特集 2007.10/vol.10-No.7

新聞広告の力 「きずな」を強める新聞広告の生かし方

 「新聞広告の力」を考える際、従来のリーチやフリークエンシーといった量的な指標だけでは説明がつかないことが多い。メディアの質的な要素に着目する動きが強まる中、最近、特に注目されているのがブランドと消費者との結びつきに対するメディアの貢献度を評価する「エンゲージメント」という考え方だ。「きずな」を強める新聞広告の活用にも応用できそうなこの「エンゲージメント」の考え方で、メディアの効果計測を確立しようというプロジェクトを、VOGUE NIPPONなどを発行するコンデナスト・パブリケーションズ・ジャパンがADKをメンバーに加えて立ち上げた。その考え方と方法について、亀井典明氏に聞いた。

エンゲージメントとは?

――そもそも「エンゲージメント」とはどういう考え方ですか。「きずな」と訳されることもありますね。
 あるブランドと消費者とのつながりを強くするものであれば、すべてそれはエンゲージメントを持つと、私自身は考えています。消費者の心が動いたとすれば、それを仲介したものが複数であれ単数であれ、それぞれ力を持っているはずです。その効果を同じ指標で測ろうということです。
 あるメディアに掲載された広告に接触することによって、消費者の心がA地点からB地点に動いたとしたら、それがどのぐらい動いたのかを測り、それがメディアの効果だという見方をするということです。ただ、AAAA(米国広告業協会)やARF(米国広告調査財団)など広告団体でも見解がまちまちで、まだ定義が定まっていません。

――「メディアエンゲージメント」という言い方もありますね。
 我々はマーケティング目標を達成するための指標としてエンゲージメントを考えているので、つながりができるべきブランドと消費者の間に介在するメディアが、そのブランドにどういうポジティブな影響を及ぼすかに重点を置いています。ブランドの評価がそのメディアを使うことによってどう影響されたかという結果は出てきますから、ある意味メディアの特性を評価しているわけですが、メディアそのものと読者の1対1の関係をみているのではないということです。メディアエンゲージメント、ブランドエンゲージメントという言い方もありますが、区別して考える必要はないと思います。
 エンゲージメントを広告をベースに考えている研究者も中にはいます。たとえば、サッカーを好きな人とそうでない人がサッカー番組を見ながら広告を見た時の効果の違いとか、みんなが集まってサッカーを見ている時と1人で見ている時とでは、広告の効果はどう違うかなど、広告を見る状況を調べて違いを測ろうとしているケースが非常に多いんですね。我々のアプローチはそうではなく、サッカーを見ているテレビ自体にどういう感動を誘う効果があるのかを見ているということです。

――エンゲージメントが注目されるようになった理由は?
 だれもがわかりやすく使える指標ということでリーチやフリークエンシーという指標があったわけですが、簡単であるがゆえにメディアの効果で見過ごされていた部分や誤解が実はたくさんありました。広告に接触しさえすれば、一定の態度変容が期待できるという考え方がその典型です。ところが、メディア環境が複雑になり、単純に説明がつく世の中ではなくなってきたということが、エンゲージメントが注目されてきた理由だと思います。

人間に目を向けた広告効果

――「エンゲージメント」という考え方は、いつごろから出てきた言葉ですか。
 私が初めて公の場で耳にしたのは3年前です。AAAAのカンファレンスが毎年あるのですが、カラ・ノースアメリカのCEOデビッドバークリン氏が、「今後3年間に起こる7つの出来事」というテーマで基調講演をしました。彼は今年のカンヌメディアライオンの審査委員長を務めた人ですが、そのスピーチの中で、これまでクリエイティブの構築手段であった「消費者の経験価値」がメディアの世界にもいよいよ入ってくるという話といっしょに、「エンゲージメント」という言葉が出てきたんです。
 それまでの広告の接触と効果の関係についての見方は、社会心理学では批判されつづけていました。そこに「エンゲージメント」という考え方が出てきた。人間に目を向けて広告効果を計測しようという風潮がやっと出てきたと、その時思いました。
 その背景には、インターネットの普及があると思います。インターネットは購入ツールとしても使えるために、メディアと呼べるのかどうかと言われていますが、そういう購入のトリガーそのものみたいなメディアが出てきたことによって、広告の役割は何なのか、もう一度見直そうという動きが出てきた。そういう中で、メディアを横断的に測る指標が必要になってきたということだと思うんです。しかも、それは心理的な要素をベースにしているということが重要な点だと思うんですね。

