特集 2006.9/vol.9-No.6

今、なぜ、企業広告なのか?
「会社の値段を高める」という企業広告の役割
●大阪府生まれ。早稲田大学文学部卒業。電通を経て、1960年日本デザインセンター創立に参加。コピーライターとして、アサヒビール、野村証券、トヨタ自動車など各社の広告づくりを担当。現在、日本デザインセンター最高顧問。TCC幹事。日本広告学会理事。著書に「かくも雄弁なクルマたち」「広告の迷走」ほか多数。

 これまで企業広告の目的は、企業イメージの向上やコーポレートブランドを高めるためとされてきた。しかし、それが経営にどれだけ寄与するか、説得力のある答えは見いだされてこなかった。日本デザインセンター最高顧問の梶祐輔氏は、企業価値を高めるという新たな企業広告のあり方を提案する。


――最近、企業広告をどう見ていますか。
 確かに企業広告は増えていますが、空回りしているところがあると思いますね。新しい状況に対応した企業広告は、まだ出てきていない気がします。

――企業広告が空回りしているというのは?
 企業広告の目的が経営と明確に結びついていない点です。それこそが、これからの企業広告に求められているものだと思うんですね。そういう意味で、21世紀の企業広告は企業イメージの向上やコーポレートブランドの確立を狙いとした20世紀の企業広告の延長ではないというのが、私の考えです。21世紀になって5年たって、本当の21世紀の広告の姿が見えてきたような気がします。

何のための企業広告か

――経営と結びついた企業広告とは、どういうことでしょう。
 何のために企業広告をするのかと問われたときに、これまできちんと答えられる人はいなかったと思うのです。例えば、最初に考えられたのが、「企業イメージを上げるため」という答えです。しかし、「企業イメージを上げることは、企業にとってどんなメリットがあるのか」と開き直って問われると、それにきちんと答えられなかった。売り上げや企業に対する支持を高めるなどさまざまな仮説に基づいた調査は行われてきましたが、説得力のある答えを見いだすことができませんでした。
 次に出てきたのが、「コーポレートブランドを高める」という目的です。20世紀の最後の10年ぐらいから言われるようになってきたことですが、では、コーポレートブランドを高めることに、どんなプラスがあるのか。これも、改めて問われると答えられません。
 ブランド論の発火点になったデビッド・A・アーカーの考え方では、ブランドとはブランドエクイティ、つまりブランドの資産価値のことです。わが社のブランドは何千億円の価値があるというように、ブランドを金銭で評価しようとした。それがブランド・ブームの起こりだったわけですが、日本に入ってきて、資産価値という面が脇に置かれて、コーポレートブランドという言葉が独り歩きし出した。コーポレートブランドを高めることが企業経営にとって必要といわれながら、どんなプラスがあるのか、具体的な明快な答えが出てこなかったのです。新規の客を狙うよりも、ブランドによって集まってくる顧客を捕まえたほうが効率がいいというようなことは言われましたが、本当にそうなのか説得力のある答えは得られなかった。また、ブランド資産もいろいろな算定方法があり標準モデルへの道は遠いのじゃないか。
 やはり、企業広告は何のためにあるのか、はっきりした答えを出さなければいけない時期に来ていると思います。POSで管理された販売やインターネット広告では、情報の投入とそれによる効果が非常にはっきりつかめるようになってきました。そういう状況の中で、企業広告に投じる費用とそれがもたらす効果とがよくわからないというのでは、企業広告は発展する余地がないと思うのです。

会社の無形資産を増やす広告

――企業広告の目的をどこに置くべきだとお考えですか。
 企業の評価が1番ストレートにわかるのは、やはり株式の時価総額です。「株式の時価総額が会社の値段」というのが、世界の通説になっています。
 ライブドアのように株式をやたら分割して、非常に作為的に株式の時価総額を増やすというのは論外ですが、企業が健全に運営されていて、しかも企業が優秀な人材確保やブランドの強化、開発投資、あるいは、広告活動を積み上げていけば、そういう努力が株価に反映して株式の時価総額が上がってくる。
 株式の時価総額というのは会社の値段です。株主から会社の経営をあずかっている経営者の役割は、自分があずかっている会社の値段を高くすること、そう言い切っていいと思います。

