特集 2007.10/vol.10-No.7

新聞広告の力 「きずな」を強める新聞広告の生かし方
パブリックメディアとしての新聞広告 サステナ代表 マエキタ ミヤコ氏
Miyako Maekita
環境NGOのための広告メディアクリエイティブ[サステナ]代表。1963年東京生まれ、台湾、香港、鎌倉、アムステルダム育ち。コピーライター、CMプランナーとして仕事をし、転職情報誌のCMなどで東京コピーライターズクラブ最高賞、新人賞、NYACD賞、AAA賞、ACC賞など受賞。97年より、NGOの広告に取り組み、02年に[サステナ]を設立。日本自然保護協会、ワールドビジョンジャパン、グリーンピースのくじらキャンペーンや「NO WARぬりえピースプラカード」、100万人のキャンドルナイトなどを手がけ、NYTDC賞、東京TDC賞などを受賞。


 「100万人のキャンドルナイト」「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーンなど、数々の広告を通じて人と社会を結びつけてきたのが、環境NGOの広告活動を支援することを目的に作られた広告メディアクリエイティブ「サステナ」だ。社会への情報発信を使命とする立場から、新聞広告はどのようなメディアととらえられているのだろうか。代表のマエキタミヤコ氏に聞いた。

――新聞をどういうメディアだと考えていますか。

 新聞はジャーナリズムと広告が1つになったニュースメディアだと思っています。記事だけではなく、広告にもジャーナリズムが健全に機能してないと、その威力を失ってしまいます。売りたいだけの広告だらけなら、たちまち読まれなくなるはずです。また、「これ買って」という情報だけでも、人は本当にいいものなのかという判断ができなくなります。広告であっても、そこにニュースや比較など客観性を担保する何かが判断のためには必要です。
 メディアが客観性のない広告ばかり載せていると、人は情報のバランス感覚がどんどん鈍くなっていきます。その広告主にとってはいいように思われるかもしれませんが、長い目で見ると、社会にとっても、企業にとっても、決して得策ではないと思うのです。
 新聞の広告とジャーナリズムは対立するもののように見られていますが、実はお互い助け合うことでより価値を発揮するのだと思っています。

新聞広告の力を実感する

――サステナ設立のきっかけは、何ですか。
 個人的には97年からNGOの広告に取り組んでいましたが、サステナの設立は02年です。当時、アメリカがイラクを攻撃しそうだというので、世界中に反対運動が起こりました。「核査察をもう1回やろう」という決意表明をヨーロッパのNGOが出し、世界中の都市でデモが起こったんです。ロンドン200万人、ローマ100万人、ベルリン50万人、ニューヨーク38万人、パリ20万人、ところが東京は5千人だったんです。それで、グリンピース・ジャパンが本部に掛け合ってデモへの参加を呼びかける広告を出すための特別予算を取ってきた。その広告制作にかかわったのがサステナ設立のきっかけです。
 03年3月に新聞に掲載した「NO WARぬりえピースプラカード」がそれで、新聞広告を塗り絵にしてプラカードを作り、デモの当日に持ってきてもらうというアイデアを考えました。色とりどりにその新聞広告を塗ったプラカードを持って、東京では4万人、大阪でも1万人集まってくれたんです。新聞広告の力をまざまざと実感しましたね。

――「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーンもサステナが広告を制作していますね。賛否両論あったようですが。
 基本的な考え方は、世界の貧困を救うのは募金活動だけではなく、政治をも動かさなければいけないということです。そういう市民側からの政策提言を「アドボカシー」と言います。それがこのキャンペーンでは理解されず、「ホワイトバンドをつけよう」という呼びかけが募金活動と受け取られ、残念ながら誤解を生んでしまったところはありますね。そういう理解を広められる力のあるNGOが日本にはなかったし、それを伝えるマスコミも皆無でした。世界的に見ればNGOが政策提言を行うためにキャンペーンを行うことは常識なんです。この問題が起こったとき、どう対処しているか海外のNGOに問い合わせたのですが、イギリスから「そんなクレームは1件もない。今まで日本は何してきたの」みたいなことを言われました(笑)。
 国連もNGOをパートナーと認めています。特に近年大きな課題となった環境問題に関する活動は、学者も行政もNGOもレベルは同じで、言葉は悪いですが、ドングリの背比べなんですね。環境や貧困の問題は、フラットにみんなが知恵を出し合い、話し合わなければ解決しない問題で、誰が偉いということではないんです。その判断材料を提供するのがジャーナリズム、マスメディアの役割です。それは広告を通しても可能だし、そういう意味では、新聞社で働く人たちは記者だけでなく、広告局員もジャーナリストだと思うのです。
 また、「NGOタリフ」という考え方が全世界にあって、NGOに適用される広告料金が、例えばアメリカは正規料金の3分の1、オランダは4分の1になっています。パブリックな情報発信は、民主主義の一翼を担っているし、人々には情報アクセス権がある。その敷居を下げましょうというものです。広告は民主主義のコストを負担することで、社会とのきずなを強めることができるはずです。

広告の枠を広げる

──商品を売るのが広告の基本的な役割だとすると、マエキタさんがやっている広告というのは何なのでしょう。
 広告の枠を広げているのだと思います。広告でこんなこともできます、ということをやっている。NGOの広告がなぜ面白いかというと、人を動かす広告の力を実感できるからです。社会は消費に飽きているのではないでしょうか。経済的に豊かになれば幸せになれる、という時代はもう終わったのかもしれません。人間は消費という行為以外でも、幸せになれる。そういう世の中のほうがいいと思う人が増えたから、こういう広告が効くと思うんですね。
 広告が効かないのは、実は広告のせいではなく、“ネタ”のせいなんです。商品広告よりも、NGOの広告のほうが新しく感じられる。広告の作り手はNGOの広告をやってみたらいいと思うんですね。商品広告だけが広告だという既成概念から抜け出せる気持ち良さがありますし、広告の仕組みや人を動かす仕組みもわかります。

――そういうパブリックなコミュニケーションのためのメディアについては、どう考えていますか。
 コミュニケーションの秘訣は、いかに口コミに乗るかという点にあります。口コミというのは市民の力です。広告って、見せようと思っても見てもらえるものじゃない。みんなが、「あの広告見た?」って話題にするから、見たくなるし、価値が高まってくる。以前、電車の中で「今朝の新聞広告見た?」と偶然隣に座った中年の女性に言われたことがあります。それは、私が作った広告だったんですけどね。新聞などのメディアは口コミと競合していると思ったら間違いです。メディアは競合しているんじゃなくて、生態系と同じように有機的につながっているものなんです。


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