――そこから、エンゲージメントの研究を始められた?
 そういう世の中の動きとは別に、個人的には「広告の失敗」に関心を持っていました。世の中には、「広告を成功させるために」という本はたくさん出ていますが、失敗をテーマにした本はあまりありません。失敗どころか、逆にブランドを損ねる広告もあるはずだと思っていたんです。調べていくと、どうもエンゲージメントと関係があることがわかってきた。それが、エンゲージメントの研究に取り組み始めたきっかけです。
 そうしているうちに、アメリカでは雑誌を中心にエンゲージメントの研究が進み、話題が沸騰してきた。『VOGUE NIPPON』を発行しているコンデナスト・パブリケーションズ・ジャパンの発案でこのプロジェクトが立ち上がったときは、日本にもついに波が来たという感じでしたね。

第三のメディア指標

――今回の調査の目的は?
 今回は雑誌でしたが、特定のメディアではなく、さまざまなメディアの効果を同じ計測方法で評価することを前提に行った調査です。それによって、メディアの特性や効果的な組み合わせが浮き彫りになって見えてくるような計測方法を作りたかったということです。
 今までメディアに共通する尺度としては、リーチがありました。しかし、自分自身のことを考えてもわかることですが、大量に広告を浴びれば、そちらに心が傾くかというと、そんなことはありません。そういう人の心の機微が、今回の計測方法で出てくればと考えました。

――リーチというわかりやすい指標を補うのが、エンゲージメントだと?
 これまでの量的な指標か、エンゲージメントか、どちらかを選ぶということではないと思うんですね。そう考えると、エンゲージメントのスタディーは個別のブランドでやるからこそ意味のある結論が導き出せる、ということも言えると思います。
 これまでもメディアは、特に新聞や雑誌は、リーチやフリークエンシーという単純な指標以外に、メディアの質や信頼性を付加して評価されてきました。メディアの質には、読者プロフィルと、メディアの特性の2つがありますが、今までも、リーチだけではない指標がメディアの選択の際には考慮されてきました。エンゲージメントは、それを全否定するものではなく、今後、メディアの評価にもう1つ加えるべき要素だと思っています。
 また、現実問題として、広告主がいきなりエンゲージメントという指標だけでメディアを利用することはむずかしいこともあります。従来の量的データ、質の評価があり、さらに、そのメディアに今のインターネット社会の消費形態に合うような行動を引き起こす力があるなら、さらに加点するし、なければやや差し引いて、そのメディアを評価する。そういうことで、十分エンゲージメントの要素を生かしたメディア評価ができると思います。第三のメディア評価の指標という考え方をしたほうが、過渡期の今にはマッチしていると思いますね。
 これから出てくるメディアを考えると、リーチや既存の質的評価だけでは効果が測れなくなっていくというか、無秩序になっていくと思います。その意味でも、エンゲージメントの研究はやる価値があると思っています。

経験価値を分析指標に

――今回の雑誌のメディア効果の計測ですが、バーンド・H・シュミット(注)の経験価値の5つの指標を使っていますね。
 商品やサービス、広告表現などが人にもたらす心理的な要素は、SENSE(感覚的価値)、FEEL(情緒的価値)、THINK(創造的・認知的価値)、ACT(肉体行動、ライフスタイルにかかわる価値)、RELATE(準拠集団や文化への帰属価値)の5つに集約できるというのが彼の考え方です。優れた商品・サービスは、その5つすべてを提供しているが、ブランドによっては、そのうちの2つか3つだけになっている。逆に言えば、ブランドに補強すべき要素は何なのかという見方ができるということなんですね。これをエンゲージメントの分析指標に使ったものが今回の調査です。
 経験価値の5つの要素をエンゲージメントの分析指標にするというのは我々のアイデアですが、アメリカの新聞や雑誌のエンゲージメントの研究でも、経験価値と関連して語られることが多いんですね。

――メディアのエンゲージメントの具体的な計測方法ですが。
 先ほど言ったように、「ブランドと読者の結びつきに対する雑誌の貢献度」という視点でエンゲージメントを計測しました。その雑誌の貢献として我々が測定したのは、雑誌の価値によってブランドの価値を高める「価値移転効果」とブランドにとって好ましい行動を誘発する「起動効果」です。そして、その分析指標として使用したのが、経験価値の5つの要素です。具体的には、情報探索、購入意向、生活が変化、情報シェアといったACTは、SENSE、FEEL、THINK、RELATEを原因として喚起されるというモデルを基に計測したものです。図2は、その4要素がACTをどのような構造で喚起するか見たものです。

