IT弁護士の法律ノート 2007.4/vol.10-No.1

ネット上の著作権侵害と発信者情報開示

 プロバイダの事業者団体「テレコムサービス協会」は本年2月26日、「発信者情報開示関係ガイドライン」を公表しました。これは何のためのものなのでしょうか。
 最近ではネット上で著作権を侵害されたとして紛争になるケースが増加しています。しかし、“ネットの匿名性”のため、誰が送信者なのかを特定することは困難です。匿名性は憲法に由来する通信の秘密に基づくものです。通信の秘密には、誰が発信者なのかといった情報も含まれています。このためプロバイダに発信者の身元を教えるよう求めても、知っていても回答できないのが原則です。
 こうした匿名性が、書籍などでの侵害のケースと根本的に異なる点です。発信者の身元が分からなければ、被害者は民事訴訟や仮処分を提起することもできません。裁判所で門前払いされてしまうからです。そのため実務では、いきおい刑事告訴に走りがちでした。刑事事件になれば、令状によって捜査機関はプロバイダに対し発信者の身元を明らかにさせられるからです。
 しかし、本来は民事事件で片づければ足りるはずの事件が、身元が分からないという理由だけで刑事事件へとエスカレートすることは、ゆがんだ状況だといわなければなりません。
 そこで、2001年に制定されたプロバイダ責任制限法によって、一定の場合にプロバイダに対し発信者情報の開示を求めることができることが定められました(2002年に施行)。通信の秘密の例外となる場合が明確化されたのです。
 一定の場合とは、著作権など権利侵害が明らかで、かつ損害賠償請求の予定であるなど正当な理由がある場合です。これによって発信者情報開示を受けることにより、著作権侵害の被害者は、侵害者に対し損害賠償請求訴訟などを提起することが容易になりました。
 この法律は、制定当初はホームページでの侵害を念頭に置いて作られていました。ところがネットの進化速度は早く、制定後に2ちゃんねるなどの電子掲示板やファイル共有ソフトが普及し、これらを悪用した権利侵害の事例が急増しました。しかし、現在では裁判例で、発信者情報開示制度は、これらの事例にも適用されることが認められています。
 このように、どのようなケースがこの制度の対象となり、どのような手続きをすれば開示が認められるのかについて、裁判例などを分析して分かりやすく整理したのが、冒頭に述べたガイドラインです。ネット上で著作権を侵害された場合に適切かつ迅速な対応を図ることができるよう、これを利用することが得策といえるでしょう。
 なお、この法律は、プロバイダに対して権利侵害情報の削除措置を請求できるケースについても定めています。これについても同協会から「プロバイダ責任制限法 著作権関係ガイドライン」が公表されていますので、参考にして下さい。
 以上のガイドラインは、すべて同協会のホームページ(www.telesa.or.jp)からダウンロードすることができます。
「IT弁護士の法律ノート」は、インターネットにかかわる法律に詳しい岡村久道弁護士に、広告関係者が知っておきたい法律問題について解説していただく新コーナーです。

岡村久道プロフィル:1958年生まれ。京都大学法学部卒業。弁護士法人英知法律事務所所長。国立情報学研究所客員教授。著書に「個人情報保護法」(商事法務)など多数。

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