Creativeが生まれる場所 2006.3/vol.8-No.12

アディダス ジャパン “元巨人ファン”の気持ちを代弁
高松 聡 氏  アディダスは、読売巨人軍と今季からオフィシャルパートナー契約を結んだ。これまでニューヨークヤンキースと同契約を結んでいたが、日本の野球界では巨人軍が初めて。そのコラボレーションから生まれたのが、「巨人軍は不滅か。」という刺激的な新聞広告だ。広告のねらいはどこにあったのか。日清食品の「NO BORDER」やgooのキャンペーンで知られる高松聡氏が、この広告のクリエイティブディレクターだ。

――まず、「巨人軍は不滅か。」というキャッチフレーズに込めた意図からお聞かせください。
 巨人軍キャンペーンはシーズン中も続きます。そのすべてを貫いているのは、アディダスが、巨人ファンが思っていることを、拡声器として世の中に示していく代弁者的存在になろうということです。今回は、その第一弾です。3年連続して優勝を逃した巨人に対して、世の中の巨人ファンは危機感を抱くと同時に、再び栄光の巨人になることを待ち望んでいる。その気持ちを代弁したわけです。巨人ファンというより、彼らを含めた元巨人ファンと言った方が正しいのですが。

――元巨人ファンというのは?

 実は、ぼくも元巨人ファンです。巨人以外に好きな球団があるかというと、ない。野球を見るとしたら巨人戦だし、巨人がもし今年、優勝しそうな勢いになったら一気に巨人ファンに戻ると思うんです。この広告のメーンターゲットは、そういう意味での「元巨人ファン」です。世の中には、そういう元巨人ファンはものすごくいると思うのです。ここ数年で、その人たちがほかのチームのファンになったかというと、そんなことはなくて、元巨人ファンは、なんとなくプロ野球自体から少し離れてしまっている。
 プロ野球に注目している人たちが、少しずつ減ってきている状況の中で、元巨人ファンである自分が思うこと、それがまさに今回の新聞広告です。自分の思っていることを、そのまま書いていると言ってもいいぐらいです。やはり、再び強い巨人になって欲しい。ただ、そのためには、「巨人軍は永久に不滅です」と言われていた時代を一度忘れて、挑戦者にならないといけないと思うのです。

再びの栄光を光と陰で表現

――「巨人軍は不滅か。」の紙面は、端の方の文字になるほど黒っぽくて、光を当てたように見えますが。
 実際の紙面をよく見てもらうとわかると思うのですが、一字一字に微妙な傷があったり、白い盛りがあったり、凸凹してるところがあります。実は、これはガラスの上に白い文字を張り付けて、写真を撮ったものです。言葉をできるだけ強く表現するための工夫なんです。ただ黒地に白抜き文字だけでは、こうした強さは出ない。一字一字に思いを強く込めたかったんですね。しかも、全体に少し濃淡がある。真ん中へんに一筋の光を当て、今は厳しいけれど、それを乗り越えれば栄光が待っているという気持ちを込めています。一見モノクロ原稿に見えますけど、次ページのユニホーム同様、カラーの原稿です。

――そのユニホームもシワシワですね。
 これから始まるのに、もうちょっときれいに撮れよと思う人もいるかもしれませんが、アイロンの利いたものが出ても何の力もない。アパレルの広告じゃないですから、ただユニホームを見せてもしようがない。光と陰が文字の広告にもユニホームの広告にもあるのは、このユニホームで、汗をかき、土にまみれて、これから栄光を目指していってほしいという気持ちからです。そういう気持ちを光と陰で表現し、広告に強さを出そうと思ったのです。

二段階のコミュニケーション

――見開き30段の「二連版」ではなく、ページをめくるとユニホームの広告が出てくる「ページ送り」という手法を取ったのはなぜですか。
 見開き30段とページ送りの15段2本のどちらにするかは、よく悩みますね。今回、ページ送りにしたというのは、時間軸で理解してほしかったからです。

――どういうことですか。
 新聞は、一般的には前から読む人が多い。ページ送りは、時間の経過という軸を広告に与えることができる方法だと思うのです。まず、あるメッセージを見せて、ワンテンポ置いて次のメッセージを見せることができる。30段見開きはスケールは大きいですが、メッセージを受け取るのは1回だけです。ところが、ページ送りにすると、ページをめくっている間に、そのメッセージはいったん消化されるか、消化されないまでも強い印象として残る。その上で、次のメッセージを見せるという効果が計算できます。
 今回の場合で言うと、最初の広告で、「巨人軍は不滅か。」「僕たちは、強い巨人を待っている。」とアディダスが言っている。確かにその通りですが、なぜアディダスがそんなことを言っているんだろうと、この広告を見た人は思います。ページをめくると、巨人のユニホームの下にアディダスのロゴがある。アディダスが巨人軍のユニホームをつくる、要するにアディダスのユニホームと共に、巨人が再び栄光の巨人軍を目指すことなんだと、前のページで生まれた疑問が解決する。それに要する時間は、それほど長くない、むしろ一瞬ですが、一度疑問を投げかけることによって、見た人の心に強い印象として残る。そういう時間軸での理解のされ方が、ページ送りにはある。言い方を変えると、二段階のコミュニケーションができるのが、ページ送りだと思うのです。アディダスの場合は、疑問を投げかけて、答えを提示するやり方ですが、最初のページであるイマジネーションのわく言葉やイメージを与えて、それに対しての結論があるという使い方もできる。ページ送りというのは、そういう意味で、非常に強い広告になる可能性があると思うんですね。

――サッカーのイメージが強いアディダスが、日本でも野球に進出する。それをこの広告では、ストレートに伝えていませんね。
 確かに、今回の広告にはアディダスの野球用品を買ってくださいというメッセージは、どこにもありません。しかし、巨人軍とパートナーシップを結んで、その巨人軍が最強の球団に再びなってくれるなら、自動的に野球ブランドとしてのアディダスも輝いていくはずです。
 実は、この広告にはもう一つ意図があります。それはこの広告を巨人の選手にも見てもらって奮起してもらいたいということです。元巨人ファンの声を代弁するこの広告が、選手への励まし、声援になればいいと思っています。

3月31日 朝刊 4月1日 朝刊

今回取り上げた広告は、インターネットによる広告反響調査AdVoice(アド・ボイス)を実施し、結果の一部をweb上に掲出しています。
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