特集 2007.3/vol.9-No.12

Googleと広告のこれから

“Googleのサービスは広告にどんな影響を及ぼしているか

 Googleの検索テクノロジーをベースにしたサービスは、日常生活に「検索」という行為を定着させただけでなく、マーケティングや広告の考え方にも大きな影響を与えている。Googleがマーケティングや広告にもたらした変化とは何なのだろうか。長年インターネットビジネスに携わって来たADKインタラクティブCOOの横山隆治氏とGoogle広告プランニングシニアマネージャーの高広伯彦氏に語ってもらった。


――Googleの検索連動型広告に代表されるサービスの革新性は、どこにあるのでしょうか。
横山 マスマーケティングを前提にした典型的な広告のパワーがなくなってきて、人々がある商品カテゴリーやブランドに興味・関心を顕在化した瞬間に情報を送らないと効果がないことは90年代から言われていました。リーセンシー理論(注1)は、その代表的な考え方ですが、それをGoogleはネットを使ったビジネスモデルとして完成させた点が画期的だと思いますね。
注1)広告メッセージは、商品を購入しようとしている消費者に対して、最も直接的に機能するという考え方に基づいた理論。例えば、ティッシュペーパーが必要もないのに欲しくなる人はいない、なくなった時にはじめて広告のメッセージは効果を持つという考え方で、広告が効かなくなったと言われ出した90年代に出てきた考え方。

キーワード広告との違い

――以前から同じようなサービスはあった?
横山 「キーワード広告」がそうです。ぼくも10年前に、あるキーワードの検索結果画面にバナー広告が出る「キーワード広告」を検索サービスのインフォシークでやっていたことがあります。ただ、当時は何となく効果がない、という評価をされてしまったんですね。
高広 今の検索連動型広告は、あるキーワードで検索すると、そのキーワードにマッチした広告をテキスト広告として表示する仕組みですが、当時のキーワード広告の場合は、そのキーワードを購入している広告主のバナー広告が検索結果の画面に出るという点が違いますね。

――キーワード広告がうまくいかなかった原因は、何だったんですか。
横山 売り方が面倒だったんです(笑)。当時は、まずその検索ワードが先月1か月間に何回検索されたかを算出し、予想されるバナーの表示回数×単価でだいたいこのくらいの金額になりますと見積もりを作って売っていた。
 ただでさえインターネット広告がよくわかっていないころなのに、そんな複雑な売り方をしても広告主に理解されない。いくつかのキーワードをパッケージにして売るという工夫もしたのですが、広告会社の営業マンがついてこれなかったんですね。
高広 Googleの検索連動型広告の一番の特徴は、単に入札金額だけで表示順位が決まらないことです。入札金額×クリック率の掛け算で、その値が大きければ上位に出やすくなるんですね。その広告のクリック数が多いということは、それがユーザーに支持されている情報だということです。
 キーワード広告の場合は、その広告に効果があろうがなかろうが、必ずその広告が表示されていた。Googleの仕組みは、それにユーザーの支持も加味されています。
横山 キーワード広告の場合は、「この言葉とこの言葉はこの検索サイトでは押さえておく」「競合社には渡さない」みたいなとらえ方をしていました。「広告枠を押さえる」というこれまでの広告と同じ考え方だったんです。
高広 Googleの検索連動型広告とこれまでの広告ビジネスとの違いで一つ言えることがあるとするとそれは、これまでの広告が「企業が出したい」というタイミングに応じて行われてきた、ということにあると思います。
 ところが、インターネットの検索サービスが普及すると共に、自分に合った商品やサービスの情報を検索サービスで探すことが消費者にとってごく普通の行動になった。そうした行動に対応した検索連動型広告は、消費者サイドから見れば自分の欲しい情報の一部ということになるし、逆に企業から見れば、自社の商品に関連するようなキーワードで検索している人は、自分たちが欲しいお客さんということになる。
 だから言い方を変えれば、検索連動型広告は消費者と企業をマッチングさせるビジネスなんですね。

