From Overseas - NewYork 2007.6/vol.10-No.3

グローバル展開にローカルな視点を

 米国では今、各国の実情に合わせて広告のクリエイティブをローカライズする動きが高まっている。
 アップル社の「マック」と「パソコン」による掛け合い形式のテレビCMやストリーミング配信によるオンライン広告は、すでに日本でもおなじみだと思う。これは同社のグローバルキャンペーンの一環であり、20か国でおよそ5億ドル(約600億円)をかけ、66億回もの露出を目標に展開されている(インターナショナリスト誌)。オムニコムグループのTBWA\シャイアット\デイが制作した全24パターンのCMの多くが、米国と共通の映像を用い、内容を変えずに吹き替えのみを行って放送されている。
 しかしながら、中には刺激的な比較広告であったり、内容的に問題があるため、他国では日の目を見ないCMもある。日本でも特別仕様分を含め8パターンしか放送されていない。
 例えば米国ではBetter Resultsと題したCMがあり、それぞれが編集したビデオ作品を披露しあう。マックが「作品」として美人女性を連れてくるのに対し、パソコンは女装した毛むくじゃらのいかつい男性を連れてくる。ビデオ編集に優れているマックの優位性をアピールしているわけである。
 刺激的な比較広告は消費者から嫌われる日本ではCMを厳選すると共に、登場人物にお笑いコンビ「ラーメンズ」を起用、彼らのキャラクターの力を借りてマックの良さを印象づけている。パソコン役には「ユーモアあふれるボディーランゲージ」(いわゆるボケ役)を演じさせ、言葉や視覚による直接的な差別化を回避している、とウォール・ストリート・ジャーナルは分析している。
 アップル社のこのキャンペーンは、米国企業がクリエイティブをローカライズする動きの一例である。それは米国企業にこれまで欠けていた視点である。WPP傘下、ジェイ・ウォルター・トンプソンのホア氏は、「(グローバル広告戦略において)『フリーサイズ』という言葉はない。一種類のクリエイティブをただ流すだけではもう効果がない」と明言する。アップル社はイギリスでも特別仕様のCMを放送しており、「グローバルキャンペーン」といいつつも、同一クリエイティブを使用すればいい、という時代は終わりを告げたとも言える。
 かつてペプシが明らかな比較広告(MCハマーを起用したCMや目隠しテスト「ペプシチャレンジ」など)をグローバルで展開した際、日本国内で大きな批判が起きた。そのような経験が、広告主が意識を転換する理由になったと考えられる。
 しかしながら、ローカライズは広告主や広告会社にとって、依然として難題である。P&Gは「ハーバルエッセンス」シャンプーの日本向けCMで、本国のクリエイティブを意図的に吹き替えのみで使用している。女性が興奮して「Yes! Yes!!」と叫び、性的なものを連想させるCMでは、明らかに米国製とわかるクリエイティブでないと消費者の理解が得られないという判断が背景にある(ビーコン・コミュニケーションズ、コバリク氏)。
 また、ローカライズの過程で失われるものもある、とウォール・ストリート・ジャーナルは指摘している。マックとパソコンのCMでいえば、登場人物の服装の持つ意味である。米国版のマックの服装は、米国では一般的な「オフィスカジュアル」であり、ラフに見えて実は仕事中でもある。それが暗に示しているものは、彼がIT起業家や最先端技術者、トップクリエイターのような「リッチで格好いいプロ」だということである。その視点は日本版にはない。コバリク氏には、「日本のマックはユニクロを着ているように見える」と映っている。
 では、今回のキャンペーンでアップル社のローカライズは消費者にどう受け止められているのだろうか。日本同様に現地の俳優を起用し、特別仕様で放送されている英国では、同社のブランド評価が下がるという結果になっている(YouGov社調査)。日本でも、むしろ「パソコン」のとぼけたキャラクターに親近感を覚える人は多いのではないか。
 ローカライズは緒に就いたばかりだ。各国の実情に合わせた、キメの細かい対応に消費が左右されるのも事実である。ローカライズはかくのごとく難しい。

(5月7日)
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