特集 2007.5/vol.10-No.2

最強の「マイメディア」モバイルの今日と明日

モバイルサイトの現状と広告配信サービス シリウステクノロジーズ 代表取締役社長 宮澤  弦氏
●Gen Miyazawa
1982年北海道札幌市生まれ。2004年東京大学農学部卒業。在学中より友人とIT関連事業を興す。04年5月シリウステクノロジーズを創業し代表取締役社長に就任。06年10月Style1の社外取締役に就任。共著に「SNSビジネス・ガイド Web2.0で変わる顧客マーケティングのルール」、「Mobile2.0 ポストWeb2.0時代のケータイビジネス」(インプレス)がある。


 モバイルユーザーの位置情報に基づいて周辺にある店舗などのテキスト広告を表示する位置連動型携帯広告配信サービス 「アドローカル」を中心に事業を展開しているのが、シリウステクノロジーズだ。大学在学中からIT関連の事業を興した宮澤弦氏は、卒業して間もなく、この世界でもほかに例を見ないサービスを提供する企業を設立する。宮澤氏に、モバイルサイトの現状とモバイルの位置情報を使った広告配信サービスの可能性について聞いた。


――携帯電話には、公式サイトと一般サイトがありますが、その違いは?
 携帯電話会社(キャリア)のメニューにあるコンテンツは、一般的に公式サイトと呼ばれています。公式サイトの多くは利用料を登録ユーザーから徴収する課金システムを取っています。公式サイトであるメリットは、二つあると思います。
 まず課金の決済をキャリアが代行してくれることです。それが、モバイルビジネスが何もなかったところから短期間で立ち上がることができた最大の理由です。モバイルのコンテンツ市場の規模は、今、3000億円くらいと言われていますが、最初から広告モデルでやっていたら、たぶん市場として立ち上がらなかったと思いますね。
 もう一つのメリットは、ユーザーをキャリアが集めてくれることです。キャリアは入り口を押さえている会社ですから、それができる。各キャリアごとに公式メニューを作ってサイトに人が流れるようにしていった。
 それに対してデメリットは、キャリアがすべてコントロールをして、サイト側の自由が制約されていることです。キャリアの審査をパスしたものしか公式サイトになれないし、外部のサイトへのリンクも基本的にはできない。ユーザーとユーザーがコミュニケーションするSNSのようなサービスも禁止されてきました。

一般サイト拡大の背景

――公式サイトでは企業サイトも認められていない?
 企業が何かを企画したサイトならいいのですが、企業の宣伝だけのためのサイトは認められていません。公式サイトにはそういう制約があって、最近は公式サイトから一般サイトへという流れになって来ています。
 ただ、今年から準公式サイトとして企業サイトも認める動きがあるとは聞いています。そういうこともあって、今年はモバイルの「企業サイト元年」になるのではないかと言われています。
 では、一般サイトのメリットは何かというと、一切制約がないことです。ユーザー同士がコミュニケーションをとってもいいし、各サイトが自由に広告を掲載できる。最近はモバイルのユーザーも増え、一般サイトでもかなりの数のユーザーを集められるようになって広告モデルが成立するようになりました。

――そういう動きはいつごろからあったのですか。
 一般サイトはiモードが始まった直後、2000年ぐらいからありました。日本最大のモバイル・ファッション・サイトと言われる「ガールズウォーカー」も、そのころ開設されています。ただ、一般サイトの方がおもしろいと言われ出したのはこの2年ぐらいですね。

──パケット定額制が普及したことも要因になっている?
 定額制でサイトを見ることに障害がなくなったことは大きいですね。定額制になってからのページビューでは、7割の人たちが一般サイトを見ていると言われています。

―― 一般サイトをユーザーはどのように知るのでしょう。
 モバイルサイトは10代の女性がメーンユーザーですから、学校で「これ、おもしろいよ」という形で広まっていくことが多いんです。モバイルに検索が普及してきたのは昨年後半からで、これから検索サイトの利用が増えていく可能性は十分ありますが、今は検索サイト経由でコンテンツに行く人は3割ぐらいです。
 一般サイトも、少しでも多くの会員を増やしたいと必死で、友だちに紹介する機能や、友だちを紹介するとポイントがたまる制度を導入しているんですね。

――コンテンツも、公式サイトと一般サイトでは違う?

 今までは公式サイトのコンテンツはほぼ同じフォーマットでした。コンテンツを取りに行くというモデルだったんですね。一般サイトではやっているのはみんなで楽しむCGMです。そもそもコンテンツの種類も全然違いますね。

サイトから店舗へ


――シリウステクノロジーズは広告配信を行う会社ということですが、そうすると対象は一般サイトということになる?
 もともと公式サイトには基本的には広告は入れられないので、広告で勝負しようと思ったら自然と一般サイト向けになります。ただ、公式サイトと一般サイトを分けてビジネスをやろうと思ったというより、まだ掘り起こされていない市場をモバイルを使って活性化する、というのが我々がやろうとしていることです。
 インターネット広告全般にそうですが、サイトからサイトへの人の誘導が広告の価値でした。我々はサイトから実際に店舗に足を運んでもらうことに価値があると思っています。それによって実際の消費をインターネット経由で取り込んでいけるのではないかと考えているんですね。「サイトから店舗へ」という市場はまだ未開拓の市場なんです。
 例えば、フリーペーパーや折り込み広告は、数千億円規模の市場がそれぞれあるわけです。そういう市場はまだネットに落とし込んでいける。そこを我々は掘り起こしたいと考えています。