検索サービスの精度

――Googleは世界で最も使われる検索サービスと言われていますが、従来までとはどのような違いがあるのでしょうか。
横山 その要因には、Googleの検索エンジンの精度があったと思います。それまでの検索エンジンに比べ画期的というか、非常にクオリティーが高かった。「これは確かに自分が欲しい情報だ」と感じさせるものがありましたね。
 Googleの創業は1998年ですが、そのころからネット上にコンテンツが膨大に増え始めた。それまでの検索エンジンの技術では、膨大な情報を吟味してインデックス化し、ユーザーにとってまさにこの情報が欲しいという検索結果を表示することができなかったんですね。Googleの検索サービスは、そういうタイミングで立ち上がったんです。

――リンク数でサイトの価値を評価するページランクという考え方が、Googleの検索の基本だと聞きますが。

高広 ページランクだけでなく、今現在も検索精度を高める努力をエンジニアが日夜しています。その検索結果のクオリティーを高めるという考え方をGoogleは広告にも広げている。クリック率を加味しているのもその一つということです。

――しかし、広告を出す企業からすれば、他社より高い金額を設定したのに上位に表示されないという不満が出てきませんか?

高広 お金を出して上位を取ったけれどもクリックされない広告は、広告主にとっても果たしていい広告なのかどうか、ということですね。
横山 検索連動型広告は、クリックされて初めて課金されるから、それが言えるんですね。広告の表示でお金を取っていたらそうも言えない。
高広 Googleには、表示された回数でお金をいただくサービスもありますが、基本的にクリックされた時にお金をいただくモデルが一番使われている方法ですね。

クリック保証とクリック課金

――検索連動型広告は、よくできた仕組みという印象を受けますね。
横山 検索連動型広告は一種のテキスト広告ですが、そのフォーマットが標準化されたということも大きいと思います。バナー広告は広告主サイドでいろいろな表現が可能ですが、それが果たして受け手にとっていい表現なのか。受け入れられやすい情報として見られるかどうかとは違う話です。
 例えば、クリック保証の広告が一時ありました。広告を一定のクリック数に達するまで表示する商品です。
 クリック保証の場合、広告がクリックされないと表示回数を増やさざるを得ませんが、そうしたところで、数は思ったほど伸びないというジレンマに陥るんですね。実際にそれを売っていたぼくらも、ナンセンスだなと感じていた。
 検索連動型広告の場合は、検索結果によって表示されるテキストで書かれた何行かの情報のエッセンスを見て、これは自分が欲しい情報だと確認して、サイトにアクセスする。小さな情報スペースの中に、消費者の琴線に触れるようなキーワードが入っているかいないかで、その効果は変わるわけです。しかも広告主は、そのテキストを掲載後も反応を見ながら自由に変えられますから、広告ではあるけれど統計学みたいなところがあるんですね。
 広告主が自由にいじれるのも検索連動型広告が定着したポイントで、それが市場を形成した大きな要素になっていると思います。
高広 以前の「クリック保証」とGoogleの「クリック課金」で大きく違う点は、Googleはそのテキスト広告がクリックされることを保証していないことです。一つのサイトに対してキーワードはいくつでも選べますから、どのキーワードを選択するかも、よくクリックされる広告を作るのもあくまでも広告主だということです。表示された広告のクリック率が低い場合は、それを上げるためにどうすればいいか、表示されるテキストを変えたり、入札金額を変えたりしながら、効果を高めていくことができる。そういう意味では、Do it yourselfの広告なんです。

マーケティングへの影響


――検索連動型広告は、マーケティングにも大きな影響を与えるように思います。
横山 最近は、ウェブサイトがマーケティングの装置としていろいろな面で機能し始めています。大きなビジネスも小さなビジネスも総じてウェブサイトを中核にしてマーケティング活動が行われるようになりました。ウェブサイトが顧客の獲得装置になっているし、販売チャネルになっている。大企業では自社メディアでもあるし、コミュニケーションのメディアでもあるというようになってきています。

