さんスタジオに入ってこられたときに、自由に並んでもらってカメラテストをしたんです。それが、すごく自然な間だったんですね。しかし、いざ本番になって改めて並んでもらうとなんか違うんですね。人は意識すると、自然な距離感がとれないというか。それで、カメラテストの時の写真を見てもらい、改めて並んでもらったんです。

――広告のデザインには博報堂デザインの永井一史さんが加わっていますね。
 今回、悩んだ末にボディーコピーは使用しませんでしたが、コピーライターとしてライトパブリシテイの国井美果さんにも加わってもらっています。企業広告で外部のスタッフに加わっていただく場合は、必ず社内のクリエイティブスタッフと一緒に組んで仕事をしてもらうようにしているんですね。すべて外に任せるということはしません。アートディレクションもコピーも社内と社外のダブルキャストによるコラボレーションを基本にしています。

――そういう方式をとられるようになったのは、いつからですか。
 外部スタッフに入ってもらうことは、以前からやっていました。ダブルキャストにしたのは、現在のコーポレートメッセージからです。その時から資生堂はさまざまな社内改革を試みてきましたが、広告制作という面でもこれまでと違う側面を見せたいと思ったんですね。それで、私が室長になったときに、最初から外部スタッフを入れることを強く提案したんです。

企業価値を伝承する

――社内で広告制作をする企業が減ってきていますが、社内に宣伝制作部がある意義はどこにあるとお考えですか。
 私たちの部署は、企業価値を伝承していく装置なんですね。資生堂の宣伝制作部は、実はマーケティング部門より歴史が古くて、1916年に意匠部という名称でスタートしています。現在ではプロダクトデザインは社内で行っても、広告は外注する企業がほとんどです。私たちのように広告のデザイナーからコピーライター、CMプランナー、カメラマンまでいるセクションというのは世界でも珍しくなっていると思います。
 資生堂に今も宣伝制作部門があるのは、化粧品という商品特性に合っているからだと思います。というのは、化粧品というのは、視覚的な要素が非常に強い商品だからです。化粧品に関するものはすべて新しいイメージでなければいけません。店舗スペースやパッケージデザイン、広告もそうです。何か新しいものを感じとらないと、お客様は関心を示さないと思うんですね。しかし、新しさと同時に大事なのが、資生堂らしさ、独自性です。それは、社内に制作部門を持つことで保たれていると思うのです。

――外部スタッフでは、それができない?
 外部のスタッフでも独自性のあるものは作れると思いますが、問題は継続性です。企業イメージを定着させるためには、ある一定期間、見る人の中にイメージが蓄積されていくことが必要です。外部のスタッフとは広告一点一点のお付き合いはできると思いますが、イメージの継続という点ではむずかしいと思うんですね。
 伝統というと「古いものを守る」というイメージがありますが、私は革新を続けるのが伝統だと考えています。「伝統」の「統」には精神的革新という意味があります。つまり精神的革新を伝えることを伝統と言うんですね。
 資生堂の先輩たちがやってきたキャンペーンを見ても、それまでと同じものはありません。むしろ変わってきています。しかし、そこには資生堂らしさが常にある。それは宣伝部に受け継がれている精神的革新という暗黙知が生きているからだと思うんです。
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