位置情報に連動した広告配信

──位置連動型携帯広告配信サービス「アドローカル」について説明していただけますか。
 アドローカルには二つの側面があります。広告主側からの視点でいうと、「近くの人に私の広告を」というのがアドローカルのコンセプトです。実際に来てくれる可能性の高い人に広告を出す仕組みです。一方、ユーザー側からしてみれば自分がいる場所、あるいは自分が見ている場所、目的を持って探している場所の周辺の広告が出ることによって、近くのおすすめ情報やクーポンなどを得ることができる仕組みです。自分の今いる場所、関心のある場所の周辺情報ですから、実際にそこに足を運ぶ可能性が高くなります。
 アドローカルが掲載されるサイトとしては、モバイル最大ののSNSサイト「モバゲータウン(モバゲー)」の「タウン」というコーナーがあります。そこで、例えば新宿の情報を見ている人がいれば新宿周辺の広告を表示します。カカクコムのレストランガイド「食べログ」で銀座のレストランを探している人がいれば、銀座だけでなく、その周辺の新橋や汐留の情報を表示することもできます。

アドローカルの仕組み

──アドローカルは、ユーザーの位置情報で今いる場所の広告を配信する仕組みではない?
 両方可能です。地図を検索している場合のように、探している場所を位置情報とする場合もあれば、携帯電話のGPS機能を使ってユーザーが実際にいる場所を位置情報とすることもできます。本人のいる場所は、GPS情報を上げてくれればわかります。

──ユーザーの位置情報は、勝手に取得できない?
 「モバゲー」の場合は、地図上の位置情報が自動的に取得できるようになっていますが、ユーザーの実際の位置情報を取得するには、本人のパーミッション(認証)が必要です。「位置情報を取得します。よろしいでしょうか」「はい/いいえ」のようなメッセージが出てきます。アドローカルではなく、キャリアの仕様で、そうなっているんですね。

――検索連動型広告の場合はキーワードの入札形式でクリック課金の単価が決まりますが、アドローカルの場合は?。
 クリック課金、入札制は同じですが、入札するのはキーワードではなく「住所」です。

――金額が高いほど広告は画面の上位に表示される?
 パソコンと違ってモバイルは表示スペースが小さいですから、広告は一画面に1件(10文字2行)だけで、入札金額が高いものほど表示回数が多くなります。

マス広告と連動「コレどこ」

――マス広告と位置連動型携帯広告の連動は可能ですか。
 位置情報連動型の情報配信技術を使って、広告商品が近くのどこで購入できるかを検索できる「コレどこ」サービスがあります。これは、電通と共同で開発したもので、広告情報をQRコードで取得し、登録情報の中からユーザーに近い店舗の情報を返すという仕組みです。広告の情報取得にQRコードを使いますから、新聞、雑誌、ポスターのような印刷媒体やQRコードの付いたワンセグ放送で利用が可能です。
 広告を見ていて商品が欲しいと思っても、近所のどこで買えるかわからない場合がよくあります。そういうユーザーニーズにこたえるサービスです。例えば、車の広告に「コレどこ」サービスを使えば、モバイルに近くのディーラーと地図を一緒に送ることができます。

――車の新聞広告の場合、ディーラーの紹介スペースを県単位で切り替える必要もなくなりますね。

 住宅メーカーでも、流通でも同じことができると思います。今まで広告は広告で終わっていたものを、モバイルの位置情報を使って、「広告から店舗へ」誘導できます。さらに、これが店舗の在庫情報や商品の配荷情報と結びつけば、機会損失も防げるし、ユーザーに足を運んで見てもらう機会を増やすことにもつながります。

──アクセスしてくれた人には、モバイルに電子クーポンを送ることもできますね。
 モバイルの一番の価値というのはその次のアクション、足の動きを変える、最後の一押しになることだと思うんですね。
 それから、例えば、店舗ではなくて通販サイトへ誘導すればいいという考え方もあると思いますが、いろいろな企業に汎用的なインフラとして使ってもらうには、リアルな店舗に誘導した方が現実的だということなんですね。

「コレどこ」サービスの仕組み

モバイル広告のインフラを

──この4月からは、GPSも第三世代携帯電話に原則搭載が義務づけられましたが、位置情報の活用はますます重要になってくる?
 状況がそう変わるといいと思いますね。位置情報の活用に限らず、「だれもが簡単にモバイルに広告を出せるような世界を実現したい」というのが、ぼくらがこの事業を始めたそもそもの発端なのです。
 「モバイルに広告を出すにはどうしたらいいの?」というのが今までの状況でした。だれもが手軽にモバイル広告を出せるインフラがなかったんですね。広告会社に依頼しても、最低でも数十万円の予算がないと、モバイルには広告が出せなかった。アドローカルもそうですが、PCで普及している検索連動型広告のように1万円でも広告を出せるインフラができて、初めてモバイル広告のすそ野が広がっていくと思います。そういう市場を拡大していきたいと考えているんですね。

──今後、考えていることはありますか。
 まだビジネス化していませんが、ビジネス特許を出願しているものがあります。位置情報と街と価格を組み合わせた新しいサービスを考えています。
 まだ始まったばかりの事業なので、ぼくらの仕事を認知してもらうことが先ですが、今後はPOS情報など今まで街中に眠っていた情報にインターネット経由でアクセスできるようにしたい。サイトの情報だけが情報ではないと思うんですね。店舗に足を運んでもらう、消費を活性化させる手段としてのモバイルを目指したい、というのが我々のビジョンなんです。



モバイルとマーケティングの進化
ディーツー コミュニケーションズ 代表取締役社長 藤田 明久 氏→


モバイルは生活と消費行動をどう変えたか
ネクスト・ネットワーク マーケティング・プロデューサー 辻中 俊樹 氏→
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