――それが一時的な流行なのか、これまでのマーケティングを変える大きな流れなのかということですが。
横山 今の流れから大きく外れることはないでしょうね。少なくともウェブにかかわっている人で、それを疑っている人はいないと思います。
 それからマーケティングがどう変わったかということで言えば、すでに話は一巡していると思うのです。
 まず最初は、インターネット広告の評価基準は、露出量イコール広告効果と思われていたのですが、自分にとって関係のない情報は素通りしてしまう。人の関心が顕在化した時に表示して、ボタンを押すかどうかで見ないと意味がないというふうになってきたと思うのです。それが最初に言ったリーセンシーという考え方です。
 リーセンシー理論は、何かに興味を持っていたり、買おうと思っている人の一番近くに送り込まれた広告が効果を発揮するという、言ってみれば広告のパワーが限りなくなくなっているという前提に立った理論なんです。
 一方、見方を変えれば、検索連動型広告は欲求が顕在化している人をまず刈り取ろう、という広告です。それを続けていけば、だんだん刈り取り効率は落ちていく。「人々の興味関心を誘発するのが本来の広告だったんじゃないの」という反省が、一方で出て来ているんですね。ブランドの認知やブランドイメージの醸成もしていかなければいけないという話になったのです。
 最近は、そこから、たとえば検索連動型広告から入ってきている人はどういう人かと分析して、どういう人に広告を知らしめたら、マーケティング効果が上がるのかと話が逆転し始めていると思うんです。言い換えれば、関心が顕在化している人たちがどういう状況でそこに来たのかを逆引きしていく方が実は正解なのではないか、というふうに考え方が変わってきていると思います。
高広 確かにそうですね。ただ、露出型がダメだから、検索連動型広告へということではないと思います。Googleでは、たとえば「サイトターゲティング」という仕組みがあって、ある商品やサービスのターゲットの含有率の高いサイトだけをピックアップして、広告枠のパッケージを作れるような仕組みも提供しています。それはクリック課金ではなく、インプレッション課金です。だから、広告のエクスポージャー(露出)をGoogleが否定しているわけではないんですね。
 ただ、これまでのバナー広告は、あまりにもユーザーの興味関心とは関係のない出され方をしていた。逆に、興味のない人々をどうやって振り向かせるかというところで、広告のクリエイターががんばって面白い広告を作っていた。
 でも、人々を振り向かせる方法には実はもう一つある。広告の露出の情報が効く瞬間というのは、そのユーザーが興味を持って今見ているコンテンツに近い広告を表示しても可能なんです。例えば、地酒の特集を組んでいる雑誌があったとして、地酒メーカーの広告が出ていたらその情報はスッと入ってくる。
 だから、露出型の広告もターゲティングの精度が高まれば実は効く広告になる。そういう意味では、マーケティングの考え方の根っこの部分は実は大きく変化してないと思うんです。ただ、それを実現するための手段が、この数年の間に増えてきた。ウェブの広告が、これまでのマーケティングのミッシングリンクを埋めてくれているということだと思うんです。

2つのターゲティング手法


――サイトターゲティングについてもう少し説明していただきたいのですが。
高広 同じようなサービスを提供している他社との違いは、Googleが、そのコアになっている検索テクノロジーを駆使している点です。アドワーズの管理画面から、広告主が自社の商品に合ったサイトを探し出せるようになっているのですが、これも基本には、あるキーワードを入力すると検索結果が表示される、という仕組みがあるからこそできるわけです。
 また「コンテクストターゲット」という仕組みもあり、こちらは、サイトに書かれたコンテンツの内容に応じた広告を自動的に配信する、というものです。これは単なるキーワードのマッチングではなく、そのサイトの「文脈」に合わせた広告になっていることが特徴です。
 例えばJAVAという言葉には、コンピューターのプログラムのJAVAと、JAVAコーヒーの二つがある。それを識別して、プログラムのJAVAのサイトにはコンピューター関係の広告を出して、コーヒーのJAVAのサイトには、それに関連した広告を出していく。だから、単純にJAVAというキーワードだけではなく、きちんとコンテクスト、コンテンツの中身を把握して広告を出しています。
横山 ターゲティングの技術は大まかに二つありますね。Googleのサイトターゲティングのように、サイトの文脈を分析してターゲティングするやり方と、サイトを見ている人、実際にはその人の使っているブラウザ(注2)を特定して、その人の興味のある広告を出していくという二つのターゲティングの方法があるんです。
 後者の場合は、過去数週間の検索行動やどのページを何分くらい見たかを分析して、そのブラウザに合った広告を出していく。たとえば、化粧品の比較サイトを見ていた人があるSNSのサイトに来た時にバナー広告を出すと効果があるといったことが実際あるわけです。
高広 ブラウザを特定すると言っても結局人を特定しているわけで、今おっしゃられたのは「ビヘイビア(行動)ターゲティング」ですよね。Googleのターゲティングはあくまで「コンテクスチュアル(文脈)ターゲティング」です。Googleのサービスは、コンテンツをターゲティングするのが基本で、個人を特定する広告のサービスはないんです。そこが、よく誤解される点なんです。
Gメールの画面
 例えば、GoogleにはGメールという無料メールサービスがあります。Gメールの中にも、広告が出るようになっている。それもメールの中のコンテクストを解析して、広告を出す仕組みです。メールを出している個人を特定して広告を出しているわけではないんですね。
注2)インターネットを閲覧するアプリケーション。マイクロソフトのインターネットエクスプローラーなどがある。

