特集 2007.5/vol.10-No.2

映画文化とプロモーションの今
 携帯電話の勢いが止まらない。個人利用で見れば、インターネット利用者数はすでに2005年末時点で携帯電話などモバイルがパソコンを上回っている。最近は、携帯電話会社の公式メニューに載らない一般サイトも急増し、これまで公式サイトではできなかった広告配信サービスも始まっている。携帯ネットは「10代の若者が使うメディア」という認識を変えなければいけない時期に来ている。24時間消費者のそばにあるモバイル、携帯電話は、マーケティングと広告にどのようなインパクトを与えようとしているのだろうか。

モバイルとマーケティングの進化 ディーツー コミュニケーションズ代表取締役社長 藤田明久氏
●Akihisa Fujita
1965年生まれ。91年慶応義塾大学院修士課程管理工学専攻修了。同年、電通入社。新聞局に配属される。94年電子新聞のプロトタイプ「日本新聞」を作成、発表。95年いくつかの全国紙のホームページ立ち上げにかかわる。96年「サイバー・コミュニケーションズ」設立とともに出向、取締役に就任。99年、電通新聞局に復帰。2000年「ディーツーコミュニケーションズ」を設立するに伴い同社に出向、社長に就任。著書に「ケータイ大国のモバイルビジネス入門」(宣伝会議)など


 ディーツー コミュニケーションズ(D2C)は、NTTドコモと電通、NTTアドによって2000年6月に設立された携帯電話(以下、モバイル)専門の広告会社だ。日本から生まれたと言ってよいモバイル広告市場の拡大に、D2Cの果たした役割は大きい。その設立からD2Cを率いているのが藤田明久氏だ。企業にとって「モバイル」とはどういうメディアなのか。また、これからのマーケティングをどう変えていくのだろうか。

――マーケティングから見たモバイル、というところからお聞きしたいのですが。
 モバイルとユーザーとのかかわりから見ていくと理解しやすいと思いますね。我々ビジネスマンはモバイルをどうしても仕事の道具として見がちで、電話がかかってくる時も、だいたいよくない話だったりしますね(笑)。最初にモバイルを持ったきっかけがビジネスだったんです。ところが、世の中全体で見ると、オフのコミュニケーションのためにモバイルを持ち始めた人たちが大勢になっている。それが、モバイルがここまで普及した要因です。B to Bの需要だけだったら1億台も普及しなかったと思います。
 つまり、モバイルは使う側にとっては「エンターテインメントツール」であり、それを広告・マーケティングに活用しようとする企業側にとっては「楽しさを提供するメディア」であることを、まず押さえなければいけないと思います。
 ユーザーにとってモバイルがどういうものかというと、三つあると思います。一つ目は「使う人の30センチ以内に24時間存在する忘れてはいけないもの」、二つ目が「自己表現の道具」、三つ目が「自分の脳に代わって記憶するための装置」です。モバイルは、腕時計や目覚まし時計代わりにも使われていますし、友だちにメールを出しながら寝てしまって、朝はモバイルにダウンロードした好きな音楽で起きるというように、常に自分のそばにある。家に財布を忘れても戻らないが、モバイルを忘れたら取りに帰るという人たちが多くなっているんですね。

PCは他人、モバイルは自分

――エンターテインメント的な使い方は、当初から予想されていたことなのでしょうか。
 99年2月にiモードはスタートしましたが、最初はB to Bで使っている人が多いことから、銀行振込サービスなどを中心にドコモもプロモーションしていました。でも、最初に火がついたのは「待ち受け画面」「着信メロディー(着メロ)」なんですね。2000年には、そうなっていました。
 やはり、絶えず身に着けているメディアですから、自分の今の旬、自分が今好きなものをこの中に入れておきたいと思う。それを今度は友だちに見せる、聞かせることもできる。自分が好きなもの、お気に入りはこれなんだと、モバイルは自分の価値観を周囲の人に伝える道具、まさに自分自身というか、自分の分身のような存在になってきています。モバイルのストラップに好きなキャラクターをつけることもそうですし、モバイルの機種も最近は単に最新機種ということではなく、デザインなど自分の好みで選ばれるようになってきています。

