特集 2006.5/vol.9-No.2

本を動かす。
本屋という接点の活性化

 全国の書店員が最も売りたい本を選ぶ賞として注目を集めている「本屋大賞」は、昨年12月に実行委員会がNPO法人化され、2月には書店で配布されるフリーペーパー「LOVE書店!」も創刊した。新たな動きを見せる「本屋大賞」の狙いについて、本屋大賞実行委員会理事で、「LOVE書店!」編集長の嶋浩一郎氏に聞いた。

――嶋さんが「本屋大賞」にかかわったきっかけは?
 「本の雑誌社」のウェブサイト「WEB本の雑誌」の編集を手伝ったのがきっかけです。サイトには書店員からのアクセスが多く、自然に「直木賞や芥川賞など出版社主催の文学賞ではなく、私たちの売りたい本を選べる賞があったらいいよね」という声が多く聞かれるようになりました。このサイトに投票箱を置けば、書店員が選ぶ賞が実現できるという話になったんです。

――「本屋大賞」が、これだけ注目された理由は何だと思いますか?
 もともと、本屋さんは本の目利きだなあと思っていたので、じつは面白い!という佳作を選んでくれるはずだという確信はありました。結果として、初回は『博士の愛した数式』が大賞に選ばれましたが、この賞は一等賞を選ぶことよりも、それを選んだ書店員が地方の小さい書店でも都心の大きい書店でも、自発的に書店でフェアを展開するところがポイントだと思うんです。本屋大賞は、売りの現場から出版業界に対して一石を投じるアクションが起こせないかということで始めた賞ですが、それが少しずつ現実のものになっている気がします。

NPOと「LOVE書店!」

――昨年末、実行委員会をNPO法人化した理由は何ですか?
 実行委員会のメンバーの書店員はボランティアで集まっていました。とはいえ、賞の運営はお金がかかります。活動に賛同していただいた方から寄付の申し出がこれまでもあったのですが、法人化していないと会計処理もできない。NPO法人化してきっちりやっていこうということです。

協力店に配布された「LOVE書店!」創刊号
協力店に配布された「LOVE書店!」創刊号
――「LOVE書店!」というフリーペーパーを、NPOの設立後に発行されましたね。
 何より書店員の方の協力で成り立っているのが「LOVE書店!」で、広告収入は本屋大賞の運営に使われる仕組みです。書店員の方と一緒に企画を立てています。書店員ならではの視点が生かされていると思いますよ。創刊号は10万部を協力書店に配布しましたが、大好評ですぐに在庫が無くなってしまいました。広告も最初に設定した枠が売り切れてしまい、急きょ、広告ページを増やしたくらいです。次はなんとか夏ぐらいまでには出そうと思っています。

――第3回の今年は、ベストセラーが選ばれましたが。
 リリー・フランキーの『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』ですが、すでに100万部以上売れた本を本屋大賞に選ぶとはどういうことだ、みたいな批判も多いですね。投票に参加する書店員さんが増えて、よりメジャーな本が選ばれるようになってきているとも思いますが、「ルールは絶対にシンプルにしておいたほうがいい」と思っています。それは、現役の書店員が自分で読んで、売りたいと思った本という基準です。100万部を超えている本が選ばれたとしても、本当に書店員が読んで、お客様にこの本を売りたいと感じたわけですから、その気持ちを一番大事にしたいということです。リリー・フランキーさんを知らなかった方など、新しい層の読者がこの賞をきっかけに生まれるとうれしいです。

――本屋大賞を、今後は新刊や文芸以外のジャンルにも広げるということも考えている?
 そういうチャレンジをしていきたいという話は書店員の方からも起こっています。いい本を選ぶ力が書店員さんにはあります。古今東西のオールジャンルから、埋もれているけど売ってみたい本を「発掘本」として投票を受け付けてはいます。ただ、やはり配本がきちんとできないので難しいですね。
 だから、まずは本屋大賞にノミネートされた10作品だけでも、きちんと書店から注文を出して配本していただく状況を少しずつ作って、流通の硬直化したところをちょっとずつ崩していきたいとは思いますね。まずはちゃんと足腰を鍛えて、実績を作っていこうというのが、今のスタンスです。

本屋を元気にしたい

――嶋さん自身は、博報堂に籍を置いて本屋大賞の活動をされてきましたが。
 広告会社の名前が出ることで、賞について誤解を招くことが確かにありました。ただ、自分は博報堂でも雑誌「広告」の編集長として出版業務にかかわってきました。自分で書店にポスターを張りに行ったり、取次に通ったりもしたんですよ。出版不況に対して何か自分ができることがないかと思っていたわけですが、賞の立ち上げ・運営のため、「WEB本の雑誌」や「LOVE書店!」の編集、マークのデザインやクリエイティブ、賞のPRなど広告会社的スキルでお手伝いができたことはいち本好き、書店好きとしてとてもうれしいことです。

――「LOVE書店!」の広告集稿はどのように。
 出版営業局のメンバーが協力してくれています。彼らのうち何人かは立ち上げ当初からボランティアとして本屋大賞の運営にも加わっています。
 本屋大賞の裏方としてずっとやってきて、出版市場を活性化するためには広告的アプローチが有効だということも実感しています。

――その嶋さんが、東北新社との合弁で立ち上げた「博報堂ケトル」のCEOにも就任した。どんなことをする会社ですか。
 一言でいうなら、クライアントの課題に対して最高の解決策を提供することを目的とした、アイデアからクリエイティブまでを通しで実行する会社です。メディアニュートラルという考え方がありますが、メディアに限定されず、発想のプロセスも含めて、もっとニュートラルにやっていきたい。手段を選ばないという意味で「手口ニュートラル」と呼んでいます。「恋と戦争は手段を選ばない」がポリシーです(笑)。ケトルは、ヤカン。アイデアが湧く、世の中を沸かす会社を目指しています。

――ネット書店とリアルな書店、どちらが好きですか。
 やっぱり実際にある町の本屋ですね。どこの町でも、ああいいなという本屋があったりする。でも、ネット書店には利便性があるし、それぞれよさがある。リアル書店もバーチャル書店もみんな基本は一緒だと思いますね。本屋大賞はネット書店の方でも投票できるんですよ。




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