特集 2006.3/vol.8-No.12

広告のダイナミズムを取り戻す
レピュテーション形成に不可欠な広告の力

 株式市場における企業価値を高め、企業が社会と良好な関係を築いていくための施策としてレピュテーション・マネジメントという考え方が注目されている。日本におけるレピュテーション研究の第一人者、早稲田大学ビジネススクール教授・花堂靖仁氏は、企業カルチャーの土台をつくり、悪意あるうわさを増幅しない仕掛けとしての新聞広告の役割に期待する。

――最近、コーポレート・レピュテーション(企業の評判)という言葉が聞かれるようになりましたが、なぜ、注目されるようになったのでしょう。
 やはり、インターネットが普及して、コミュニケーション環境が変わったことが主な要因です。今までと、二つのことが大きく変わってきたと思います。
 一つは、即時的なコミュニケーションができるようになってきたことです。以前は、情報を発信したときにレスポンスが戻って来るまで一定の時間がかかりました。つまり、タイムラグがあったのですが、今は、ほとんど同時に情報が戻ります。
 もう一つは、イントラネットやブログ、ソーシャルネットワーキングサイトの登場によって、情報の共有化が進んでいることです。従来、情報を発信する企業は、例えば個々の顧客とは一対一の関係でした。ところが、情報を共有する関係ができたことによって、いきなり顧客同士が横の関係でつながります。情報があっという間にアメーバ状に広がっていく。実はこれが、レピュテーションを企業側がマネジメント対象として認識しなければならなくなった大きな背景になっています。
 それだけでなく、インターネットの普及によって、以前からあった企業とステークホルダーの関係も、さらに多面化しています。私は、それを「利害関係のダイヤモンド化」と呼んでいるのですが、一人の人間が企業と多面的にかかわることが増えてきた。
 一番わかりやすいのは、日本版401k(確定拠出年金)で、企業の従業員が否応なしに自らを投資家として意識しなければならなくなってきたことがあります。それ以前にも、例えばメーカーなら、そこで働いている従業員は同時にそのメーカーの最大の消費者であることが多いですし、企業城下町のように、実は企業に一番近いところに住んでいる地域住民の代表が従業員の場合もある。もともとステークホルダーと企業は多面的な関係を持っていましたが、インターネットが生活に入ってきたことで、利害関係の多面化がさらに加速しているのです。

レピュテーションはブランドと、どう違うか

――ブランドもある意味では企業や商品の評判だと思うのですが、レピュテーションとはどう違うのでしょうか。
 ブランド論もコーポレートブランドという概念が登場してから、話がややこしくなりました。違いを明確にするために、プロダクトブランドとレピュテーションの比較で説明します。サービスブランドでも、それらを束ねたアンブレラブランドでも理屈は同じです。ステークホルダーとの関係でいえば、ブランドは、第一義的には顧客との関係の中で企業側がつくろうとしてきたものです。要するに、取引関係があるところにブランドは形成されるということです。
 ところがレピュテーションは、それとは違ったところで形成される可能性が大きいのです。具体的に言うと、取引関係がないステークホルダーの代表例は、地域住民のような一般社会です。地域住民は、企業から恩恵を受けることもありますが、被害者になる場合もあります。しかし、彼らは取引関係のようなかたちでは企業とつながっていませんから、これまでは自分たちの考えや判断を直接企業行動に反映させる道がほとんどなかった。大きなトラブルが起こると、マスコミが取材に来て、初めて住民の声が表面化する程度でした。
 ところが、インターネットの普及で、この人たちが意思表示をする手段を手に入れた。ブログに企業に対する批判を書いておけば、おもしろいことをやっているなと、いろいろな人がアクセスしてくる。そこに、情報の共有関係が自動的にできてきます。そういう環境の中で、取引関係を持たない人が、企業評価(注)を始めているわけです。ここが、実はレピュテーションの最大の特徴だと思います。