――D2Cは、そういうモバイル専門の広告会社ということですが、どういうサービスを提供する会社なのでしょうか。
 モバイルを広告・マーケティングに活用できるように仕立てるというのが我々のミッションであり、仕事です。単純な例で話せば、待ち受け画面に広告主のメッセージやブランドを入れ込んだり、着信メロディーにCMソングを使ってもらうといったことです。モバイルは企業にとって楽しさを提供するメディアだと言いましたが、それがユーザーに受け入れられれば、つまりユーザーに好きになってもらえれば、そのユーザーが周囲の人に広めていってくれるわけです。あるいは、おもしろいキャンペーンを仕掛けることによって、それが周囲に伝わっていく。そういうアイデアの提案、設計、制作、そして、モバイル広告によって効率よく周知するまでの仕組みをつくっているのがD2Cという会社です。

――クチコミ的な広がりを前提にしているところが、PCのインターネット広告とは違う気がしますね。
 PCの検索サービスが象徴的ですが、ユーザーが何かを投げかけて答えが返って来るのがPCです。PCというのは「世界を見る窓」で、世界と自分は対峙している。モバイルは、対峙するものというより、「こっち側にあるもの」だと思うんですね。モバイルは自分自身であり、いろいろな人たちとやり取りをする自分の目や口や耳の代わりなんです。「PCは他人、モバイルは自分」、そのぐらいのメディアとしての違い、ツールとしての違いがあると思います。だから、言い方を変えれば、ユーザーの日常生活に入り込んでいるモバイルをマーケティング手法として成立させる、そういうサービスを提供するのが我々の会社だということです。

第三世代のマーケティングツール

――モバイルを使ったマーケティングとPCを使ったマーケティングの違いをもう少し説明していただけますか。
 PCが「双方向メディア」だとしたら、モバイルは「マイメディア」なんですね。自分に近いエモーショナルなメディアなので、ユーザーへの働きかけ方にも作法があると思っています。
 マーケティングツールとしてメディアを見ると、新聞やテレビなどの「マスメディア」が第一世代です。告知メディアであり、ユーザーにとってみれば偶然何かを知ることができるメディアです。記事もそうですし、広告もそうですが、未知のものを多くの人に知らせるメディアとして、マスメディアは今後も生き続けると思っています。
 次に、第二世代のマーケティングツールとして登場したのがインターネットにつながったPCです。これが95年にスタートして、だいたい2002、3年に成熟し始めた。PCは何かと言ったら探索メディアなんですね。価格を比較する、商品の細かいスペックまで見る、商品を買った人の評判を聞く。好奇心に応じて納得するまで調べる双方向メディアです。
 モバイルも双方向メディアではもちろんあるのですが、24時間自分のそばにある第三世代のマーケティングツールなんです。マイメディア、私の分身という位置づけにある。だから日常生活の中でいかに語りかけて感情に訴えるか、共感させるかというところが重要になってきます。

マーケティングツールの第3世代


──モバイルのサービスはPCのインターネットがやってきたことをコピーしてきたと言われていますが。

 技術的にはそうですが、間違っていますね。同じ印刷技術から生まれた新聞と雑誌が同じものだとはだれも思わないですよね。値段も違うし、求めるコンテンツや広告も違う。接触サイクルも違います。
 例えば、モバイルに「Gガイドモバイル」というテレビ番組表のサービスがあるのですが、ボタン一つで家庭のテレビのチャンネルが変わるようになっている。モバイルは、PCとはまた別なものに進化し始めているんですね。
 インターネットサービスとしては、PCが先にあったので、我々はどうしてもその延長線上でマーケティングの活用の仕方を考えてしまう。モバイルの持っている可能性に比べて、市場がまだまだ小さい理由の一つになっていると思います。

