特集 2007.9/vol.10-No.6

マーケティングリサーチの今



 訪問調査や郵送調査など確立された調査手法と違い、発展途上にあるネット調査の信頼性を疑問視する声もある。しかし、今や、ネットリサーチ会社だけでなく、既存の調査会社にとってもネット調査は当たり前のメニューになっている。日本マーケティング・リサーチ協会(JMRA)は、ネット調査の健全な発展を目指して、2006年11月『インターネット調査に関する品質保証ガイドライン』を公表した。ガイドライン作成に当たった倫理綱領委員会のメンバー、池田達哉氏に、調査を発注する企業が知るべき利用のポイントを寄稿してもらった。


インターネット調査に関する品質保証ガイドラインは、日本マーケティング・リサーチ協会のホームページからダウンロードできます。
http://www.jmra-net.or.jp/user/
 インターネット利用者の増加とともに、ネット調査をマーケティング調査に活用する企業が増えてきました。他の調査手法よりすばやく調査結果が得られる、コストが安くすむといった特徴がその理由です。しかし、調査手法としては発展途上にあり、マーケティング調査でネット調査を利用する場合は、注意すべき点が多々あります。
 そこでマーケティング・リサーチ会社の集まりであるJMRAでは、数年前から調査研究委員会を設けて、議論を重ねてきました。その議論やマーケティング・リサーチの国際組織であるESOMARや英国、ドイツなどのガイドラインを参照して作られたのが、『インターネット調査に関する品質保証ガイドライン』です。これは、JMRAと加盟会員企業の自発的な意思によって採択されたもので、自主規制として、また品質管理上の行動規範として位置づけられるものです。
 このガイドラインでは、「調査のクライアントに公表すべき情報」も定めています。これらの情報は、調査会社の選択や調査結果の読み取りの参考になると思います。以下、そのポイントをまとめてみました。

どんな調査対象者か

 現在主流となっているネット調査は、アクセスパネルを利用してウェブ画面を通じて回答するタイプです。このガイドラインは、このタイプのネット調査を対象としています。アクセスパネルとは、あらかじめ調査に答えてもよいという対象者を登録したデータベースです。実際の調査では、適切な対象者をアクセスパネルから抽出して調査を実施します。アクセスパネルを利用することで、これまでの調査方法では難しかった低出現率の対象者を対象にスピーディーに調査することも可能になります。
 しかし、住民基本台帳などからの無作為抽出ではないので、アクセスパネルでは調査対象者の母集団を明確に反映することはできないなどの限界があります。
 そこでガイドラインでは、まず、アクセスパネルについて次の基本的な情報をクライアントに公開するように求めています。

(1)自社アクセスパネルの構築方法(抽出方法と手順)
(2)アクセスパネルの基本属性構成
(3)本人確認の方法(二重登録やなりすまし登録の排除)
(4)アクセスパネルの更新情報(品質維持・向上)
(5)アクセスパネルの会員数、会員の基準

 調査会社を選ぶ時には、(5)アクセスパネルの会員数、(2)アクセスパネルの基本属性構成(性年齢別、地域、職業別など)が一般に注目されますが、他の3つの項目も一緒に確認することが重要です。
 (1)自社アクセスパネルの構築方法の確認が必要なのは、会員の募集方法によってはパネルが偏り、特定の調査テーマでは結果にバイアスが生じる可能性があるからです。また、(3)本人確認の方法を確認することが必要なのは、訪問調査や電話調査と違い、インターネット調査では対象者に実際には会ったり話したりすることはないので、他人になりすますことも可能だからです。さらに、(4)アクセスパネルの更新情報の確認も必要です。登録後にメールアドレスが変わって連絡できなくなったり、調査に全然協力しない人を含んだ会員数では参考にできないからです。
 この5項目にはありませんが、調査のインターバルも重要です。特定のアクセスパネル会員が頻繁に調査に回答することでバイアスが生ずる恐れがあります。「1か月あたりの依頼回数に上限を設けているか」などもチェックのポイントです。

報告書のポイント

■報告書に記載すべき基本情報
  (1) 調査の目的
(2) 調査対象:
対象者の属性とアクセス
パネルの保有機関
  (3) 調査地域
(4) 対象者抽出方法
  (5) 調査実施期間
(6) 調査方式
  (7) 調査依頼発信数
  (8) 有効回答数
  (9) 有効回収率
  (10) 調査実施機関
(11) 加重値処理
(実施した場合)
 ガイドラインでは、調査の報告書に記載する基本情報についても定めています。これは調査実施の品質を評価し、調査結果を解釈する上での判断材料にするためです。
 特に11項目のうち4つ(表で※付き)が、インターネット調査に特有のもので、それぞれ明記する内容を定めています。(2)調査対象については、他社のアクセスパネルを利用した場合は、使用したアクセスパネルの保有機関を明示すること。(4)対象者抽出方法については、事前調査を行った場合は、その抽出条件を記述すること。(6)調査方式については、調査期間を指定した調査期間設定型か、目標の回収数に達すると締め切る回収数設定型かを明記すること。(11)ウェイトバックなどの加重値処理を行った場合は、その出所・目標値・手順を記載することなどです。
 以上、クライアントの方々が調査会社や調査を評価するときのチェックポイントを中心にまとめてみました。

 本ガイドラインでは、このほかにも調査の品質を高めるため、調査設計、調査実施、調査結果についても基準を設けています。さらに、調査では個人情報の取り扱いが最も重要です。調査会社が守るべきアクセスパネル会員の情報の取得、管理の方法やセキュリティーの確保などを定め、万全を期すようにしています。
 インターネットやITの技術革新は日進月歩で、ネット調査もさらに変化していくと予想しています。今後、適宜このガイドラインを改訂していく予定です。



 カスタマーの声に耳を傾ける調査とは
日産自動車 執行役員 市場情報室 室長 星野朝子 氏→


 ネット調査を補正する「傾向スコア」の可能性
東京大学 大学院総合文化研究科 専任講師 星野崇宏 氏
ビデオリサーチ 調査業務局ネットリサーチ部長 楠木良一 氏→
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