特集 2007.4/vol.10-No.1

映画文化とプロモーションの今



 日本映画が元気がいい。昨年は、日本映画のシェアが外国映画を上回ったが、これは85年以来のことだ。松竹も昨年は『武士の一分』などのヒットを飛ばし、今年に入ってからもチンギス・ハーンの一生を描いた大作『蒼き狼』を公開。話題作『東京タワー』も間もなく公開される。日本映画の好調を支えるプロモーションの特色はどこにあるのか。映画宣伝室室長の松倉浩二氏に聞いた。


――映画を作る環境、見る環境が変わって来ていますが、映画の宣伝も変わって来たのでしょうか。
 日本映画、外国映画で少し事情は違うと思いますね。メジャーな外国映画の場合、1本に大きな宣伝予算をかけて、テレビスポットを中心に広告展開をしていますが、日本映画の宣伝はマンパワーなんです。

──どういうことですか?
 要するに、宣伝予算が少ない分、頭を使えということです。どういうことをしたらマスコミに取り上げられるか。どういうことをしたら世間が騒ぐか。「ノイズ」をいかに出していくかがぼくらの仕事です。広告を効率よく使いつつ、パブリシティーを積極的に活用して集客を図っていく。そういう意味では、映画宣伝の基本は昔と変わらないと思います。

──口コミマーケティングは最近言われ出したことですが、映画の世界では昔から行われていた?
 そうですね。その映画が社会現象になってしまえば、勝手にマスコミが取り上げてくれますが、そこまで持っていくのは相当しんどい作業です。

ブログと一般の人のコメント

――広告で使うメディアも、基本的には変わっていないのでしょうか。
 以前は、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌という順番でしたが、最近はそれにウェブが加わって、一般的には、テレビ、新聞、ウェブ、雑誌、ラジオの順になって来ていますね。

――ウェブの使い方というのは?
 最初に使ったのは、ヤフーのトップページのバナー広告でした。それが、ポータルサイトで特集を組んでもらったり、ブログを開設するといった利用の仕方に変わってきました。最近は、作品ごとに必ずブログを立ち上げるようになりましたね。ブログの製作は、ポータルサイトにお願いすることもあれば、宣伝部スタッフで作るときもあります。内容は、映画の製作日記だったり、今日の出来事だったりいろいろですが、ブログの効果は相当あると思います。
 それから、昔だったらテレビCMや新聞広告の中に一般の人のコメントを入れることはなかったと思いますが、今は珍しくありません。それを実感したのは韓流ブームの時です。ターゲットであるF2、35歳から49歳の女性のコメントを集めて広告に利用したのですが、集客にかなり効果があったと思います。最近は、劇場に行っても、一般の人の書いたコメントが張ってありますね。

──以前の映画の広告には、映画評論家や著名人の推薦文がよく載っていましたが。
 今でも立ち上げの段階では著名人を使います。ただ、その映画がある程度認知されてからの公開後の広告では、一般の人のコメントを使うほうが効果的ですね。

公開から逆算して山場を作る

――映画の出演者がメディアに出ることも多くなったように思いますが。
 出演俳優に映画宣伝に協力してもらうことを「役者の稼働」と呼んでいるのですが、今はかなり重要な位置を占めていますね。また、最近はローカルキャンペーンも重視しています。
 昨年大ヒットした『明日の記憶』は東映さんの配給ですが、俳優の渡辺謙さんが全国を回ったんですね。その時はほとんどの県を回ったと聞いてますが、かなりの集客効果があった。やはり、自分でプロデュースした映画なので、伝わり方も全然違いました。メディアの露出、パブリシティーも、一定以上の本数が出ると集客に跳ね返りますね。

――どのくらいのパブリシティーがあると、集客に効果が出てくるものなのですか。

 例えば、今公開中の『蒼き狼』で、公開前に1800本ぐらいの媒体に取り上げられました。まずまずのスタートは切りましたが、メディア露出がどれだけあれば成功かとは一口には言えません。役者さんが稼働することによって相当効果も違ってきますから、単純な媒体数では言えないところがありますね。

