特集 2006.11/vol.9-No.8

クリエイターにとっての新聞広告
キャンペーンに芯を通すメディア

 今年6月に博報堂からground LLCへ移籍した渡辺潤平氏(29)は、タッチポイント的なメディア手法でカンヌのメディアライオン・ブロンズ賞も受賞している気鋭のコピーライターだ。新しいメディアの使い方を得意とする渡辺氏にとって、新聞はどんな意味を持っているのだろうか。


――最初から、ストレートな質問ですが、渡辺さんにとって新聞広告とは、どういうものですか。
 ぼくが6年間いた博報堂は、グラフィック広告を丁寧に作りあげるのが伝統。企業が新聞に15段の広告を出すことは、世の中にはっきりとしたメッセージを打ち出すための特別な行為だということを、新人のときにたたき込まれたところがありますね。「新聞広告15段は特別な広告」というのが、ぼくの中での初期設定になっている。
 周年広告はもちろんのこと、ときには社運を懸けた商品を出す場合まであり、広告主は明確な意志と覚悟を持って新聞広告を打つわけだから、それに見合うようにボディーコピーの一字一句までトコトンこだわって仕上げなければダメだ、と言われてきたんです。また、5段広告ならキャッチ1発でほぼ勝負が決まる。どちらにしても、新聞広告を作る時はいつも、かなり気合が入りますね。

――雑誌やポスターとは、コピーを書く時の気持ちが違う?
 新聞広告は出稿の金額も大きいし、日本中の人が目にする媒体という意識があります。
 今の若いデザイナーやコピーライターにとっては、駅貼りのB倍ポスターを作ることが目標の1つだと思うんです。ぼく自身そういうところはあります。でも、ポスターは道行く人を立ち止まらせることができても、手に取ってじっくりメッセージを読み込んでもらうことはできない。それができるのが、新聞広告にしかない強みですよね。

――駅貼りのB倍ポスターが目標というのは?
 ぼくらの世代にとって、自分の作ったものが世の中にきちんと到達していることを1番実感できるのが駅貼りポスターなんです。山手線の駅や東急渋谷駅に自分の作ったポスターがドカンと連貼りされれば、友だちや仕事仲間に「あれ、見た?」と話ができる。自分の作ったポスターが街なかで存在感を放っていると自信もつくし、単純にうれしい。少なくとも、東京では“ヤッタ感”があります。

――一方、田舎のお母さんは知らなかったりするわけですよね。
 そこなんですよね(笑)。駅貼りポスターの場合、自分の友だちや渋谷の街を歩く女子高生が見たときに、どうおもしろがってくれるかを意識して作れるのでシンプルに考えられる場合が多いけれど、新聞広告は不特定多数の人が目にする。それこそ、自分が行ったことのない小さな町に暮らすおばあさんも目を通す。その方にとって、新聞はもしかしたら1日のうちで1番重要な媒体だったりしますよね。
 その中に広告が入るとはどういうことか。能動的に読んでくれる人がいるのならば、それに応える原稿を作らなければいけない。新聞広告は、作る側にも高いモラルが必要になると思うんですね。

世の中に語りかける広告

――媒体によって作る時の態度が違うということですか。
 駅貼りポスターは、展開する駅や貼る場所まで絞れるし、媒体を選んだ時点でターゲットがある程度セグメントされるんですね。さすがに山手線の渋谷駅から東横線に乗り換える通路に、お年寄り向けの商品のポスターはまず出さないですから、どういうメッセージがいいか割とシンプルに書けるんです。

――新聞はターゲットを絞るのがむずかしい?
 というか、幅広い相手にコミュニケーションするのが前提になりますね。特定の誰かに受ければいいわけではないところが、すごくむずかしい。例えば女性用の下着の広告は、当たり前ですが男性の読者にはまず直接関係がないですよね。

――その関係ない人たちにも情報が伝わることを、どう考えていますか。
 コアなターゲット以外の人にも企業にプラスになるイメージを作っていくということが、新聞広告には大事なことだと思っています。
 例えば、ぼくが以前担当させていただいたベネッセコーポレーションの東大・京大向け教材の広告も、コアターゲットは東大・京大の受験生のご両親と学校の先生という、ものすごく数少ない層なんです。ですがこの広告も、ベネッセが世の中に対して語りかける感じを意識して作りました。
 ベネッセは、「やさしい」「いっしょに走ってくれる」というイメージを持った会社です。そこをあえて「近道は、ない。」というような力強い語り口にしたのは、「やさしさ」だけでなく、強い意志を持っている会社であることを、この広告には直接関係のない9割5分の人にもきちんと伝えたいと思ったからなんです。
 「目標を決めた人は、強い。」というコピーも、ターゲットの中高生たちだけではなくて、この広告を目にした大人にも自分の生活に当てはめたときに、ちょっと勇気を持ってもらえるような広告にしたいと思って作りました。
 ただ、ボディーコピーまで全部読んでくれる人は正直、10人に1人もいないと思うんですね。だから、ボディーコピーを仕上げるときは情報をただうまくまとめて説明するのではなく、最後まで読んでくれた人がトクをするような「読後感」を残すための工夫を毎回意識してやっています。

3月24日 朝刊 3月26日 朝刊


――明治製菓の広告は、そのボディーコピーで読ませる広告になっていますね。
 これは、ミルクチョコレート誕生80周年の広告です。普通だったら「ありがとう、80周年。これからもよろしくお願いします」と襟を正したお礼広告になってしまうところなんですが、単純にそうしたくなかった。「チョコレートは、なぜあなたのそばにあり続けてきたのか」ということをチョコレートの視点から言ってみたいと思ったんです。いわば、チョコレートからの意見広告。明治のチョコレートは誰もが知っているし、口に入れた時の味もみんな知っている。それを最大限活用しようと考えたのです。

――ベネッセの広告とは、全くトーンが違いますね?

 でも、どれも自分ですね。ぼくはやっぱり自分の知っていることや自分の思ったこと以外書けないんです。もし、広告によってコピーの人格が違うとしたら、仕事中の自分と、飲み屋にいる自分と、家族とのんびり過ごしている自分が全然違うのと同じだと思うんです。ベネッセの商品に向き合ったときのキリッとしたメンタリティーと、チョコレートと向かい合ったときのフワッとした、やさしくなれる気持ちとは違いますよね。
 今年のワールドカップで開催されたパブリックビューイングの新聞広告のコピーも、試合が近づき自然と高ぶってくる気持ちに忠実に書いています。

9月13日 朝刊 6月10日 朝刊


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