特集 2007.4/vol.10-No.1

映画文化とプロモーションの今


 ディズニー映画などを配給しているブエナビスタは、昨年、日本市場に14本の作品を送り込み、255億円の興行収入を上げている。「パイレーツ・オブ・カリビアン2」というメガ・ヒットもあり、上映本数から見ると非常に高い興行収入だ。日本の映画市場とそのマーケティングの考え方について、ブエナビスタ インターナショナル ジャパンの百合草太郎氏に聞いた。


──ブエナビスタにとって日本市場は、どのような位置にあるのでしょうか。
 ほかのハリウッド映画も同じだと思いますが、日本市場はアメリカに次いで大きい市場です。当社の場合、アメリカを除けば、昨年日本で公開した映画はすべて世界で3位以内の興行成績を上げています。
 ブエナビスタはヨーロッパ、アジア、南米に拠点があり、それぞれの地域を統括しています。香港にあるアジアリージョナルはオセアニアとアジア各国を統括していますが、実は日本はそこに属さず、アメリカ本社の下で、直接マーケティング活動を行っています。
 マーケティングも日本と他の国では違います。“受ける映画”“受ける部分”が違うんですね。例えばアニメーションでも、日本以外の国は「コメディー」が受けますが、日本のマーケットで受けるのは「感動」です。
 同じ映画でも、感動を中心に売ろうとすると、他の国のマーケティングアプローチと違いますから、映画の予告編も我々がアメリカに行って作ることが多々あります。
 
──日本向けだけ別に広告を作っている?
 アメリカの製作会社へ行って予告編を編集したり、デザイン会社で日本向けにポスターを作ることが、かなりありますね。

──昨年上映した『カーズ』も、最後はほろりとさせられましたね。

 『カーズ』にも、新しい車が滅びゆく町に住むボロ車たちとの交流を経て、新しい自分を知るというテーマがあったと思うんです。製作者はそれを意図して作っていると思うし、それを映画宣伝の中心にすえることが自然だとぼくらは思うんです。ところが、アメリカのクリエイティブで作られたものを見ると、車同士のギャグの言い合いとか、そういう部分を抽出している。
 ディズニーアニメーションを見て、日本人はだれもコメディーだとは思わないと思うんですよ。ディズニーアニメの最後には、やはり感動がある。感動に至る道すがらユーモアがあったりはするけれども、それをコメディーとは取らないですよね。
 ちゃんとしたドラマがある作品で最後に感動もさせるものであるなら、その感動を素直に伝えようというのが、ぼくらのやり方です。もちろん、純然たるコメディー作品を感動で売ろうとは思わないですが。

ブランドと映画のクオリティー

──昨年の公開作品は14本ですが、意図的に数を絞っているということですか
 十数年前は年間20本公開していましたが、1本1本を丁寧に出していこうという思いもあって今は適正な数にしています。予算をかけるところにはかけ、引くところは引こうということです。

──ディズニーブランドがあると、やはり、映画も売りやすいものなのでしょうか。
 確かにディズニーというブランドの信頼度は高いですが、一般にはディズニーランドやミッキーのグッズなどによって築かれてきたものだと思います。それと映画を見てくれるかは別の話です。ディズニー映画だからマーケットが動くほど、甘くはないんですね。
 最近は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』『ナルニア国物語』『ナショナル・トレジャー』というクオリティーの高い作品によって、ディズニー映画の評価も上がってきました。
 だから、ぼくたちがマーケティングを行う時にも、やはり作品の良いところ、みどころ、クオリティーをきちんと伝えていくことが第一だと思っています。
 もう一つ、今の日本市場の特色でいうと、「話題を作っていく」ことが非常に重要なマーケティングの要素になっています。映画が公開される前に、その映画でどれだけ話題を作れるかが成功の鍵を握っているということです。

話題を作ることの重要性

──映画によって話題の作り方も違ってくる?
 まるで違いますね。『パイレーツ・オブ・カリビアン』と『カーズ』が一緒かと言われたら違いますよね。人によって興味の度合いが違うし、ターゲット、つまり年齢層や性別でも興味の持ち方は違ってくる。人がその映画に興味を持つということは、自分の中にパイレーツはパイレーツならではのオリジナルなイメージが作られるからです。だから、パイレーツとスターウォーズが一緒ではダメなわけです。それを公開前に作らなければいけない。
 一般の商品と映画の大きな違いは、一般の商品はたいてい店頭に並んでから宣伝が始まります。それで3か月から半年売れていれば、1年でも2年でも棚に置いてもらえる。さらに途中でリニューアルして売り直しもできる。でも、映画は初日を迎えたら、もう売り直しができないんですね。公開前の数か月の間に、その商品の運命は決まってしまう。映画は1回こけたら二度とはい上がってこれない商品なんです。  

──そのために徹底的に話題づくりをする?
 公開前までに、ありとあらゆることをやっておかなければいけません。当たる映画は絶対に話題になる。だから、一人で勝手に話題が動いてくれるまで、下からあおっていかなければいけないんです。それが映画の宣伝じゃないですかね。
 そういう意味では、映画の宣伝は結構泥臭いと思いますね。「やれることは全部やろう」「やり残したことはなかったんだろうか」がぼくらの口癖です。だから、公開の2、3週間前になると、ゲリラ的なことも含めて、ありとあらゆることをやる。

