特集 2007.11/vol.10-No.8

出版を元気にする動き
書店・取次・出版社 情報共有が生むベストセラー
 書店発のベストセラーを作るさまざまな試みが行われている。全国の書店の声を集め、おすすめ本を提案する「ベストセラー発掘project」もその1つだ。この企画がユニークなのは、出版のサプライチェーン・マネジメントを実現するプロジェクトの一環から生まれている点だ。企画した日本出版販売の古幡瑞穂氏に聞いた。

 
――「ベストセラー発掘プロジェクト」を始められた理由からお聞かせください。
 まず、「www.project(トリプルウィン・プロジェクト)」について少し説明させてください。
 プロジェクトを始めたころは、出版業界は「7年連続の右肩下がり」と言われていた時期でした。いまだその状況は続いていますが、それを打破しようと「出版社」「日販」「書店」の3者それぞれが持っている情報を共有・活用できる独自のネットワークを構築し、市場動向をつかみながら3者が適正な注文と配本ができる仕組みをつくろうと立ち上げたプロジェクトです。
トリプルウィン・プロジェクトの仕組み

 日販では15年前くらいからPOSデータの集約を始めていたのですが、それが有効に使われてなかったんですね。それで、このプロジェクトでは、POSデータを使って売れる本を売れる数だけ責任を持って売ってくれるお店にお届けしていこうということで、契約体制の構築を行い、情報を開示するインフラの整備に取り組んできました。そのインフラが「オープンネットワークWIN」(出版社向け情報開示システム)で、現在、約2300書店のサマリーの売り上げデータを閲覧できるようになっています。このシステムを基に、出版業界にサプライチェーン・マネジメントを作っていこうというのが「トリプルウィン・プロジェクト」の目指していることです。
 しかし、そうした取り組みだけでは、出版の右肩下がりに歯止めがかからないし、「売れる本は売れるが、売れるまでは何もやってくれない」という声が上がってきたんですね。
 同時に、当時は『白い犬とワルツを』から始まる書店員発の動きがあって、売り場やPOPに注目が集まり始めた時期でした。本屋大賞が立ち上がったのもそのころです。ただ、そこで話題になった書店は首都圏の書店がほとんどだったんです。首都圏の書店は出版社の営業マンが足しげく通うので、ベストセラーの芽を見つけやすいということがあったんですね。九州や北海道でもがんばっている書店はたくさんありますが、それを全国に広めるすべがなかったんです。
 そこで、「トリプルウィン・プロジェクト」の一環として、当時参加書店は500書店くらいになっていたと思いますが、その人たちが仕掛けている本、一生懸命売っている本を吸い上げて、それを全国展開できないかと考えたのが「ベストセラー発掘プロジェクト」の最初の発想です。

書店情報から「推奨銘柄」を選定

――「ベストセラー発掘プロジェクト」の最初のエントリーは2004年ですね。
 実際に募ったところ110本ぐらいエントリーがありました。そこから、既に売れている作品やご当地ものの作品を外し、10作品に絞って、www.のスタッフ全員が作品を読み、全国的に展開できるものという基準で、4作品を第1回「推奨銘柄」として選んだんですね。

――その中の『セイジ』(筑摩書房)がベストセラーになりましたね。
 もちろん、新聞やテレビに取り上げてもらえるよう私たちの方から働きかけもしましたが、『セイジ』の編集担当が松田哲夫さんだったなど、話題を作る上で幸運も重なったと思います。以後、エントリーの時期は特に設けず、随時募集しています。売れ始めて、これはいけると思ったら、知らせてもらうということです。これまで23企画を提案してきました。

――「ベストセラー発掘プロジェクト」にエントリーする書店というのは、「トリプルウィン・プロジェクト」に参加している書店ですか。
 それが前提ですね。書店が「トリプルウィン・プロジェクト」に参加するためには、その店のPOSデータの開示などを条件にしています。

――ということは、「ベストセラー発掘プロジェクト」で推薦された本の売れ行きも、POSデータでわかる?
 プロジェクトに参加している店舗は、全国で今、約1300店舗ですが、本が店頭に到着した翌日から売れ行きがすぐに出版社にもわかる。それが大きな特徴ですね。

