特集 2006.9/vol.9-No.6

今、なぜ、企業広告なのか?
広告と広報の連動でレピュテーションを高める
●上智大学文学部新聞学科卒業。慶応義塾大学大学院経営管理研究科修了。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。東洋経済新報社等に勤務。多摩美術大学専任講師、助教授を経て、2004年4月から東京経済大学助教授。日本広報学会理事。著書に『報道の経済的影響―市場のゆらぎ増幅効果』(御茶の水書房)など。

 企業のコミュニケーション戦略から見れば、広告と広報は共通性があると、東京経済大学の駒橋恵子氏は指摘する。企業コミュニケーションの成果を測るレピュテーションとは何か。また、そこで果たす企業広告の役割について聞いた。


――広告、広報にかかわらず企業コミュニケーションが重要になってきたと言われています。その要因は何でしょう。
 最も大きな要因は、CSR(企業の社会的責任)が問われるようになったことです。社会一般の人たちに自分たちの活動を理解してもらって、企業の社会的な存在意義を明確にしていくことが企業の責任になってきたことがまずありますね。

――個人投資家を対象としたIR広告も増えてきましたが。
 個人投資家が増えたことも、企業コミュニケーションが重視されている要因の1つです。ただ、企業広告とIR広告を分けること自体、実態からいうとナンセンスになりつつあると思います。個人投資家と事業会社は投資額でも同じぐらいの規模になってきています。また、現在は株主でなくても、潜在的な株主という可能性があるわけですから、一般消費者イコール株主と思ってもいいのではないでしょうか。こうした状況は、消費者と直接かかわらないBtoB企業も例外ではないと思います。

――BtoB企業ですが、情報発信にあまり積極的ではない?
 ニュースリリースの発行回数も、消費財メーカーでは年間500件から1,000件出しているところが多いですが、BtoB企業では数十件程度がほとんどですね。
 BtoB企業が企業コミュニケーションに取り組むべき理由は、ほかにもあります。「社会が別に評価してくれなくても、うちの商売と関係ない」というスタンスが取りにくい時代になってきていることです。
 接待や談合など、今まではBtoB業界の慣習だったことが摘発の対象となっています。「一般人はわからなくていい」「おれたちはおれたちの理屈でやっている」という今までの業界の論理が通用しなくなり、公正な競争や消費のための情報開示が求められてきています。
 そうなると、だれから情報を見られてもいいように、自分の会社の業務から後ろ暗い部分をなくさないといけないし、社内も風通しが良くないといけない。あらゆる意味でのコミュニケーションが見直されているということです。

レピュテーションという尺度


――企業広告の効果、あるいは広報を含めた企業コミュニケーションの成果をレピュテーション(企業の評判)という尺度で見ていく動きがありますね。
 コンプライアンス、つまり法律さえクリアすればいいというところがまだ多いと思いますが、それでは企業が社会的責任を果たしているとは言えませんし、その企業のレピュテーションが高まることもありません。社会の人たちが企業に求めているのは法令順守だけではないのです。それは何かというところを考えないと、レピュテーションは高まらないと思います。
 例えば、日本銀行の福井総裁が村上ファンドに出資していたことが問題になりましたが、現行の法には触れていません。それが、あれほどバッシングされた。また、逮捕されて起訴されたけれど無罪判決を受けた不正融資絡みの事件もあります。
 ここで重要なのは、法に触れているいないにかかわらず、人々の心にはバッシングされた当時のイメージだけが残ることです。レピュテーションは、そうした記憶が蓄積されていったものなのです。ポジティブな情報よりもネガティブな情報が増えると、マイナスのイメージが過剰になって、「債務超過」状態になってしまう。それがレピュテーションの怖いところです。

――どういう要因でレピュテーションは良くなったり、悪くなったりするのでしょう。
 まずは商品・サービスという実態があって、それを取り巻く情報がプラスされてレピュテーションはつくられます。その周辺情報は、新聞報道やテレビニュースからテレビのワイドショー、広告、ネット情報、そして口コミまで、ありとあらゆる情報がレピュテーションの構成要因になります。すべての断片的な情報が、それを受信した人の記憶の中で連鎖的につながっていくようなものだと思います。

口コミが注目される背景


――レピュテーションの要因の中でも、最近は「口コミ」が注目されていますね。
 「不祥事」を新聞記事検索すると、80年代は年間数十件だったものが、最近は主要4紙合計で1万件を超えています。また、「口コミ」「評判」「風評」という用語も同じ時期から急増し、企業のネガティブな話にも、ポジティブな話にも登場するようになってきました。理由は、消費者が口コミを重視した購買行動を取るようになってきたからです。もちろん、口コミにはパソコンや携帯電話を経由したうわさ話も含まれます。一斉送信すれば相当な人数に情報を送れますから、ネガティブなうわさもすぐに伝わります。

