企業訪問 2006.3/vol.8-No.12

シェアナンバーワンの秘密は自社一貫生産とYKK精神
 果たして企業価値は株価なのかという論議が高まる中、株式上場はせず地道に本来の企業価値を高める事業をコツコツとやっている企業がある。世界ナンバーワンシェアでなお努力の姿勢を忘れない企業、そんな企業として、「企業訪問」の最終回はYKK株式会社をご紹介したい。副社長ファスニング事業本部長井上輝男氏に、同社独自の事業展開と企業哲学を聞いた。

井上輝男氏  YKKといえばファスナーの代名詞と言っても良いほど、全世界で圧倒的なシェアを誇る。市場規模を年間4500億円(推定)とすると、約2000億円売り上げているため、約45%のシェアとなる。「少なくとも世界のGDPの伸びと同じくらいは伸びないとおかしいほど、他社とは差がついてしまいました」と副社長の井上氏が語るまでの状況にある。それに加えて営業、マーケティングを強化すればさらに伸びるはずで、社内では「伸びゆく需要へのチャレンジ」という標語が使われている。
 
徹底した一貫生産

 現在、同社が作っているファスナーの種類はざっと20万種。価格別に、プレミアム製品、汎用性の高いもの、低価格のものと三つに大別される。ファッションブランドの場合は相手先ブランド(ロゴ)でというのが現在の主流であるためYKKというロゴは入っていないものの、例えば、ルイ・ヴィトンの商品の90%にはYKKの高級ファスナーがついている。YKK製でない商品を見つけるのが難しいほど、幅広く使用されている。
 アパレル向けがファスニング事業全体の70%を占め、カバンなどで20%、産業資材が10%。「産業資材は高い水圧や気圧に耐えられる製品もあり、潜水服や宇宙服のジョイント部分などに使われています」
 ここまで伸びてきた理由を尋ねたところ、「一貫生産、つまり原材料の部分から最終商品まで元からずっと作ってきたことです」という答えが即座に返ってきた。
 同社は創業初期から金属原材料の溶解、テープ部分の糸を作るところからすべて自前で生産。全工程にこだわりを持ってきた。機械類も自社で開発・製造しているのが、他社にない特徴となっている。このため、機械類を扱う工機部門が事業の一つの柱となり、社内グループ向けのみではあるが、年間350億円もの売り上げとなっている。
 同社のファスナーは、10年前までは納期一か月が当たり前だったが、現在は絶対納期10日、生産サイクル5日と徹底している。世界中どこへ行っても同じ品質、同じ納期、同じサービスだ。
 これも、一貫生産を徹底していることから可能という側面が強い。

YKK精神の起源

 YKKを一代で築いた創業者、吉田忠雄は1934年に「サンエス商会」というファスナー屋を始めた。「品質第一」をモットーとして評判が上がるとともに、ファスナーの用途が広がり受注も増え、社名は「吉田工業所」に改められた。戦後、「吉田工業株式会社」となり、1994年8月に現社名に変更した。
 吉田社長は早くも1960年代から海外に生産拠点を作り始めた。当時の日本企業のほとんどは原材料を日本から持って行き、現地で加工するというビジネスだった中、70年代にヨーロッパやアメリカで材料も現地で調達するという一貫工場を作り始めた。それは容易なことではなかったが、工場を作るにも、社の基本理念である「善の巡環」を基本としてきた。「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という考え方だ。これがあったからこそ、海外での原料調達、工場設置を円滑に進めることができた。
 その後、現地の事情に応じて各国バラバラに展開してきた事業を統一する方向に転換。時間がかかったが、それぞれの経営資源をまとめてみると、業界で他社とはもう比較にならないほど圧倒的に大きな存在になってしまった。
 ファスニンググループ全体の規模は世界70の国・地域、約120社となる。従業員数は約2万人、そのうち国内にいるのが3000人弱だ。

戦略的な広報へ

 もはや、敵無し状態の同社グループだが、相手先ブランド(ロゴ)生産が増えたことで一つ問題が出てきた。それは、若年層に対する知名度の低下だ。
 BtoBのビジネスがメーンの同社はいわゆる宣伝広告はやってこなかった。しかし、リクルートの面では戦略的に広報もやらなければならないことに気付いた。そこで約3年前から予算も取り、本格的に宣伝戦略をとり始めた。BtoCを重視し、新聞広告なども使うようになった。
 2009年には創業75周年を迎える。中長期の事業目標として2008年の事業年度ではファスニンググループだけで約3000億円の売り上げをめざしている。
 「今後の事業展開は、今の要素技術の範囲内で考えています。全く新しいことをやるというのは考えられないし、十分に現在の分野でビジネスはやれる。社長には大きいことはいいことだという発想が全くなく、地道に一歩ずつ前に進んでいけばいいと考えています」
 YKKグループのもう一本の柱である建材事業(YKK APが担当)も、ファスナーにアルミが使われていた時代にアルミ合金の要素技術を応用してアルミサッシ作りが始まったという起源を持つ。
 株式上場していないにもかかわらず、毎年、経営説明会、業績説明会までやる。納得できない商品は絶対に市場に出さない。本業に徹する。こういう基本的なことこそ、世界ナンバーワンを続ける秘訣に見える。

地上デジタル放送「ワンセグ」対応機種「W33SA」をはじめとした商品ラインアップを紹介した12月4日朝刊
(増田)
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