特集 2007.1・2/vol.9-No.10・11

クリエイティブが変える新聞広告

企業ブランドをつくる新聞広告
●1950年宮城県生まれ。東京理科大学理学部卒。博報堂に入社後、コピーライター、クリエイティブディレクター、MD局長、エグゼクティブMDディレクターを経て現職。キヤノン技術広告・商品広告、自動車、食品、流通など数多くの広告を担当。ACC賞、新聞広告賞、読売広告大賞金賞、日経広告大賞グランプリなど受賞多数。

 キヤノンは技術力をアピールする企業広告を新聞を中心に展開している。表現のプロフェッショナルとして広告クリエイターは、それにどう向き合っているのだろうか。キヤノンの広告制作に長年携わってきた博報堂C&Dの柴田常文氏に聞いた。


――柴田さんはキヤノンの担当が長いとお聞きしています。
 入社2年目から30年近くお仕事をさせていただいています。広告会社の人間としては珍しい長さだと思いますね。
 キヤノンの複写機や計算機といった事務機はそのころから担当で、OAブームとともに企業として急成長した時期や、デジタル化による高画質化にも仕事を通してかかわらせていただいてきました。

経営者主導でブランディング

――キヤノンは、ここ数年、新聞を中心に技術力をアピールする企業広告を続けていますね。
 2003年から国内の企業イメージをさらに高めるために、キヤノン本体の技術の優秀性を訴えることが必要だということから始められたようです。また、さまざまな領域へ事業を広げていく時に、もっとキヤノンのブランドを強くしていかなければならないという企業のトップのご判断もあったと思います。

――純粋に企業ブランディングの広告ということですね。
 経営者が率先して企業のブランド広告に取り組んでいるという意味では、キヤノンは稀有な例だと思います。それで実際に、販売シェアも企業ブランドイメージも伸びているんですね。
 バブルが崩壊してから日本企業でも盛んにブランディングが言われるようになりましたが、実際に行動に移すのはとても難しいと思います。しかも、最近は事業部や営業部などから宣伝予算が拠出される場合が多い。
 ブランディングを考えるのは普通は宣伝部の役割ですから、我々は宣伝部からオリエンテーションを受けます。しかし、多くの人がかかわることから、あれもこれもと欲張ってしまい、チラシみたいな広告になってしまう場合があります。

新聞広告へのこだわり

――その企業ブランド広告をキヤノンでは新聞広告を中心に展開していますね。
 よく新聞は説得メディアという言われ方をしますが、キヤノンの新聞に対するこだわりには、そういうメディアの機能を超えた熱いものがあるような気がします。やはり、カメラのキヤノンという写真文化が根底にあるからかも知れませんね。
 ですから、ぼくのチームでもプレゼンの企画を考える時は、新聞広告などのグラフィックをベースに議論しています。

――それは、テレビCMの出稿量が多い場合もですか。
 圧倒的にテレビCMの露出が多い場合でも同じですね。
 でも、それが正しいやり方だと思うんですよ。数多ある製品の中で「今度の製品、何がすごいんだ」「何をメッセージするのか」を1つに集約してからでなければ、説得力は生まれないわけですから。だから逆に、キヤノンの新聞広告はすっきりとワンビジュアル・ワンメッセージになっていると思うのです。

――逆に言うと、そういうクライアントが少ないということですか。
 今は、「この商品は何を言うべきか」「何を言わなければいけないのか」を決めることが大変になっているんです。だから、オリエンを受けた後、広告会社は、マーケと制作、営業が集まって、「何を言うんだ」というところから常に考えてスタートします。
 ぼくはコピーライター出身なので、企画を考えるときは、まず言葉ありきなんですよ。「What to say」、つまり「今は何を言うべきか」という言葉をクライアントと共有することで、次の「How to say」、つまり、「どう言うか」という表現のステップに進める。それが、ワンビジュアル・ワンメッセージの新聞広告になる。ぼくらは、「表現屋」だから、いろんな表現の手口を持っているわけです。
2006年5月19日 朝刊 2006年5月23日 朝刊
2006年6月13日 朝刊 2006年6月16日 朝刊


高画質をどう表現するか

――キヤノンのブランド広告でも、そういう苦労はある?
 キヤノンの場合は、「きれいじゃなければキヤノンじゃない」という暗黙の了解がDNAとしてあるように思います。カメラやカラー複写機という製品そのものもそうですし、社員の中にも学生時代、カメラをやっていた人が多いという話を聞いたことがあります。広告表現もすっきりとした美しさが求められる。「きれいさ・美しさ」に関しては、ものすごいこだわりがあるわけです。
 ですから、「何を言うか」の先の「どう言うか」「どう見せるか」について吟味することが、とても楽しく大変でもあります。カメラにしても複写機にしても、デジタル化が進んで、毎回、新製品は圧倒的にきれいになっている。ぼくら広告を作る側のジレンマは、「こんなにきれいになった」をメディアの画質なり画像を通してしか訴求できないということです。
 テレビの解像度以上のものは見せられないし、新聞も最近は飛躍的にカラー印刷がきれいになりましたが、以前は、カラーの再現力を考えながら表現のアイデアを考えていたところがありましたね。

――今のキヤノンの新聞広告もリアリティーに相当こだわっているように見えますね。
 キヤノンの広告の場合、例えばカメラなら、そのカメラで撮った実際の写真を使わなければいけないという前提があります。広告の写真を見てもらえばわかりますが、写真の下に、使用した機種や撮影条件などの撮影データが小さく書いてある。小型のデジタルカメラの広告であっても、それで撮った写真で新聞広告を作るということです。
 それから、技術広告に限ったことで言えば、広告に一貫性を持たせるために、基本的には広告フォーマットを統一しています。パッと見て、キヤノン!とすぐわかるような狙いですね。だから、毎回写真とコピーで勝負するという、まるで針の穴を通すような企画作業です(笑)。

シリーズ広告への欲求


――ブランディングはグラフィックで定着させていく方がやりやすい?

 今は、新聞だけ、テレビだけではなく、“タッチポイント”と言われるように、インターネットを含めて生活者とのすべての接点をどう組み合わせて表現を作っていくかという時代になっています。
 でも、日本の場合は新聞はマスメディアだし、新聞広告の影響力も他の国と比べて大きい。テレビCMはストーリーでの訴求ですから、意味を固定しにくい。そういう意味でもブランドを定着させていくためには、新聞広告は有効です。
 クリエイターにも新聞のシリーズ広告を作りたいという欲求があるんです。今はモノクロ7段とか5段でも、シリーズ広告ってほとんどないですよね。新聞広告は15段、30段でドンとやるのが主流で、新聞がポスター化している。本当は、毎週月曜日掲載みたいな突き出し広告のシリーズ仕事でもあれば、クリエイターは燃えるんですが。
 それが、結果としてブランド力を上げるのにいかに貢献できるか、なのですけどね。



新聞広告に一流のクリエイティブを
シンガタ クリエイティブディレクター 佐々木 宏 氏→


企業ブランドをつくる新聞広告
博報堂C&D 代表取締役社長/クリエイティブディレクター 柴田常文 氏→
もどる