新庄氏を宣伝プロデューサーに  

──元プロ野球選手の新庄剛志氏を映画『デジャヴ』の宣伝プロデューサーに起用されましたが、これも話題づくりの一環ですか。

 今年はジェリー・ブラッカイマーの作品が、『デジャヴ』『パイレーツ・オブ・カリビアン3』、そして冬に『ナショナル・トレジャー2』の3本あるんですね。ジェリー・ブラッカイマーがプロデュースしている作品であることをいかに話題にしていくか、その方法が新庄さんの宣伝プロデューサー就任ということです。
 新庄さんには『デジャヴ』だけではなく、1年通してジェリー・ブラッカイマー作品の宣伝を応援してもらうことになっています。
 たぶん、日本人が最も多く見ている映画にもかかわらず、最も知られていないプロデューサーがジェリー・ブラッカイマーです。実は、スピルバーグの作品以上に、見ている作品は多いはずなんです。
 昔でいえば、『フラッシュダンス』『ビバリーヒルズ・コップ』『トップガン』『デイズ・オブ・サンダー』も彼の作品です。それから、『アルマゲドン』『ナショナル・トレジャー』『パイレーツ・オブ・カリビアン』と日本で超一級に当たっているにもかかわらず知られていない。
 それで、彼をエンドース、推薦する役として新庄さんを起用したわけです。新庄さんには、選手時代、『ナショナル・トレジャー』の最初の公開の時にアメリカのプレミアから一貫して応援してもらったことがあります。その時に新庄さんはジェリー・ブラッカイマーとも会っていて、実際彼自身が作品の大ファンなんですね。だから、ジェリー・ブラッカイマーの宣伝にだれでもいいから明るいイメージのタレントを、ということではありません。作品に関心がない人とある人では、宣伝しても心の入れ具合が全然違うと思うんです。

本を売って観客を増やす  

──話題を作るイコール映画の宣伝期間ということだと思いますが、どのくらい前からスタートするのですか。
 作品によりけりですね。1年前から始まるときもあれば、ギリギリまで何もできない時もある。例えば、『パイレーツ・オブ・カリビアン3』は5月25日公開なんですが、立ち上がりは3月20日でした。ここまで短いのは、そうないですが。  

──『ナルニア国物語』は立ち上がりが早かったですね。
 公開は昨年3月で、その1年4か月前に立ち上がりました。このときは、映画配給会社ということを忘れて、まず岩波書店といっしょに本を売りました。映画の宣伝そのものは、直前の3か月ぐらいでしたね。  

──なぜですか。
 ひとつには、映画の宣伝に使用できる素材がなかったということ。もうひとつには、原作が存在する映画は、原作本の売れ数と比例して映画がヒットするということです。

──話題作りにもいろいろな手法がある、というより臨機応変という感じですね。
 過去の原作物を映画化した数字を見ていたら、そういうヒットの傾向が見えてきた。じゃあそこにかけてみるか、ということです。まず、本を売ることを徹底的にやる。それは理屈じゃないですね。自分たちを信じるしかない。そういう意味では、映画の宣伝にはかなり経験則的なところがあります。  

──海外でも同じ戦略をとった?
 これも日本だけです。アメリカにしても、ヨーロッパにしても、『ナルニア国物語』はすでに非常に売れていた本ですから。

新しい冒険、マーケティングへ

──日本の作品である『デスノート』をワーナー・ブラザースが配給しましたが、日本の映画の配給は考えていますか。
 あり得ますね。良いものがあれば、日本映画も配給していこうと思っています。ブエナビスタは配給会社ですから、ハリウッド映画がすべてではないし、ローカルにおもしろい作品があり、それがビジネスになれば、全世界に配給できると思いますね。  

──シネコンの普及をどう見ていますか。
 シネコンになって、映画が短命になったと言われていますね。昔はその地区に映画館が1館しかなかったところに、シネコンが三つ四つできれば、それまで1か月かかった観客数を1週間で集められる。早めに観客が来るのであれば、スクリーン数を増やし、早めに上映を止めるのも一つの方法だろうし、上映期間は長い方がいいのか、短い方がいいのか、一概には言えない。それは、観客が減った増えたとは、また別の問題です。
 だから、シネコンの普及は観客にとってはいいことだったと思いますが、映画会社にとっていいことだったかどうかはわからないというのが、正直な答えだと思います。結局、それはマーケット、観客が決めることだと思うんですね。
 今、人々の生活はどんどん変化しています。例えば、映画をコンテンツと呼ぶことに、ぼく自身はいまだに非常に抵抗がありますが、iPodで見る映画やパソコンに配信される映画を見ると、それをコンテンツと呼ぶのもわからないではない。それは映画とは言えない、何かなんです。
 そういうように、映画を取り巻く環境も、人々の生活もどんどん変わっていっている中で、映画はなくなることはないと思うけれども、どこへ行くのかわからない。映画にかかわる人たちは、みんな同じように思っていると思いますね。  

──日本映画と外国映画のシェアが昨年逆転しましたが、外国映画、ハリウッド映画の今後はどうなると思いますか。
 昨年作られた日本映画は400本以上あるわけです。みんなが今は日本映画がもうかると思って注目していますが、興行成績がいい映画は本当にいくつかしかありません。また、どの世代も日本映画というわけではなく、10代から20代前半が中心で、30代以上は外国映画を多く見ています。
 日本映画が当たっている状況も、いつまで続くかと言われたらわからない。飽きがくると思うのです。そういう意味で、ハリウッド映画にも、日本の観客にある種の飽きが今きているのは確かです。ハリウッド映画は、すでにありとあらゆることが行われてきています。ファンタジーものも、アクションものも、宇宙ものも作られてきたし、少々のことでは、だれも驚かなくなっている。
 今度、だれが新しい冒険をして、新しいものを作り出してくるのか。多分その時は、マーケティングも新しいやり方になっていると思います。



映画を取り巻く環境はどう変わったか
キネマ旬報映画総合研究所 所長 掛尾良夫 氏→


映画宣伝はノイズを作る作業
松竹 映画配給部 映画宣伝室 室長 松倉浩二 氏→
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