Creativeが生まれる場所 2007.10/vol.10-No.7

六本木で魔法をかけてパブリシティー効果を狙う
青木大介 氏
1975年大阪府生まれ。1998年神戸大学卒業後、電通入社。関西支社に配属。マーケティング・セクションを3年間経験した後、クリエーティブ局へ。途中2年間、東京本社でも勤務し、ワーナー・ブラザース映画などを担当。NYフェスティバル、ACC賞、OCC新人賞など。
 「今日は街へ出て、魔法をかけよう。」。6月28日の朝刊に、謎めいたコピーの新聞広告が掲載された。その夜、六本木ヒルズでは映画『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』のプレミア試写会が行われたが、そのオープニングで行われたのが、主演のダニエル・ラドクリフが呪文を唱えると、空に向かって光の塔が現れるイベントだ。光の塔の高さは地上600メートルにも達し、気象条件によっては20キロメートル先からも見ることができる大規模なもので、大きな話題を呼んだ。
 このイベントの発想、メディア展開の狙いについて、電通関西支社の青木氏に話を聞いた。


──今回のイベントの発想はどこから生まれたのですか?
 『ハリー・ポッター』は今回で5作目になるわけですが、映画に対するみんなの関心をもう一度高めようと考え、今年の4月くらいに、ワーナーと弊社のスタッフが集まって今回のプロジェクトが動き出したんです。ただ最初は、イベントの話はまったくなくて普通に広告を展開していくという話だったんです。しかし、会議を進めていくうちに「世の中の人を巻き込んだ社会現象みたいなものを起こしたいね」というところから今回の企画が始まりました。そこで出たアイデアが“ハリー・ポッターが魔法をかける”というものだったんです。
 どんなことをすればみんなが驚いてくれるだろうというところから発想して、大規模なものから小規模なものまで100以上のアイデアが出てきました。あとはそのアイデアが実現可能かどうかの技術的な裏付け、道路交通法などの法律的な問題をクリアしていくという流れでした。光の塔を作り出す機材は、アメリカのグラウンド・ゼロで使用されていたものです。交通広告専門のスタッフにも相談して、光の塔で行こうということになったわけです。

――口コミ効果を狙ったということですか?
 口コミだけではなく、マスコミに取り上げられて、そこから話題が広がっていくパブリシティー効果も狙ったものなんです。六本木という局地的なイベントでしたが、大阪でもけっこう知られていて、実際、大阪のプレミア試写会にもたくさんの人が集まってくれました。

みんながわかる表現

――新聞広告は一種のティーザー広告で、イベントの内容にはほとんど触れていませんね。
 映画会社というのは基本的に、映画そのもの、コンテンツが一番の武器になるので、普通はそれをメーンビジュアルするものが多いと思うんです。
 でも今回の広告では、内容には触れずにコピー中心の表現にして、「何が起こるんだろう」というノイズを起こしたかったんですね。
 イベント当日の朝刊ということもあり、パッと新聞を開いた時に、「何だろう」と思ってもらうことが必要でした。そのためには、「魔法をかける」というスゴイことが、なるべくあっさりさらっと書いてある方が効果的だという計算がありました。それで誰もがわかる平易な言葉で書くことを心掛けたんです。『ハリー・ポッター』という映画は、子供から大人までみんなが見る映画ですから、ひとりでもコピーを理解できない人がいては、ダメだと思ったんですね。
 マーケティングの仕事を経験している僕自身としては、コピーやグラフィックだけというよりも、こうしたイベントなどを組み合わせて広がりをもった広告展開をしていきたいと思っています。
 生粋のクリエーティブの人間は嫌がるかもしれないですけど、販促グッズを考えたりするのも好きなんです。やっぱりクリエーティブというのは、あらゆる制作物に責任を負わなくてはいけないと思いますし、販促グッズもクリエーティブの目が届くだけでクオリティーは上がっていきますよね。

――新聞広告以外の展開は?
 新聞広告を出稿する前段階として、フリーペーパー、それと駅貼りや中吊りなどの交通広告で展開しました。
 駅貼りポスターは、例えば渋谷なら「6月28日は、女性に声をかけるより、魔法をかけよう。」としたり、オフィス街なら「部長!今日は、魔法なんで残業はお断りです。」とエリアによってコピーを使い分けました。その交通広告の段階で、六本木ヒルズには「何が起こるんだ」という問い合わせが多数あったようです。

――テレビで展開しなかったというのは?
 テレビは力のある媒体だとは思うんですけど、今回のイベントの狙いは翌日にテレビを含めたメディアに取り上げられるパブリシティーであり、光の塔を見ることができるエリアに住んでいる人がターゲットだったので、あえてテレビでは展開しませんでした。
 新聞は朝一番に触れるメディアとしてインパクトがありますし、交通広告を使ったというのも、街で行うイベントはやっぱり街で見かける媒体のほうがシズルがあると思うんですね。

媒体特性を見極める

――今回の広告はブログでも随分反響があったようですが、ウェブを使った広告展開は考えなかった?
 僕自身は、広告をウェブを中心には考えていません。広告の中心はあくまでマス広告だと思いますし、ウェブがマスになることは考えにくい。やはり、みんなが見ているマスメディアという絶対軸があって、それを補完するメディアとして使う時にウェブは有効だと思っています。
 それと、マスには媒体としての信頼性がある。新聞やテレビなどで流れる商品にはやはりしっかりとした佇まいがありますよね。

――広告ターゲットに届けばいいという考え方がありますが。
 特定のターゲットに届ける場合でも、何だかんだ言って一番効率がいいのは、いまだにマス広告だと思います。
 また、メディアを選ぶ時に、「自分が見るメディア」と一般の人が見るメディアは一緒ではないし、ズレがあるということは認識しておく必要があると思います。私が担当しているある会社が、最近、新聞で『お詫び広告』をやられたときに、それを見て問い合わせの電話をかけてこられた方が本当に多かったんです。自分が思っていたよりも新聞が読まれているという現実を目のあたりにしました。こうした経験を通して、自分の中でズレを修正して肌感覚を作っていかなくてはいけないと改めて思いましたね。

――マスメディアの力が弱まっていると言われていますが……。
 使い方だと思いますね。ラジオなどもターゲットをちゃんとセグメントすれば非常に効き目がある媒体だと思いますし、雑誌ももちろんそうですよね。つまりどの媒体でもその媒体の一番いいところを見つければいいと思うんですね。
 クリエーターは商品の一番いいところを見つけて、それを伝えることが仕事ですが、メディアに関しても同じことが言えると思うんです。メディアをただの箱としてとらえるのではなく、そのメディアの置かれている立場を考えて一番いい使い方をする視点というのもクリエーターには必要だと思います。


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