――口コミによる購買行動の変化というのは?
 口コミが、新商品や企業コミュニケーションのきっかけになるのは最近の傾向です。チョコレート会社がバレンタインブームを仕掛けるような押し付けは、最近ではあまり好まれてなくて、消費者側から発生したものが、ネットの中で大きくなっていく形が好まれるようになってきています。
 例えば、チョコレートの「キットカット」は、数年前から福岡を中心に方言で「きっと勝つと」ということで合格のお守りとされるようになり、この話を製造元のネスレが素早くキャッチして、合格祈願用の商品を受験シーズンに全国レベルで販売するようになりました。このほか、流行に敏感な女子高生にアルバイトのように新商品の評判を広げてもらう口コミ発信会社もありますし、主婦を中心とした多数のモニターに販売前の食品を送って知人の感想を聞いてもらうことで話題にしてもらうような手法も導入されています。サントリーの伊右衛門も、CMで京都老舗の茶屋というストーリーを演出したからこそ、お茶市場の後発ながら、高いシェアを獲得しました。
 別の言い方をすると、最近の人々は、商品を選ぶときや企業を評価するときに、あそこの会社はこうだ、あの商品はこうなんだというような「ストーリー性」を持った情報を重視するようになったということです。

評判を高めるストーリー性

――「ストーリー性」について、もう少し詳しく説明してもらえませんか。
 広告に積極的な企業をイメージした時に、皆さん何らかのストーリーを思い浮かべると思います。例えば「トヨタ」と聞くと、レクサスやハイブリッド車の評判など、いろいろなイメージが出てくる。新聞のカラー全面広告やテレビのCMソングが印象に残っている場合もあるでしょう。何らかのストーリーは、皆さんそれぞれ頭の中にあって思い描くことができるはずです。それこそが、レピュテーションの構成要因です。企業名を聞いても、「何の会社だっけ?」といわれるようでは、レピュテーションが低いといえます。
 商品、営業マン、店頭、パッケージ、あるいは企業コミュニケーション全体に言えることですが、そこにストーリーがあると印象に残ります。単発的情報を発信するだけでは、なかなかレピュテーションの向上にはつながっていかないんですね。
 レピュテーションは、「実態を知っている」こととも違います。その会社に実際に行ってみたことがなくても、みんながイメージを持っている企業もあれば、実態を知っている人しかイメージがわかない企業もあります。情報にストーリーのない企業は、社会的に無色透明でイメージがなく、ブランド力も高まりません。
 また、レピュテーションにはリクルート効果やインナー効果もあります。レピュテーションの高い企業に帰属して貢献することは自分のプライドにもつながりますから、最近のように人材が流動化してくると、レピュテーションの低い企業からレピュテーションの高い企業へと、優秀な人材が流れる可能性もあります。レピュテーションの向上は、そうしたさまざまな効果を生み出します。
 そのレピュテーションを向上させるための社会との窓口となるのが、広告や広報を使った企業コミュニケーション戦略だと思うのです。

企業広告と広報

――レピュテーションを高めるための広告、特にマス広告の役割はどこにあるのでしょう。
 レピュテーションを形成するには、ステークホルダーに幅広く情報を訴求しなければいけません。そういう意味で、一般消費者、地域住民、個人投資家など、いろいろな人たちに情報を発信していくには、やはりマス広告が必要だと思います。
 また、知名度を高める場合にも、マス広告は非常に有効です。企業の認知度をまず上げないと、口コミも発生しません。「認知は好意の入り口」で、まったく知らない外国の単語や音楽でも、ずっと聴いていると、その言葉に好意を感じるという実験結果があります。

――企業コミュニケーションから見て、新聞とテレビの効果の違いはどこにあるのでしょう。
 テレビCMはイメージや印象を形成するには効果的ですが、レピュテーションはそれだけでは形成されません。そのためには、さまざまなストーリー、言い換えれば「雑多な情報」が必要です。その雑多な情報の1つとして、自社の情報を詳しく説明できる媒体が新聞広告です。
 もちろん、客観性の高い情報を伝えるという意味では、広告ではなく記事が最も有効です。詳しい情報は自社のWebサイトに載せることもできます。しかし、記事は企業側がコントロールできず、Webサイトは自社に関心がある人しか開いてもらえない。そういう意味では、企業側がコントロールできる情報発信ツールとして、また、その情報について関心のない人たちに、広く深く情報を伝えられるツールとして、新聞広告の役割は大きいと思います。

――企業コミュニケーションにおける広告と広報の役割について、どうお考えですか。
 今述べたように、広告の特徴は企業がコントロールでき、いくらでも自社の言いたい情報を出せますし、表現方法も自分たちで工夫できることです。
 一方、広報の特徴は記者という第三者の目を通すので客観性や信頼性は高いですが、新聞、テレビ、雑誌などに「書いてもらう」、「取り上げてもらう」のが基本なので、企業の思うようにはならないことです。書いてもらう了解ができていても、ほかに社会的な大事件が起きたら飛んでしまうし、不確定要素が多いのです。
 ですから、広告と広報はメディアに対して違うアプローチを行いますが、企業の情報発信ということで言えば共通性がありますし、完全に分けてしまうのもかえって不自然です。両者の特徴を生かした統合的なコミュニケーション戦略を考えることが重要な時代になってきていると思います。



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