――パブリシティーも、かなり計算してプランニングするわけですか。

 取り上げてもらえるかどうかはメディア側の判断ですが、そうなるようにかなり綿密に計画を立てます。公開から逆算して、製作発表、完成会見、そういう大きな山場の間にどういう話題を持ってくるか。この時期にはこういうイベントを仕込むという形で毎月山場を作っていくわけです。
 結局、映画の宣伝とは何かというと、お客さんにどの段階でどこまで映画の中身を見せるか、どこでどう露出するかなんですね。

内容に合わせたノイズの出し方

――宣伝計画の立て方を少し詳しく説明してもらえますか。
 まず、キャスト発表や製作発表など2、3回露出するタイミングがあります。
 ここから原作のあるなしで、宣伝のアプローチは違ってきます。原作のない映画の場合は、まずタイトルを認知させないといけないわけです。
 逆に、4月17日から公開される『東京タワー』のように、だれもが知っている映画もあります。リリー・フランキーさんの原作も有名だし、テレビドラマにもなっていて、話の結末もみんな知っている。そうすると宣伝の役割は、テレビドラマとは違う映画の中身を売っていくことがポイントになってきます。テレビドラマは原作をかなり脚色していましたが、映画はかなり原作に忠実なんですね。本物の映画の感動をどう伝えていくか、それをターゲットにどう訴求していくか、というふうにノイズの出し方を変えていくわけです。
 『武士の一分』もノイズをずっと出し続けて、勝負は公開の2か月前でした。原作の藤沢周平氏の地元である山形県鶴岡市で試写をやってからですね。山田洋次監督と妻役の檀れいさんが来るという情報は流しておいて、主役の木村拓哉さんが来ることは伏せておいた。東北新幹線とローカル線を乗り継いで片道4時間、鶴岡の滞在2時間半という強行スケジュールで来てもらいました。
 その時、木村さんは地元の人といっしょに芋煮を食べたんですね。それがぼくにもすごく新鮮に見えたんです。藤沢周平というと一般の人には少し敷居が高いですから、それをどう下げていくかが、宣伝のポイントだったわけです。
 そういうちょっとしたことが、一般の人に話題が広まるきっかけになるんです。

──その前に製作段階の発表はしていた?
 1年前に製作発表はしていました。しかし、今回は映画の中身を出し惜しみして、映画のシーンを最初はあまり出さないようにしました。それで、世の中に「なぜ見せてくれない」という声が出るころを見計らって、マスコミに露出していった。飢餓感をつくる、ということなんです。
 そうしておいて、映画のシーンは公開の2週間前から集中的に出すようにした。公開直前の2週間は、新聞を見ても、雑誌を見ても、毎日『武士の一分』の何かが出ている状況を作ったんですね。

──最近は、映画の製作に出資する企業が集まった製作委員会方式で映画が作られるようになっていますね。
 映画に出資する企業は以前は新聞社、テレビ局、広告会社くらいでしたが、この10年で出資される会社の数も相当増えています。出版社や音楽会社、一般のメーカー、ポータルサイトも出資するようになりましたね。
 『武士の一分』もそうで、原作本はもちろんですが、DVDは出る、写真集も出る。広告会社も雑誌のページを押さえてくれる、テレビ局も、8月から3秒スポットを頻繁に流してくれると、成功の要因には製作委員会の力があったと思います。

女性を念頭に訴求を変える

――チンギス・ハーンの生涯を描いた『蒼き狼』は、上映スクリーン数が日本映画の実写では過去最高と聞いています。
 445スクリーンで公開しました。これまでの最高が『踊る大捜査線』だったんです。公開スクリーン数は作品力だけでなく、いつ公開するかの戦略にもよります。
 最近の宣伝で重要になっているのが、シネコンでの宣伝展開です。例えばコンセッション(売店)周りやロビー周りなどスペースがありますし、スクリーン数も10スクリーン前後ありますから、それらをどのように使うかが課題です。シネコンの興行会社にもプラスになる提案が重要になっているんですね。

