立ち読み広告 2006.3/vol.8-No.12

脳のボケは塗り直したいもの…。
1月28日 朝刊 河出書房新社
 塗り絵やドリルは子供だけのものではない。最近、大人のための塗り絵、ドリルがブームになっている。
 
大人の塗り絵は名画を仕上げる

 1月28日朝刊の第三面に全5段で河出書房新社の広告がある。左5分の2ほどは秦建日子(「はた・たけひこ」と読む。男性だ)の『推理小説』。そして右側の5分の3は『大人の塗り絵』シリーズにあてられている。
 『大人の塗り絵』はその名の通り。お手本ということなのか、最初のほうにカラーの口絵が11点あるが、それ以外は絵の輪郭だけ墨一色で印刷されたページが続く。子供用の塗り絵と違うのは絵である。
 たとえば『花鳥風月編』の原画は葛飾北斎だし、『フランスの風景編』の原画はゴッホやシスレー、セザンヌ、ピサロ、コローと、有名どころが並ぶ。ようするに北斎やゴッホの絵の輪郭線だけを写し取って印刷したものである。色を塗るうちに北斎やセザンヌになったような気持ちを味わえるのだろうか。
 おもしろいことに、一番売れているのは『美しい花編』で、原画はルドゥーテ。知らない画家だ。原画を描いた人の知名度よりも、どんな絵なのかが塗り絵では重要らしい。

脳の活性化は「ボケ防止」か?

 この広告には「大絶賛! 読者の声から」として、4人の読者の感想が載っている。20代の女性と60代の男性がひとりずつ、70代の女性がふたり。そうか、お年寄りが中心読者層なのか。
 惹句には「色を選んだり、指を使ったり、脳の活性化に効果的!」とある。なるほど。ひところ大流行した川島隆太教授監修のシリーズ『脳を鍛える大人のドリル』シリーズと同じだ。あのドリルには計算や漢字書き取りや音読があって、いまや電子辞書版やゲーム版まである。
 長生きするのはいいけど、ボケるのはいや、という声をよく聞く。認知症を扱った小説なども増えた。「脳の活性化」は「頭が良くなる」というよりも「ボケ防止」と受け止められているのだろう。
 『大人の塗り絵』と類似の本はほかにもたくさん出ていて、おそらく100タイトルを超すだろう。値段も1000円前後が多いようだ。この広告には「なめらかな線で塗りやすい!」とあるが、他社のものとはここが違いますよという意味なのか。

塗り絵本ビジネスのすごさとは

 出版界ではしばらく前からパズル雑誌が静かなブームとなっている。郊外型書店に行くと、パズル雑誌だけでひとコーナーできている。月刊、隔月刊、季刊を合わせて、数十誌が出ているそうだ。パズル人気とドリル人気、塗り絵人気はつながっているのかもしれない。
 あるパズル雑誌の編集者は『大人の塗り絵』について「画期的な企画だ!」と称賛する。塗り絵というアイデアもさることながら、原画に著作権料が発生しないところがビジネスとしてすごいというのだ。もしもこれが現代作家の絵、たとえば人気のアニメやマンガを原画にしたものだったら、著作権料だけで莫大なものになってしまう。誰もが知っているけれども著作権フリーというところがすごい。
 そう考えると、『大人の塗り絵』はすでに世の中にある資産をリサイクルした企画ということもできる。これを思いついた人はどうやって脳を活性化させたのだろうか。
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