(注)一般に言われている企業評価と会計の世界で言われている企業評価は違う。特にIRの世界では時価総額という金額で表された企業の価値が、企業評価の対象になる。ところが一般に言う「企業評価」は、もう少し定性的な要素を含んでいる。ステークホルダーは、それぞれの企業とのかかわりの中で、その企業を認知し、受容し、位置づけている。このプロセスが一般に言う「企業評価」と定義していいだろう。そして、他社とのコミュニケーションにあたり企業をどう位置づけるかというときに、ポジティブに位置づけるか、ネガティブに位置づけるかという問題が出てきて、そこからレピュテーションという考え方が出てくる。(花堂)

――それは、企業に直接ものを言ってくる、いわゆるクレーマーとは違うわけですね。
 具体的な取引関係を持たない人たち、という点が大きく違います。しかも、往々にして、そうしたサイトでは、うわさのたぐいをベースにして評価を語っているケースがあります。

レピュテーションを管理する

――これからの企業には、そういうマイナスのレピュテーションに対するリスク管理が必要だということですか?
 そうです。しかし、この人たちをマネジメントの対象として意識している企業は、まだほとんどありません。怖いのはネガティブな問題が起きたときに、それが事実以上に増幅されて、スパイラル状に企業の評価が落ちていくことです。そのときに大事になるのが、企業評価を急落させない状況を日ごろからつくっておくことです。これが、「レピュテーション・マネジメント」と言われる管理手法です。企業が社会に対してネガティブな影響を与える行為には、作為と不作為があります。もちろん作為は論外で、「レピュテーション・マネジメント」が対象とするのは不作為のケースです。その場合も、震源地が企業に近い場所にあるか、遠い場所にあるかで対応が違います。

震源地が一般社会の場合はメディアの活用が有効

――具体的な対策はあるのでしょうか。
 震源地が近い例としては、企業が地元で事故を起こした場合です。三年ほど前、北海道に地震があったときに、石油会社の製油所でタンク火災がありました。実は、この火災の直後、従業員たちが休日を使ってまったく自主的に全国から集まり、油煙で真っ黒になってしまった近所のお宅に出向いて、謝罪をしながら、清掃活動をやったことが話題になりました。そのため、事故の後、地域住民から大きな批判は出てきませんでした。その時の行動だけでなく、日ごろの企業行動から見て、「あそこの企業は、何か不祥事があっても、何かの間違いだ」と地域住民が思ってくれる状況ができていたからです。この企業には、何か事があったときに必ず全社的に問題の解決に向けて対応することを、長年やってきたカルチャーがあるわけです。
 不測の事故などで、企業の地元がネガティブな評判の震源地となってしまった場合には、地域住民と密接な接点を持つ従業員がポイントになります。つまり、従業員一人ひとりに、自分たちの役割とやるべき事柄がきちんと自覚されているかどうか。また、それが従業員全体に自覚できる仕掛けを日ごろからつくってあるかどうかが重要だということです。
 一方、震源地が遠い場合、例えば、一般社会が震源地である場合は、レピュテーションのマネジメントは極めてむずかしい。根も葉もないことも、ひとたび人の頭の中に入ってしまうと、払拭するのに大変な労力が必要になります。その場合に有効なのは、やはり信頼できるメディアで、しかも同時大量に情報を流すことです。

――どんなメディアが有効なのでしょう。
 結論から言うと、私はレピュテーション形成にとって大きな役割を果たし得るほとんど唯一のメディアは、新聞広告だと思っています。テレビも、一社提供の番組なら可能性はあると思いますが。
 つまり、社会に対して広く投網を打って、一般社会の人たちをうまくその中に取り込めるメディアで、しかも、一般社会の人たちがそのメディア自体に一定の信頼感を寄せているものと考えると、ほとんど新聞広告しか選択の余地がないのです。信頼性が高く、リーチも必要と考えると、一般紙の中でどうやってコミュニケーションするか、新聞広告の中にどういう事実を入れていくかが大切になってくると思います。

――しかし、必ずしも全国に広告が届かなくてもいいケースもあると思いますが。
 自社の事業ドメイン次第だと思いますが、ナショナルレベル、グローバルレベルで活動している企業にとっては、必然的に一般紙の全国版という選択になるのではないでしょうか。また、特定の地域を特にカバーしなければならない場合は、その地区にある事業所に働きかけて地域貢献活動をする、などの工夫が必要だと思います。

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「クロスジャンル」発想が世の中を動かす
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