経済を読み解く 2006.1・2/vol.8-No.10・11

2006年の世界地図
イメージ  2005年、国際情勢を動かす力学の体系は、静かに、しかし大きく変動した。その変化は、2006年以降の日本にとって、きわめて重要な意味を持っている。

[1] 後退した「二極」
 
 2005年の地殻変動の端緒となったのは、良くも悪くも世界のダイナミズムの主役であった米国と、その対抗軸を形成しつつあった欧州の双方で、政治的な求心力が大幅に低下してしまったことである。
 まず、二期目の大統領選挙を完勝し、一段と勢いづくかと思われていた米国のブッシュ政権が、国民の支持を失い失速してしまった。背景には、イラクでの米軍の犠牲がいっこうに収まらないことや、政権内部のスキャンダルがあるが、その流れを受けて、与党である共和党の議員のなかからも、ブッシュ政権の政策に異を唱える動きが目立ってきた。内政面では、政権二期目の最重要課題と位置付けられてきた社会保障改革が議会の支持を得られず頓挫したし、外交面でも一期目のような強引な政策は採りにくくなっている。
 一方、統合の拡大と深化によって求心力を増し、米国に次ぐ第二の極を形成しつつあったEUでも、フランスとオランダでEU憲法の批准が国民投票によって否決された。これは、ここまで急速に進めてきた統合のプロセスで生じたさまざまなゆがみを調整する時期に入ったことを意味している。統合のプロセスは、当面スローダウンさせざるを得ないだろう。
 国ごとの情勢をみても、欧州主要国の多くで政権の弱体化が目立った。英国では5月に行われた総選挙で、与党である労働党が勝つには勝ったものの議席を大幅に減らし、ブレア政権の基盤は弱まった。
 ドイツでは、9月の総選挙の結果、最大の野党であった、改革の加速を唱えるメルケル党首が率いるキリスト教民主・社会同盟が議会第一党に躍進したものの、議会で過半数を握る連立を組成できなかった。その後、2か月に及ぶ混乱の末、それまでの政権政党である社会民主党をも巻き込んだ大連立内閣が成立したが、主張の大きく異なる政党が組んだ連立であり、政策を実行していく力の低下は避けられそうにない。
 またフランスでは、EU憲法の批准が否決されたことで、EUの統合推進を主導してきたシラク大統領の影響力は失墜した。加えて11月にパリをはじめとするフランス各地で相次いで発生した、移民を中心とする若者たちの暴動が、政権にさらなる打撃を与える事態となっている。
 これからの各国の政治日程をみる限り、05年に生じた、米・欧における政権弱体化の状況は、大筋では06年にも持ち越される可能性が高い。それは、06年の世界地図を描き出すうえでの前提となる。

[2] 浮上した三大国

 そうしたなかで重みを増したのが、中国、ロシア、インドという国境を接する三つの大国の存在感であった。それぞれ10億を超す人口を擁する中国とインドは、巨大な急成長市場として、先進国の産業をひきつけてきた。また、世界最大のエネルギー資源産出国であるロシアは、エネルギー価格高騰の恩恵で、経済状況を好転させるとともに、世界経済への影響力を強めている。
 そうした経済面での存在感に加え、三か国間の関係強化の動きも鮮明になった。05年6月には、中国とロシアの間で長らく懸案とされてきた両国間の国境問題が、ウラジオストクで開催された外相会談で正式に決着した。8月には中国、ロシア両国で、初めての共同軍事演習も実施された。
 また、中国、ロシアの両国と、その間に位置するカザフスタンなど中央アジア四か国で、地域の安定を目指して01年に創設した「上海協力機構」に、インド、パキスタン、イランの三か国がオブザーバー参加することになった。総人口28億人に達する巨大な国際協力組織の形成である。
 とはいっても、中国、ロシア、インドの連携は、EUにみられるような歴史や宗教、政治体制といった共通の背景を基盤とするものではないし、その利害関係も錯綜している。05年には関係強化の動きが目立ったが、06年以降もその流れが続くとは限らない。むしろ、これら三か国に関しては、一体となって大きなトレンドを作り出していくというよりも、個々の動きが国際情勢におけるダイナミズムを生み出していく展開が想定される。

[3] 「多元化」の局面と日本

 こうした状況を踏まえて、05年から06年へと続く国際情勢を一言で表すとすると、「ダイナミズムの多元化」という表現が適切であるように思われる。
 一時的にペースダウンしてはいるが、「米国一極時代」から、欧州統合の進展で「米・欧の二極時代」へ向かいつつあるという中長期的な構図に変わりはない。しかし米・欧の政権が弱体化したことで、親米対反米、あるいは米国対欧州といったシンプルな対立軸は後退し、そこに納まらないダイナミズムが、中国、ロシア、インドなどを基点にして、複雑に絡み合いながら浮上してくる状況が生じているのである。
 そうしたなかで日本はというと、先進国では例外的に、総選挙で圧勝した小泉政権が基盤を固めたものの、国際情勢においては今ひとつ影が薄い印象をぬぐえない。米国との良好な関係は維持しているが、当面の焦点とも言える中国との間には靖国参拝、ロシアとの間には北方領土の問題を抱え、身動きの取れない状況が続いている。
 これは、ダイナミズムが多元化する局面では、大きな損失をも生みかねない深刻な事態である。それをどう変えていくか。これから議論が本格化するであろうポスト小泉政権のあり方を考えるうえで、最も重要な視点と言えるのではないだろうか。
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