経済を読み解く 2007.11/vol.10-No.8

世界を変えたグローバル化の潮流
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[1]「豊かさ」と「活力」と


 1990年代初頭に東西冷戦が終結し、中国、ロシアをはじめとする東側にいた国々が世界経済の枠組みに入ってきたことで、商品、資金、人材の国際的な流れが一気に拡大するとともに、産業の再配置が進行した。経済のグローバル化である。
 それにともなって、経済成長が鈍化していた先進諸国の企業は新たな事業機会を獲得し、新興諸国は先進国の企業による投資を足がかりとして、経済発展のプロセスに入ってきた。先進国と新興国の間で、「豊かさ」と「活力」をお互いに提供しあう相互補完関係が構築された。
 その最も顕著な例が、中国の躍進である。90年代中ごろには世界のGDPの2パーセントあまりを占める存在に過ぎなかった中国は、05年には世界の5パーセントを超えた。中国が抱える13億の人口は、当初は低廉な労働力の巨大なプールとして注目され、先進国の多くの企業が製造拠点を配置していった。90年代後半以降、中国製の商品は、衣料品や家電製品、玩具など、さまざまな分野で、低価格を武器に世界の市場を席巻していった。そうした生産活動の活発化にともなって中国が自律的な経済発展のプロセスに入ってくると、今度は潜在的な巨大市場としての存在感が注目されるようになった。世界中の企業が自社の商品やサービスの新たな市場と位置付け、中国で事業を展開しはじめている。
 こうして、中国の人々は「豊かさ」を手にしはじめ、その一方で、先進諸国は経済の「活力」の源であるビジネスチャンスを獲得した。同様の関係は、もう一つの人口大国インドや、東南アジア、中東欧の国々においても動きはじめており、それが近年の世界経済の力強い成長の背景となっている。日本がバブル崩壊の後遺症から抜け出せたのも、多くの企業が、発展段階に入った国々への輸出や現地での事業展開によって業績を好転させたことが効いている。経済のグローバル化は、日本経済の回復の重要な要因の一つとなっていたのである。

[2]浮上した世界規模の難題

 一方、経済のグローバル化は、きわめて深刻な問題を生み出してもいる。第一に挙げられるのが、格差の問題である。先進国と経済発展をはじめた新興国との間の格差は縮小してきている。しかし、先進国の内部では、新興国において低廉な労働力を活用したり、新たな市場を見いだすことに力を発揮した企業経営者たちが巨額の収入を得るようになった一方で、新興国の低廉な労働力や安価な商品との競合を余儀なくされた一般の労働者や中小企業の経営者は収入を抑えられ、所得格差は大幅に拡大した。
 新興国の内部でも、産業発展に乗れた人と乗り遅れた人の間で格差が急速に拡大している。さらに、社会制度の不備や政情不安などのため、経済発展のプロセスに入れていない国も少なくない。このようなさまざまな次元での格差の拡大によって、多くの国で社会不安が生じている。世界中でテロリズムが横行しているのも、経済発展から取り残された人々の閉塞感が、その原動力になっている面がある。
 第二に、中国をはじめとする新興国の急速な経済発展の結果、各種の資源やエネルギーの不足、加えて環境悪化の問題が浮上してきた。グローバル化によって世界経済の成長ペースが上がったことで、各種の資源やエネルギーの需要拡大も加速した。その結果、当座の需給が逼迫すると同時に、長期的な資源の枯渇の可能性にも注目が集まるようになった。その影響で、原油価格は2002年ごろから上昇基調に入り、指標となるWTI原油1バレルあたりの価格は、02年の20ドル台から07年には80ドル台にまで上昇している。
 また、多くの新興国では経済発展を優先するあまり環境への配慮を欠いており、土壌や大気、河川の汚染が深刻化している。中国の大気汚染は、酸性雨などの形で国境を越え、日本にも影響を及ぼしてきている。加えて、世界経済の成長加速によって、地球温暖化の原因とされるCO2の排出量の削減も一層困難な状況になっている。

[3]台頭するナショナリズム

 格差の拡大も資源不足や環境悪化も、きわめて深刻な問題であることは間違いない。しかし、状況をさらに難しくしているのが、ナショナリズムの台頭である。先進国の間では、自国の労働者を守るために、自由な貿易を制限しようとする「保護主義」の考え方が強まってきつつある。また、自国の利益を確保するために、資源を豊富に持っている国はそれを外交における武器としているし、消費国は各種の資源を確保するための外交政策を展開しはじめている。
 CO2の排出削減においても、多くの国が自国の利益を優先する姿勢が目立つ。現行の京都議定書の枠組みには、最大の排出国である米国は参加していないし、第二の排出国である中国は途上国であることを理由に規制を免れている。京都議定書の有効期間が過ぎた後の規制の枠組みについても、各国がそれぞれの利益を主張しており、交渉は難航が予想されている。
 各国の政府が自国の利益を最優先に行動することは、政府がそれぞれの国民の負託を受けた存在である以上、ある意味では当然のことだとも言える。また、一部の国が国益確保に走り出すと、それとの対抗上、他の国も国益を優先せざるを得なくなる。しかし、誰もが自国のことだけを考えていたのでは、格差や資源、環境のような世界的な難題の解決は遠のくばかりだ。これらの難題を打開するには、すべての国の人々が、世界全体の利益を考えることが結局は国益につながるという認識を共有して、行き過ぎたナショナリズムを抑えこんでいくことが第一歩となるだろう。

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