特集 2007.10/vol.10-No.7

新聞広告の力 新聞広告を応援する6人のメッセージ
 読売、朝日、産経、東京・中日、日経、毎日の6紙は、各紙が発行する情報誌の10月号で「新聞広告の力」を共通テーマに特集を組んでいる。そのトップで各誌共同で行っているのが「新聞広告を応援する6人のメッセージ」(注)だ。読売新聞では本紙読書委員としても活躍する気鋭の脳科学者・茂木健一郎氏に、脳科学の見地から新聞と新聞広告について語ってもらった。

(注)新聞広告を応援する6人は、茂木健一郎氏(読売)、斎藤 孝氏(朝日)、秋元 康氏(産経)、浅井愼平氏(中日)、小室淑恵氏(日経)、仲畑貴志氏(毎日)。


―――非常にお忙しい生活だと思うのですが、茂木さんは新聞をいつ読んでいますか。
 行儀の悪い話なんですけど、食事の時です(笑)。家で食事をとる時でも、外食でもついつい新聞に手が伸びてますね。
 新聞を読むことは僕にとって「癒やし」なんですよ。癒やしというのを脳科学的に簡単に定義すると、全体性を回復することなんです。人間の脳は、同じところばかり使っていると、だんだん偏ってきて、ストレスがたまってくる。だから、普段使っていない脳を使うと癒やされるわけです。僕は仕事で1日に10時間くらいはコンピューターと向かい合っているので、新聞を読むことで全体性を回復させて脳を癒やしているわけです。
 それから、新聞は紙でできていますよね。紙の原料はさかのぼれば木です。森に入って樹皮に触れるとすごく心が安らいで、ゆったりとした気分になりますね。金属とプラスチックでできたコンピューターを触っているのと、新聞の紙を触っているのとでは全然違うんです。新聞は、触っているだけで癒やされる質感を持っています。

まじめに受け止められる新聞

――茂木さんも仕事でパソコンを長時間使っているということですが、最近ではインターネットで情報を得ている人も増えていますね。
 検索サイトが典型ですが、ユーザーがキーワードを入力したら簡単に情報が得られる、という点ではインターネットは優れていると思います。逆に言えば、インターネットはユーザーがリクエストしたもの以外は提示しないシステムですよね。検索連動型広告もユーザーが打ち込んだキーワードに関連したものしか表示しない。インターネットは新聞のような一覧性とか並列性のないメディアで、新聞に比べると情報が断片的なものなんです。
 それから、日本人の場合、パソコンでアクセスしてる人よりも、携帯電話でインターネットにアクセスしている人が多いですよね。携帯の画面に提示できる情報は、パソコン以上に限られている。一方、新聞はパッと見て情報がわかりますし、見た時のインパクトが強いですよね。

――最近では、インターネットとマス媒体が比較されることも多いですが。
 インターネットは新しいメディアとして注目されていますし、それはそれで伸びると思うのですが、新聞とは明らかにメディアの性質が異なります。ですから、インターネットがメディアとしてどんなに普及しても、新聞がメディアとして重要でなくなるなんてことはありえないと思いますね。メディアにとっても、多様性が重要なんです。
 実は、生物のシグナルの受け止め方の基本原理には、手間をかけたものほどまじめに受け止めるというものがあります。初めて出会った相手や見つけた食べ物が偽物か、本物か見分けることは自然界では命にかかわりますから、生物の本能の一部になっているんです。
 インターネットは手軽にパブリッシュできるけど、逆に情報にはそれほどコストがかかっていないものも多くある。一方、新聞のように紙に印刷して出てくる情報には校正などの手間をかけていたり、取材も慎重に行ったり、いろいろな意味で、お金もエネルギーもかかっているということを僕たちは知っている。ですから、新聞とインターネットでは、情報を受け止める時のまじめさというか、シグナルの強度が違うんですね。言葉が練られていて、エネルギーが込められていることは、人間の脳に自然にわかるんです。