――POSデータである程度本の動きは読めると思うのですが、それを書店の推薦にしたのはなぜでしょう。
『春画』(平凡社)
 基本的にはグロスでデータを見ていきますから、1店舗だけで売れている商品を見つけるのは困難です。
 別冊太陽の『春画』(平凡社)は、京都のふたば書房京都駅八条口店で売れ出した本ですが、お店の方が注目してくださって、売れたら補充を繰り返すうちに200冊以上売れたんです。5月にプロジェクトで取り上げて以来、5万部まで行ったのですが、気づかなければそのまま埋もれてしまう本だったかもしれません。
 ベストセラー発掘プロジェクトで扱う本は、パブリシティーのタイミングで店頭に商品が並ぶように3者が連動して動きますから効果が大きいと思います。

――POSデータの裏付けがあれば、それができる?
 ようやく出版でも、そういうことができるようになりましたね。今まで書店は、売れ行き良好な本をいかに確保するかに努力を続けてきました。しかし、売れる本は注文すれば必要な数だけ入荷できて、逆に、その店でしか売れない本に力を注ぐのが書店の本来の姿だと思うんですね。「トリプルウィン・プロジェクト」も、まだ100%達成はできていないのですが、それを目指したいと思っています。

住吉書房久里浜店
――小さな書店にはベストセラーの初版は回って来ないという話も聞きますが。
 小さい書店でもやる気があって約束さえ守っていただければ、日販で確保している売れ行き良好書を届けるというのも、トリプルウィン・プロジェクト参加のメリットなんです。

――店頭では、「ベストセラー発掘プロジェクト」で選ばれたことを全面に出して展開していませんね。
 プロジェクト自体をブランド化しようとは考えていません。一人の店員がいいと思って推薦してくれた本をPOSデータで検証して売れる可能性を確かめ、それを他の書店にもすすめる。それで十分広がっていくと思うんです。

10代に読書を続けさせる企画を

――若い人は本を読まなくなったと言われていますが、実際はどうなのでしょうか。
 購入者のプロフィルを知る試みとしては、会員制ポイントカード「Honya Club」があります。06年6月に本格的に始めたものですが、会員数は100万人を超えました。これによって、お客様の購買履歴データが取れるようになっています。
 例えば、『春画』の購入層は60歳男性がピークです。その年齢層が購入している本もわかりますし、『春画』を購入している人の購買履歴もわかる。そういうデータを基に、今後は店舗の展開もできるわけです。
 最近分析して面白かったのは、ケータイ小説ですが、読者のピークは14、15歳なんですね。
 年代別ベストセラーも出せるようになっているのですが、10代はケータイ小説を読んでいるか、ライトノベルを読んでいるかなんですね。でも、実際に本屋に来て、買ってくれている。それから、実は小説のメーン読者は40代女性なんです。その間の世代が本を読んでいないんですね。20代、30代がちょっと読書から離れているのが、データからは見えてきている。だから、その間をつなぐ企画を今考えないと、10代の読書が一回断絶してしまうのではないかと危惧しています。

――ライトノベルから小説へは、ハードルが高い?
 値段のハードルなのか、内容のハードルなのか、そこはまだわかっていません。だから、子どもの読者を増やすことは国を挙げてがんばっていると思いますが、もうちょっと可処分所得の高い20代、30代を取り込むことに取り組んでいきたいと考えています。

書店と出版社に付加価値を届ける

――今後の取次会社の役割をどうお考えですか。
 個人的なことで言うなら、私がこの会社に入った理由は出版全体にかかわることができるからです。書店の人は自分の担当の本というのが決まってきますし、出版社も自社の出版物に限られる。データを含め、流通する本全体に触れられるのが取次会社です。確かに本を書店に送っていればいいという時代もありましたが、今は情報も含めた付加価値を、書店と出版社の両側に届けるのが仕事だと思っています。
 今回の「ベストセラー発掘プロジェクト」もまさに、それを狙いに始めたことでした。大手の出版社は販社を持っているところもありますが、出版社の営業マンの数も減ってきて、1人、2人で回っている所も多くなっていると聞いています。そうした出版社の一押しの商品を1300書店に告知することも仕事です。逆に、がんばっている中小の書店の情報を掘り出して、出版社にフィードバックするのも取次会社しかできない仕事だと思います。
 今後は、整備されてきた情報インフラから得られるデータをさらに徹底して使っていきたいと思いますし、それが書店、出版社の売り上げ向上につながればと思っています。



 本は売る人の熱意で動く
丸善お茶の水店 書籍グループ 吉海裕一氏→


 電子出版の文化性とビジネス性
パブリッシングリンク 代表取締役社長 鈴木藤男氏→


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光文社 ハーズ編集部 編集長 新倉博史氏→

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