栞ちゃん 2007.5/vol.10-No.2

栞ちゃん

Vol.2 風邪の効用。

久々に熱がでまして
よく晴れた日の昼下がり、ふとんをかぶって天井をぼんやり眺めてばかりいる。

こういうとき思い出すことって、
モーレツにどうでもいいことばっかりですね。
(オザケンって、太っちゃったのかなあ)
(ナチュラルローソンのバイトって、顏が怖い人は不可なのかなあ)

あるいは、10歳以前の記憶に飛んだり。
(小2の夏、弟の生き霊を見たなあ)
(東京タワーの外階段を、泣きながら昇らされたなあ)

ヘリコプターの轟音が過ぎてゆく。

正直なところ、悠長に寝ていられるわけでもないのに
風邪薬をのむでもなく、ひたすら横たわっているのは
あの本に100%影響を受けてのことです。

野口晴哉「風邪の効用/ちくま文庫」

風邪は治すものではなく、経過するものである。

そもそも風邪というのは病気なのではなく、それ自体が治療行為なので
早く治そうとして熱を下げようとしたり、
咳を止めようとしたりと中断ばかりしていると、
体の弱いところを残して、だんだん体が鈍くなってゆく。

自然な経過を乱さなければ、
風邪をひいたあとは、蛇が脱皮するように新鮮な体になるのだそうです。

そうはいっても、たいていの場合は
風邪っぽいな、マズイな寝たいな、と思いながら深夜までズルズル働いて
こじらせて医者通い。または先手を打つとばかりに薬をのんでおくのが常。

たとえば、仕事を休めないにしても、
風邪の予感がしたら素直に素早く体を休ませることのできる場所が
街のなかにあったらどうだろう・・・。

「微熱屋」、みたいなもの。
有料の保健室のベッドというか。

まず、受付で検温して、37.5℃以上の方は医者へ行くか、お帰りになってください。
それ以下の方は、個室へどうぞ。

小さいけど清潔な、パイプのベッド。パリッとした気持ちいい麻のシーツ。
室温、湿度管理は完璧。ご希望ならば和室もあります。

消毒の済んだコットンのパジャマに着替えたら、
ルームサービスのメニューをチェック。
すりリンゴ、みかんゼリー、生姜とハチミツ入りミルクティー、
卵粥、きのこ雑炊、煮込みうどん、黒焼きネギ、牡蛎鍋なんてのもある。

あったまったらベッドヘ。
BGMはどうしよう。iTunesの中には、ボサノバからグレゴリオ聖歌まで何でもあって
「キッチンでお夕飯の支度をする音」という選択も可能。

それでは、60分後にお目覚めということで。ゆっくりおやすみなさいね。
と、お母さんみたいな声で言われる。

・・・なーんて。
やっぱり風邪のとき考えることって、モーレツにどうでもいいことですね。

すみませんがあともうちょっとで
蛇が脱皮したようなフレッシュな体になりそうなんで、このへんで。
おやすみなさい。

国井美果(文)
ライトパブリシテイ コピーライター
本誌デザイン
帆足英里子(デザイン・写真)

ライトパブリシテイ アートディレクター


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