スタンダードという新聞の価値

──先ほど多様性と言われましたが、さまざまなメディアがある中で新聞をどのようなメディアだと考えているのでしょうか。
 社会が多様になってくれば、それだけスタンダードが必要になってきます。それがないと多様性は生きないと思うんです。多様性の原理とスタンダードの原理が同時にないと、社会システムとしてバランスがとれない。つまり共通理解がないと社会はたちゆかないということです。世の中がこれだけ多様になってきているからこそ、新聞の持っているスタンダードは非常に価値があるものだと思います。
 日本の新聞には、それは新聞広告を含めてですが、築き上げてきた文化があると思います。例えば、朝刊の一面の下には必ず書籍広告があります。それから、真ん中あたりには全面広告があったり、企業とタイアップしたいろいろな記事広告がありますよね。こういうスタイルは、日本の新聞が長い時間をかけて築き上げてきた文化だと思うんです。文化は一朝一夕でできるものではなく、長い時間をかけなければできない。言い換えれば、新聞の文化で日本人の脳は発達してきたというところもあると思うのです。そういうメディアは、簡単には廃れないんですね。

──新聞とテレビの違いについてはどう思われますか。
 僕はテレビの仕事をやっているからわかるんですが、テレビというのは情報を圧縮するのが非常に苦手なメディアなんです。特に、テレビCMは15秒、30秒ですよね。その中で、印象を与えることはできますが、商品やサービスについて深い情報を与えることは難しいメディアなんです。
 それに対して、新聞などの活字メディアは、工夫さえすれば、立ち止まらせることができるし、かなり深い情報を与えることができる。さらに、考えさせることができるメディアだと思います。情報が脳に入っていく深度が違うんですね。逆にいうと新聞には、そういう特性を生かした広告を出していくべきだと思います。

──脳科学から見て、その特徴を生かす広告というのは、どういう広告なのでしょうか。
 やはり、本気で作るということですね。大きさも重要な要素で、全面広告だと、その本気度の伝わり方も違うと思います。また、やはり社会の常識や固定観念にある程度挑戦するようなフレッシュな視点も必要です。
 それは新聞の役割とも非常に深くかかわるものだと思います。やはり新聞の命はスクープだと思うんです。それが世の中を動かしていく。新聞広告にも、それと似たところがあると思っています。
 新聞広告におけるスクープのようなもの、「そうだったのか」と納得させるような広告というのは、態度変容につながると思うんです。そういう意味では、少し前に見た宝島社の「団塊は、資源です。」というのはインパクトがありましたね。ああいう広告は、テレビやインターネットではできないアプローチだと思うんですね。

新聞広告の付加価値

――今後、新聞はどのような方向に進むと思いますか。
 新聞は付加価値を高めていく方向に進化していくのではないでしょうか。その付加価値というのは、絶対的なスタンダードというか、広い意味でジャーナリスティックな視点を持ったメディアという意味です。これは、ほかのメディアにはない特色だと思います。
 また、意外と気づかれていないことですが、新聞広告は広告主がスペースを買って掲載しますから、何でもありだと思われていますが、そうではありません。読者も、一般の記事とひとつながりで広告に接しています。ですから、客観性や時代性などいろいろな制約を無意識に受けているんですね。これも、新聞広告の付加価値だと思います。
 新聞広告は、その商品やサービスが、社会の中でどういう立ち位置なのか、どういう意味があるのかという、ある種の批評性を含めて成り立っているということです。 
 例えば、「原子力発電を推進しましょう」という趣旨の企画広告があったとします。その時でも、新聞に載せる以上は全面的にそれを肯定するスタンスはとりにくいということです。客観的に納得できる情報でないと、読者の反発を招くことになります。
 よくニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストに意見広告が載りますが、それが大きな意味を持つのは、この2紙の記事が読者の大きな信頼を得ているからです。日本の新聞でも、それは同じです。つまり新聞としての“格”があるからこそ、そこに意見広告を出してもインパクトがあるわけです。新聞の記事のクオリティーと広告の効果は連動しているということです。
 つまり、新聞広告の価値を高めるためには、その周囲にある記事がしっかりと作られていなければいけないし、記事の価値が高まって、はじめて広告の価値が高まるという関係にある。そこに、新聞や新聞広告に付加価値をつける道筋があると思います。新聞は、日本に誕生して130年余りたちますが、そういう意味で言えば、新聞という文化は、まだまだ発展途上にあると思います。

Kenichiro Mogi
脳科学者。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。 理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経てソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員、東京工業大学大学院連携教授。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係(心脳問題)の研究に取り組む。2006年から読売新聞の読書委員を務める。



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