時価を反映したバランスシートのイメージ
――株式の時価総額が会社の価値という意味が、今1つわからないのですが。
 今の株式には50円、5万円という「額面」がないですから、発行されている株式の全体が今いくらになるかという「時価総額」で比べないと比較できないということがまずあります。そこに、企業の価値、その企業の将来性や世の中の評価が反映されるのです。
 図は、森生明さんの『会社の値段』という本から引用した株式の時価総額を反映したバランスシートです。左側には現金・預金などの余剰資産や工場・設備機器などの営業資産、右側に銀行からの借り入れなどの営業負債、それから純資産などがあり、左右がバランスしています。純資産というのは、最初の株式の総額です。ところが、株式の時価総額はこの純資産より多い。株式を公開して何年かたつと、株価が上がってくる。この増えてきた中身が、無形の営業資産、無形資産と言われるものです。経産省などでは、これを知的資産と言っています。
 この無形資産というのは、例えば、研究部門のドクターの数や、特許の数、あるいはコーポレートブランドの価値などで、財務諸表に表れないさまざまな資産が含まれているわけです。今までは工場や設備機器、土地など目に見える営業資産が会社の資産だったのですが、最近の企業はこの無形資産の占める割合が非常に大きくなっています。
 検索エンジンのグーグルは2人の大学生が8年前に設立した会社ですが、その時価総額は今では15兆6千億円で、米ハイテク業界で2位です。1位はマイクロソフトで時価総額は33兆円。だが、いずれはグーグルに抜かれるという声があります。そのグーグルの時価総額のほとんどは無形資産で占められています。
 時価総額を純資産で割った値をプライス・ブックバリュー・レシオ(PBR)と言いますが、今の日本企業のPBRは2倍ぐらいです。一方、アメリカ企業の平均は、4倍ぐらいある。その差はどこから生まれているかと言えば、無形資産です。だから、いかにしてこの無形資産を増やすかが、会社の値段を高くする決め手なのです。それには自社の無形資産の内容や特色を読者にきちんと理解させるための企業広告が必要です。技術開発力やブランドの価値など目に見えない会社の価値を伝えるのが、これからの企業広告の非常に大きな役割だと思うのです。

――無形資産は目に見えないからこそ知らせる必要がある?
 それが同時に企業の経営者の社会に対する責任だと思います。環境に悪影響を及ぼせば、いくら売り上げを上げても会社の評判は下がるわけです。世の中に対して十分に心配りをして、それで初めて時価総額が上がっていくわけです。
 例えば、コーポレートブランドをテーマにした企業広告も、スローガンだけで企業広告が成り立つわけではありません。その背後にある、技術開発力やそのための人材など、その企業が持っている無形資産を広くきちんと世の中の人たちに伝えることが必要です。それが、株の時価総額を引き上げて、会社の価値を高めることに直結する。そういう明確な意図と内容を持った企業広告が、これからの時代には必要なのです。

企業広告は「BtoS広告」

――そうすると、企業広告のターゲットは投資家に限定した方が効率がいいという話になりませんか。
 だからといって、企業広告のターゲットを単に投資家だけに限定するのは間違いです。株主だけならIR広告でいいでしょうが、無形資産を知らせるのは単に投資家やデイトレーダーの人たちだけに向けた情報発信ではいけないと思うのです。例えば、コーポレートブランドやCSR、あるいは環境問題に対する取り組みは、企業のステークホルダー全体に関連する問題です。そうした人たちの理解を得られなければ健全な企業活動はできないわけですから、企業広告の対象は企業活動に関与する人たち全体と考えるべきです。
 昔から、BtoB広告、BtoC広告という区別がありますが、企業広告ではこうした区別もナンセンスだという気がします。企業広告を考えるときの基本は、「BtoS」だと思います。「S」とはステークホルダー、そして社会(ソサエティー)です。

――それは、消費財を作っている企業、生産財を作っている企業を問わない?
 インテルは、コンピューターのデバイス会社で、ユーザーとは直接接点はなかったけれど、企業広告に積極的で大成功しました。日本でも、部品メーカーの村田製作所はバブル期以降、企業広告を続けてきて、株の時価総額も上位にずっといる。企業広告が企業価値に影響するということだと思うのです。

戦略的な企業広告の利用を

――無形資産を大きくすることを目的にすると、今までの企業広告と作り方も変わってくるのでしょうか。
 CSRであれ、コーポレートブランドであれ、それで時価総額を上げるためには、どういう広告を作ればいいかという視点で考えれば広告表現は変わってくるわけです。その狙いがあいまいだったために、これまでのIR広告も、企業経営にあまり寄与してなかった。IR広告の視点と企業広告が戦略的に合体したときに、新しい企業広告が生まれると思うのです。
 これまでの企業広告が空回りしている原因は、無形資産を増やし企業価値を高めるところに企業広告の目的を明確に置いていないからです。CSRへの取り組みや技術開発力という知的資産を売り込むことが、会社の値段と連動するという意識があれば、企業広告にはもっといろいろな展開があるだろうと思います。その表現の開発が、今後の広告のテーマになってくると思います。
 言い換えるなら、これからの企業には、商品を売っていくためのプロモーション活動と同じように、企業の値段を高めていくプロモーションが必要だということです。広告も新しい時代に合わせて、その目的を問い直す時期が来たと思います。



B to B 企業に企業広告が必要な理由
村田製作所 広報部部長 大島幸男氏→


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トンボ鉛筆 代表取締役社長 小川晃弘氏→


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