From Overseas - London 2007.7・8/vol.10-No.4・5

ロンドン夕刊紙が抱える問題点
 ロンドンの夕刊市場の構造に変化が起こっている。
 昨年の8月末まで、ロンドンの夕刊市場は有料紙「イブニング・スタンダード」(デイリー・メール・ゼネラル・トラスト社/以下DMGT)の独占状態だったが、無料紙2紙の創刊によって、部数を大きく減少させた。今年5月の「スタンダード」紙のABC部数は273,537部。無料紙が発行される前の昨年8月は313,181部だったので、9か月間で約13%も部数を落としたことになる。
 逆に、創刊直後の2006年9月に359,389部だった「ロンドン・ライト」(8月30日創刊、DMGT社発行)の部数は、2007年5月には400,229部と11%の増加。9月4日創刊の「ロンドンペーパー」(ニューズ・インターナショナル社)も、同時期の部数が327,120部から491,387部と、50%の増加を記録した。
 部数だけを見ると、急速に台頭する無料紙と、その登場によって危機にひんしている有料紙という分かりやすい構図に見える。しかし、様々な不安要素があり、無料2紙も大成功をうたうことのできる状況ではない。
 まずは広告収入面。「スタンダード」と「ロンドン・ライト」をともに発行するDMGTの半期リポート(2007年5月24日発行)には「新聞広告の収益は2%増加の2億3,100万ポンド。ロンドンの夕刊市場(前出2紙)を除くと、増加はほぼ5%に達する」とある。DMGTの発行紙には、看板紙の「デイリー・メール」(2007年5月229万部)と「メール・オン・サンデー」(同227万部)がある。広告収入の面でもこの2紙が占める割合が大きいため、ロンドンの夕刊市場では、発行紙が増えたにもかかわらずマイナスを記録している可能性が高い。
 ニューズ・インターナショナルの親会社であるニューズ・コーポレーション(米)の四半期報(2006年12月31日付及び2007年3月31日付)には、「ロンドンペーパー」の広告売り上げを示唆する記述はない。しかし、姉妹紙「タイムズ」の広告営業担当者によると、「今はまだタイムズなどの広告スタッフが、協力することが多い状況」だそうだ。つまり、「ロンドンペーパー」単体で広告セールスを離陸させるためには、いましばらく時間がかかるものと想像できる。
 次に、発行部数がどこで飽和に達するかという問題がある。無料2紙ともに40万部発行を掲げて創刊された際、広告業界関係者は需要の有無を危惧していた。有料紙「スタンダード」の部数が下落の一途をたどっているロンドンで、計80万部の需要はないとする見方だ。しかし、元々はロンドン中心部での手渡しのみに配布方法が限られていた両紙が、配布地域を外へと拡大することで、見込みを上回る部数が発行されている。「ロンドンペーパー」が都心から離れた新興オフィス街カナリー・ウォーフ、またロンドン郊外へ伸びる鉄道駅での配布場所設置権を獲得。「ロンドン・ライト」もカナリー・ウォーフへの通勤線であるドックランド・ライト・レイルウェイ各駅での配布場所設置権を獲得するなどし、流通網を拡大している。現在、夕刊3紙の合計部数は116万部だが、これ以上の部数増加には懐疑的な声がある。また、発行部数を重視しすぎると、元々のターゲットであるロンドンに通勤・通学する若年層以外の読者シェアが高まり、広告主へのアピール・ポイントを、自ら打ち消すことになりかねない。
 さらに、無料2紙が創刊時に見込んでいなかった巨額コストとして、ごみ問題が挙げられる。4月、ロンドン中心部の自治体であるウェストミンスターが、この問題について無料2紙の発行企業に最後通牒を送りつけた。同地区によると、2紙の創刊からゴミ収集量は1日につき3から4トン増加し、ゴミ総量の約4分の1が無料2紙で占められているという。この収集代とリサイクル費用のため、同地区は2紙に2年間で計50万ポンド(約1億2,000万円)の費用負担を求めているが、現在のところ合意に至っていない。2紙のうち1紙でも支払いに応じない場合は両紙とも同地区での発行を禁止する構えだ。
 エリアを拡大することで増加する配布コスト、広告主やメディア・エージェンシーを引き付けるための宣伝合戦など、さらに出費を要する部分もあり、ビジネスが確立するにはもうしばらく時間がかかりそうだ。
(6月10日)
もどる