――いろいろな広告サービスが出てきていますが、どう整理したらいいのでしょう。

横山 発火点という視点で整理するとわかりやすいと思いますね。発火点に一番近いところにあるのが検索ページに掲載される検索連動型広告です。
 しかし、検索ページは有限なんですね。だから、コンテクストを追いかけて広告を掲載するアドセンスのページという発想が出てくる。これが、検索連動型広告の次に発火点に近い広告です。
 そして、さらにブラウザの履歴を元にその人に関心のある広告を見せるビヘイビアターゲティング、行動ターゲティングがある。その人が見ているページとは直接関係のない広告を、その人の最近の関心に基づいて表示するという考え方です。

広告キャンペーンへの影響


――最近は、検索連動型広告を前提にした広告キャンペーンが多くなっていますが。
横山 昨年10月のテレビスポットの38%に検索ボックスが入っていたという調査がありますね。広告表現として、はやっている面もありますが、新聞やテレビなどマスメディアを使ったウェブサイトへの誘導は単なる流行ではないと思います。もちろんウェブサイトがあらゆる商品カテゴリーに同じ効果があるとは思いませんが、インターネット広告や企業のホームページが商品購入の発火点になっている、それが増えていることは確かだと思います。
 ぼく自身はむしろ、ウェブサイトでどんなコミュニケーションコンテンツを開発するかを起点にして、そこからマス広告ではどういうコミュニケーションにするかという発想でキャンペーンをデザインする方が正解だと思っています。
 ただ、どこが発火点になるかはブランドやカテゴリーによって違うし、生活者との接点も多様になっている。どこでボタンを押されるのか、どういうプロセスでブランド決定されるかも複雑になっています。今のキャンペーンを見ると、そこまで考えずにとりあえずウェブサイトにしようというものもあるような気がします。
高広 Googleとしては、どうぞ広告キャンペーンに検索連動型広告をお使いくださいという立場ですが、テレビCMや新聞広告の中で提示されたある特定のキーワードを検索させ、サイトへ誘導する方法は、たぶん広告キャンペーンの進化の過程だと思いますね。
 実際にアメリカでは次の段階の傾向が出ていて、一つのキーワードだけでなく、その商品から派生するいろいろなプラスアルファの情報までを検索されるであろうキーワードにして設定し、検索連動型広告を使ったキャンペーンを行っています。マス広告で伝えられる情報内容は多様なわけで、その一つの受け皿に検索連動型広告がなっているということです。
横山 アメリカでは、マスを使ったキャンペーンの前に、そのブランドに関するオフィシャルサイトを開設したり話題をネットで広めておくことが当たり前になっていますね。予算をかけてマスキャンペーンを展開して、関心を持ってくれた人が検索してみても全然検索結果がなかったでは、もったいないということです。特に初めて世に出すブランドの場合は重要です。
 また、商品情報を企業サイトだけから得ている時代なら、そこを充実させればよかったのですが、消費者が情報を発信する時代になっている。最終的な購買決定が同じ立場の消費者の意見に影響されるようになっています。逆に、マイナスの情報も含めてネット上に情報があふれている状況を想定してからマス広告を打たないと効果はないという状況も生まれつつありますね。

Ryuji Yokoyama
1958年静岡県生まれ。青山学院大学文学部英米文学科卒。旭通信社入社後、営業職などを経て、サイバービジネス開発室室長。デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム設立に参画。96年同社代表取締役副社長就任。06年7月よりADKインタラクティブCOO。近著に「究極のターゲティング―次世代ネット広告テクノロジー」、「インターネット広告革命―クロスメディアが『広告』を変える。」(共に宣伝会議) など。本誌2006年4月号より「Cross Mediaの必然性」を連載。
Ryuji Yokoyama


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