(注)経験価値マーケティングの提唱者。消費者が商品・サービスを購入・利用するのは、かつてはニーズの充足やベネフィット(便益)があるからだという考えが主流だったが、最近では、感覚、情緒などさまざまな要因に左右される部分が大きいと考えられるようになった。多様化した顧客価値を前提にしたマーケティング手法が経験価値マーケティングで、顧客が商品・サービスを購入し、利用する際の体験を意識的にデザインすることで、総合的な顧客価値の提供を図るというもの。


クロスメディアの判断材料

――今回の調査では雑誌以外のメディアも調べていますが、興味を引いたのは、行動を誘発する原因がメディアごとに違うことです。
 例えば、新聞はTHINKが行動を起こさせる大きな要因になっていますが(図3)、そのTHINKはSENSE、その情報の持っているテイストや新しさに影響されます。また、THINKはRELATEにも影響を与えています。

――RELATEというのは?
 特定の新聞を読む人にはある種のイメージがあると思いますが、その新聞を読むことによって、そういう世界に一歩近づくということもRELATEです。あるいは、この場を共有しているという気持ちもRELATEです。ものと自分、社会と自分、ブランドと自分、人と人との近さを表しています。

――新聞には、FEELがありませんね。
 ないということではありません。FEELには信頼性などが含まれますが、新聞ではそれが大前提となっているので、「行動を誘発するもの」と限定した場合に顕在化しなかったんでしょう。すべての要素はあります。また、ブランドによって、この図も違ってきます。実際に今回の調査でも、SENSEとRELATEとACTしか表れない雑誌が、あるブランドではFEELが出てくるんですね。それは、例えば、そのブランドとFEELとSENSEの間に何らかの関係があるからなんです。


ブランドを育てる指標に

――ブランドとメディアの相性というのはあるのでしょうか。
 ファッション誌にアパレルの広告や化粧品の広告を出しても、思ったような効果の出ないケースはあります。また、雑誌自体がブランドをはじくということも出てきました。その雑誌に対して接触頻度の低い人たちには受け入れられても、高関与の読者にははねつけられる広告もありました。それを掘り下げると、逆に、そのブランドを成り立たせている要因や状況が見えてくると思います。
 自動車の広告もファッション誌で調査しましたが、ブランディング効果よりむしろ話題喚起の効果が顕著でした。考えてみると当たり前で、車のブランディングは他のメディアでやり尽くされているからです。
 逆に言えば、あるメディアにどんなブランドの広告を掲載したとしても、何らかの効果があるということなんです。意外な効果が見つかったみたいなことが起こり得る。それがブランドのもつべき価値と合致すれば、使わない手はない。そういう利用の仕方もできると思います。

――ブランドによって、メディアの効果が違ってくるのは、面白いところですね。
 1つのメディアで何でもできるということではなくて、あるカテゴリー、あるブランドが、この状態において効く、効かないという判断が、こういう分析を通して出てくる。そうすることによって、合理的なクロスメディアの発想ができると思います。また、メディアもクライアントに対して、より説得力のある提案ができるようになると思うのです。また、今までのように、インターネットがいいのか、新聞がいいのか、雑誌がいいのかという話ではなくて、3つ組み合わせたらブランドにどう貢献するのかという発想にもなっていくはずです。
 ブランドに欠けている価値をメディアを使って補うという発想は、今までなかったと思うんですね。それは今回のように、ブランドによるメディアの機能を分解しないと見えてこなかったからです。ところが、エンゲージメントでは絶対に新聞でなければできないところがある、中でもこの新聞でないとできないということが明らかに出てくるはずなんです。そのメディアによって、どの価値が付加されるのかが具体的に出てくると思うのです。

――今後どのような方向に研究を進めていくのでしょうか。
 エンゲージメントの計測を完成させることはもちろんですが、もう一つ、メディアが持つ「免疫効果」を研究したいと思っています。先ほど言ったメディアがブランドをはじくということに何か法則があるのか探ってみたいということです。そこには、読者の特性なのか、メディアの特性なのか、何かがあると思っています。それをエンゲージメントの計測の応用形としてまとめてみたいと思っています。

Noriaki Kamei
1990年第一企画(現ADK)に入社。以来メディア戦略立案に従事。2004年にロンドン大学政経学院(LSE)にて社会心理分析法で修士号を取得した後、コロンビア大学ビジネススクール客員研究員として、経験価値マーケティングの投資管理法を研究。併せてメディアエージェンシーMindShareのロンドン、ニューヨーク各オフィスでセールスモデリング、ブランデッドエンターテインメント、新商品開発のプロジェクトに参加。現在はADK東京本社で、マーケティングROI、メディア戦略立案などを担当。



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