――『蒼き狼』は、エキストラも2万7000人というスケールの大きな映画ですが。
 映画宣伝でむずかしいのは、スケール感だけで攻めて行くと女性が引いてしまうことです。やっぱりヒットするのは、女性が男性を引っ張ってくるような映画ですね。デートでも、ファミリーで来るにしても、女性が主導権を握っている。最初は「モンゴル建国800年記念でチンギス・ハーンの生涯を描いた大作ができました」という形で宣伝は入っていきますが、最後は親子愛の訴求に切り替えていくわけです。
 『武士の一分』も最初は「藤沢周平原作、山田洋次監督、木村拓哉主演の映画ができました」というところから入っていって、最後は夫婦愛に宣伝の中心を移していきました。

──それは反応を見ながら変えていく?
 最初から組み立てますね。第1期、第2期、第3期という形で組み立てていく。それがぶれずに、うまく組み立て上げられれば、やっぱりヒットにつながりますね。


映画文化へのこだわり

――広告はコントロールできるという意味でパブリシティーとは違うと思うのですが、どのように使われていますか。
 映画の宣伝は、立ち上がりが非常に大事なんですね。配給宣伝の立ち上がりは、一般的には公開の3か月前ぐらいで、その時に大きな広告をまず出します。同時に、ポスター、予告編などを立ち上げて相乗効果を狙います。
 それから重要なのは、映画の公開前と後では広告の役割が違うということです。新聞広告でいえば、公開前は、そのスケール感や作品が立ち上がったことを認知をさせるのが役割で、公開後は劇場名や公開時間などを含めて情報をきちっと網羅することが役割です。特に、親子で見るアニメやシニアコンテンツの場合は、劇場名や上映時間が入っていることが必須です。ですから、これは新聞広告に関しての松竹の理論かもしれませんが、新聞広告は公開中も含めて絶えず出し続けることが重要だと思っています。

――新聞広告の表現は、それほど変わって来ていない?

 広告っぽくならないということが、最近の新聞広告には重要です。いかにも広告っぽい広告は信用されなくなっているんですね。『蒼き狼』では読売新聞で記事体の広告を出しましたが、今後の有効な手段だと思います。

──映画は宣伝、プロモーションで売れるものなのでしょうか。
 映画が当たる最大の要因は、骨格がきっちりとしていることだと思います。原作が売れている、テレビで視聴率が取れているなどの作品は強いですね。
 宣伝だけの力では針は10%ぐらいしか動かないと思いますが、当たる要因を利用して30%とか40%は動かしたいですね。それから、最近は存在感を出すためにも公開中の広告が大事になって来ているんですね。

──立ち上がりではなく、公開してから、ですか。
 テレビ局が製作に参加している影響だと思いますが、テレビで大量に事前情報が流れることによって、公開前にすでに見たような気になって飽きられてしまうことがあります。そのため、配給宣伝の立ち上げも遅めになっている気がします。

──ヒットする映画もテレビドラマ化してきた?
 去年から今年の映画の傾向ですが、ハリウッドの映画にしてもシリーズものしかヒットしていません。日本映画も、上位にランクされるものはわかりやすい映画にシフトしています。ある意味ではマーケットは広がったかもしれませんが、映画はそれだけでいいのかという思いはありますね。特に若い人の映画観はわかりやすいにつきると思います。「おもしろかった」「泣けたね」の二通りくらいしかない。
 映画は文化であり、芸術という面も持っている。エンターテインメントだから何をやってもいいというわけではありません。「それを言っちゃあ、おしまい」だと思うんですよ。



映画を取り巻く環境はどう変わったか
キネマ旬報映画総合研究所 所長 掛尾良夫 氏→


映画宣伝の新しい手法を求めて
ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン マーケティング/プロデューサー室 ディレクター 百合草 太郎 氏→
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