特集 2007.11/vol.10-No.8

出版を元気にする動き
現実感のある50代のためのクオリティー雑誌
 電子出版など新たな動きがある中で、出版界全体を元気にするためには雑誌の存在が大きなポイントになる。春先の40代向け女性ファッション誌につづき、ここに来て50代向け女性誌の創刊が相次いでおり、マガジンハウスでは、10月20日に『クロワッサン プレミアム』を創刊した。竹内正明編集長に目指すものを聞いた。

――なぜ、今50代向けの女性ファッション誌を創刊したのでしょうか。
 これまでも実質的に50代が主たる読者になっている雑誌はありましたが、いわゆる富裕層向けの画報系と言われる雑誌と、健康情報などが中心の実用系の雑誌に二極分化していたと思うんです。僕は、「夢」と「実用性」の両方を兼ね備えているものが雑誌だと思うのですが、このバランスをほどよく保っている雑誌が、50代向けにはないと思っていました。
 また、それらの雑誌は定期購読者の割合が高くて、書店から直接届けられるか、直販される率が非常に高いという共通点もあります。そのため、雑誌編集者は、50代の女性は本屋さんに行って雑誌を買わないだろうという先入観をずっと持っていたんですね。

ファッションに敏感な50代

――その先入観が変わってきたのはなぜでしょう。
 遅ればせながら、今の50代と、10年前、20年前の50代が育ってきた環境はまったく違うということに気づいたんですね。
 例えば、『anan』は、37年前の創刊ですが、現在55歳の方が18歳くらいの時に、日本で初めて出たファッション誌です。オシャレに最も敏感な時期に、初めてのファッション誌に触れたのが今の50代ですから、それ以前の世代とはファッション感覚も、雑誌に求めるものも全然違うと思います。
 もうひとつは、『クロワッサン プレミアム』の母体である『クロワッサン』ですが、ちょうど30年前の77年に創刊されました。当時は、今よりもっと過激な雑誌で、女性解放運動であるウーマンリブやニューファミリーという価値観と非常にリンクしていたんです。当時の特集を見ると、「結婚しないという選択」とか、「悪妻のすすめ」など、過激な内容が多いんです。
 それまでは、「女性は結婚したら家庭に入って奥さんになる」という良妻賢母が美徳とされていたものが、『クロワッサン』では「女性も外に出て働くべきだ」と主張した。今ではごく普通のことのように聞こえますが、当時は非常にとがった雑誌で、知的な女性たちには熱狂的に受け入れられたんですね。

――その当時の中心読者が、今の50代になっている?
 『anan』などのファッション誌でオシャレ感覚を磨いて、『クロワッサン』で女性の自立という新しい価値観に共感してくれた世代ということですね。
 もうひとつは、彼女たちがモノの良しあしがわかってくる30代後半から40代のはじめにバブル経済を経験し、世界の一流品に触れて、本物を見る目が備わっている世代であることも大きいと思います。
 今は50代でも働いている女性はたくさんいます。社会との接点がたくさんあるから、知的で、精神的にも若々しくいられる。つまり、これまでの良妻賢母の「奥様」ではなくて、「外様」にとって必要とされる雑誌というマーケットがあるのではないかと思ったんです。

もう一度読者と対話する雑誌に

――今年の3月に、『クロワッサン』の増刊号として『クロワッサン プレミアム』を発行しましたが、反響は?
 最初は6万5千部を発行しましたが、それほど宣伝をしなかったのに、発売1週間で完売になった書店も多くて、すぐに2万部を増刷しました。非常に手ごたえを感じましたね。
 読者からも編集部に電話や手紙、はがきがたくさん届きましたが、ほぼ100%肯定的な意見で、「自分が読みたい雑誌が、ようやく出てくれた」という声がいちばん多かったんです。
 50代の女性は「雑誌を読まない」「本屋さんに行かない」と思われていたのが、いやそうじゃない、やっぱりオシャレな雑誌に飢餓感を持っていたんだと実感しましたね。
 『クロワッサン プレミアム』は、「上品元気」がキャッチフレーズです。単に「50代のための雑誌」というだけではなく、どんな50代のための雑誌なのかを明示したことで手にとってもらえたんだと思います。

――最近は、富裕層を狙った雑誌も増えていますが。
 富裕層を狙った雑誌というのは、我々のような普通の50代からすると、かなえられない夢ばかり載っている気がするんです。例えば、世界一周クルージングは最も高いプランになると2千万円もするんです。夫婦2人で4千万円です。
 でも、1泊2食で5万円の国内高級旅館なら、普通の50代でも、ちょっとがんばれば行けると思うんです。それは本物を知っている人にとっても、かなり満足できる価値のある旅の情報になるはずです。ただし、1次情報だけなら、ネットやフリーマガジンのようにタダで手に入る情報で十分で、そこにどういう付加価値をつけて提供するかが求められると思うんですね。
 また、ネットと雑誌がどう手を握ればうまく共存していけるかも模索しているところです。実際、タイアップ広告の広告主も、ウェブと連動することを条件に出稿していただけるところが多くなってきています。

――広告主の反応は?
 高級ファッションブランドは、広告を掲載する雑誌に生活感があることを極端に嫌いますね。単純に部数が出ているから広告を出しましょうということにはなりません。でも、最近は高級ブランドの広告を狙ったような雑誌が増え過ぎて、やはり、ある程度の部数も求められるようになってきました。
 だから、「あまりにも広告主の方ばかり向いていて、読者に買ってもらえないようでは困るよ」と広告主からも言われている時期なのかなと思います。読者の方をきちんと向いて雑誌を作ることが、大事になってきていると思いますね。
 最初にも言いましたが、『クロワッサン プレミアム』では、夢と実用性のバランスが必要だと思っています。その「夢」にも、かなえられない夢とがんばればかなえられる夢があります。僕は、「現実感のあるクオリティー雑誌」を作りたいと思っています。ちょうど『クロワッサン』が創刊された当時の読者たちと、もう一度雑誌を通じて対話したいと思っています。
『クロワッサン プレミアム』



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