マーケティングの効率化

――モバイルはマーケティングをどのように変えていくとお考えですか。
 これからのマーケティングの進化は、「効率化」「高速化」「エンゲージメント」という三つの方向に進むと考えています。そのマーケティングの進化に、モバイルは重要な役割を果たすと思っています。
 最近の企業の最大の関心事は「効率化」、マーケティングの費用対効果にあると思います。グーグルなどの検索連動型広告が注目されているのもその一つです。ある事柄に関心を持って検索した人がサイトに来てくれた時にだけ費用が発生する。確かに効率的な広告と思いますし、今後もその価値は高まると思います。D2Cでも、この6月からiモードの検索連動型広告の販売を始めます。
 ただ、検索だけに注目していては「いつでもどこでも」というモバイルの価値を矮小化してしまうと思っています。家にいようが外にいようが、テレビを見ていようが、自分の身近にあるというモバイルの特性を活用することが効率化につながると考えています。モバイルは消費者接点を作りやすい、ということなんですね。
 例えば、受信料無料で得する情報が受け取れる「メッセージF(フリー)」というドコモのサービスには、1000万人以上が登録しています。将来これにGPSの位置情報を加えると、極端に言えば、渋谷を歩いている20代の女性だけに絞って、たった今情報を見てもらうことができます。最適なTPOで消費者にアプローチができるということです。
 もう一つは、他のメディアとの連動をスムーズに作れる点です。新聞や雑誌ならQRコードがありますし、テレビや屋外広告を見ながら検索して、手元にあるモバイルでサイトにアクセスしてもらって、「いつでもどこでも」関心を持った消費者に広告の続きを見せる。潜在顧客を確実にキャンペーンに巻き込んでいくことが可能です。
 例えば、その場でCMソングがダウンロードできたり、イベント会場の地図を画面メモさせたり、クーポンを発行するというようなことです。今までの広告は記憶に残せるかどうかの勝負ですが、モバイルは消費者に広告を取り込ませ、肌身離さず持ち歩かせるかどうかが勝負なのです。だから、場合によっては、その取り込んだ広告を周囲の友人に見せてくれるというようなことも期待できる。モバイルを活用することによってマーケティングは究極まで効率化できると思うのです。

マーケティングの高速化

――2番目の「高速化」というのは?
 マーケティングは、これからもっとスピードアップしなければいけないと思っています。あるビジネス誌で「商品の寿命は3週間」という特集がありましたが、最近のコンビニでは、発売1週間の売れ行きが悪ければ追加発注されないので、ほぼ3週間で新商品が棚から消えるんですね。膨大なお金をかけて開発したとしても、最初の1週間で商品の寿命が決まってしまうというのが実情です。
 こうした状況への対策として、今試みられているのがティザー広告です。発売前に大量の広告を流して、商品に対する期待感を高め、流通の売り場面積も確保する。そして発売した週にできるだけ多くの人に買ってもらおうという、いわゆる「垂直立ち上げ」です。
 ただ、残念ながらすべての会社に大量のマス広告を投下して、店頭を占拠する垂直立ち上げができるパワーがあるわけではありません。別の手段で情報を早く浸透させ、マーケティング全体の高速化を図らなくてはいけない。そこに、モバイルが生かせると思っています。
 ところで、モバイルを使ったマーケティングを設計する時に、我々は「プレ」「オン」「ポスト」の3段階に分けて考えましょうという提案をしています。各段階にモバイルを加えて、その消費者の行動を変えていこう、スピードアップを図っていこうという考え方です。先ほど言ったように、モバイルは、あらゆる消費者接点で使えますから、逆にどの段階で使うべきかがわかりにくい面があるんですね。
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 商品の認知獲得は「プレアクセス」に当たります。この段階に対する我々の提案は、モバイルの三大マスメディアで、認知の高速化を図っていこうということです。モバイルでも1週間に1000万人以上が接触するマスメディアとして、「iメニュートップ」「メッセージF」「Gガイドモバイル」があり、多くの人々に高速で認知させることができるのです。




――モバイルサイトのSNSとしてディー・エヌ・エーの「モバゲータウン」が注目を集めていて、会員数も400万人を超えたと言われていますが。
 「モバゲータウン」は「ミクシィ」と同じで、リピートや滞留時間が長いのが特色です。これまでのメディアで言えば雑誌的な性格が強く、垂直立ち上げの場合は、新聞やテレビと同じニュースメディア的性格のサイトの方が向いていると思います。

――モバイルをマスメディアとして使うということですか。
 この場合はそうですね。認知の高速化にモバイルを活用するとしたら、マスメディア的な使い方が有効だと思います。もちろん、テレビ、新聞、PCのネット広告もありますが、モバイルだったらこういう使い方が有効だということで、定着しつつある使い方になっています。

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