メディアの進行形 2006.1・2/vol.8-No.10・11

ケータイ読書のスタイル
 2005年における電子書籍市場を振り返ってみると、ケータイ読書が急成長し、専用端末機によるビジネスが行き詰まった年であった。
 専用機は04年に華々しく登場したが、新たなメディアを作り出すこともニッチ市場を形成することもなく、表舞台から消えつつある。

専用機の今後

 専用機は本をまねて2画面にしたり、紙の本をそのまま読めるように新書サイズの高精細画面を採用したりしている。本のメタファーにこだわったといえば聞こえがよいが、結局、本に似て非なるメディアを作ったにすぎない。きっと専用機を作った人たちは紙の本が大好きなのだろう。そこには新たなメディアのための表現や工夫は乏しかった。
 もちろん新しいメディアは古いメディアをまねして始まっている。そこからスタートして既存メディアにできないことを付加してきたことにメディアの進化がある。
 現在流通している専用機用のコンテンツは、ほとんどが文芸書とマンガである。そこで電子書籍の可能性を探るために大学教科書やレジュメを専用機に入れてゼミ授業に使ってみた。案の定、本の呪縛(じゅばく)の中で設計されていてユーザーの工夫する余地が少ない。汎用(はんよう)機であるパソコンとワープロ専用機の違いと似ている。
 専用機は多様な本の利用を想定したものではなく、文芸書の読書にしか向いていないのだ。文芸書は原則的に最初から終わりに向かって一方向にしか読まない。教科書や実務書のようにページをめくったり、調べたり探すのに不向きであった。むしろコンピューター画面のスクロールの方が検索は容易である。
 また、何十冊もの本が保存できるといっても、専用機は複数の本を同時に表示することはできない。文芸書なら一度に1冊しか読まないが、勉強では同時に何冊かの本を利用する。どうやら本の多様性をそぎ落とした文芸書専用読書機だったのだ。

ケータイ読書の市場

 専用機ビジネスが困難だったもう一つの理由としては、装置も配信方法も課金もゼロから環境を作らなければいけなかったことがある。
 これに対しケータイ書籍は、ケータイユーザーに向けてコンテンツを配信すればよかった。第3世代携帯電話の普及と定額課金制の導入により、モバイルコンテンツ市場は短期間に成熟した。8000万人近いユーザーが音楽、ゲームに始まり静止画から動画配信までを楽しんでいる。
 ケータイ書籍の作品数は、販売サイトの最大手「パビレスDX」に3500点のタイトルが並んでおり、市場全体では5000点に達している。ケータイ書籍の配信会社は必ずしも出版社だけではなく、全体では百数十社になるといわれる。
 読者層はケータイのヘビーユーザーと重なり女性と若者である。これらは従来、文芸書出版社が取り込めなかった層であり、ケータイ書籍の特徴とも言える。
 またケータイ画面は一度に表示できる情報量に限りがあり、読み返すことが困難である。このため複雑な文章表現を避け、漢字の使用を制限したり、繰り返しを多用するなど表現の工夫がある。オリジナル作品では、さらに会話を多くし登場人物を減らすなど創作上の工夫もある。必然的にライトノベルと呼ばれる軽い読み物が好まれる。
 ケータイメールの簡潔さには、送り手と受け手のバックグラウンド情報が共有されていることがある。文学の流行も社会情勢と密接な関係があり、作家と読者が共感しあうことにある。とすれば、ケータイというメディアを介したとき、初めて共感できる小説スタイルもあるだろう。
 電子書籍市場で起こっている変化は、必然的なのである。
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