Creativeが生まれる場所 2006.1・2/vol.8-No.10・11

協和発酵 企業のために、世界に一つしかない広告を
森本千絵 氏  協和発酵は2005年4月から事業持ち株会社制に移行し、医薬事業とバイオケミカル事業の協和発酵、化学品事業の協和発酵ケミカル、食品事業の協和発酵フーズの3社に分社した。分社化の広告とその後の協和発酵のブランディング広告のアートディレクターが森本千絵さんだ。フォークに刺さった3つのグリーンピース、ファンタジーあふれるバイオカー、堅い企業を身近に感じさせてくれる発想は、どこから生まれてくるのだろうか。

――協和発酵の分社化の時のフォークは、どういうところから発想したのですか
 まずは協和発酵の方が用意して下さった大量の資料を読むことから始めました。そして専門用語や技術の理解を進めていき、協和発酵の会社概要をつかみました。企画については、最初は発想が保守的になってしまい、3社の説明の絵解きにこだわって試行錯誤していました。それを打破して、スコーンと抜けている面白いものをつくろうと思い、提案したのがこれです。新聞広告を分社化の前日と当日の2回に分けて掲載することになっていたのですが、前日まで「一(社)」だった企業が、その日から「三(社)」になりますよね。そこで、漢数字をいろいろ考えていたら、「一〜三」を横に並べるとフォークに似ているなとひらめきました。(笑)

――それで、ですか。

 新しい協和発酵のロゴも平面から立体へ変わった。それがヒントで、3社がそれぞれ何か新しいものを捕まえているというイメージをフォークに刺さったグリーンピースで表そうと思った。

――前日の広告は「明日へ。協和発酵」のコピーとフォークの柄の部分だけで、翌日の広告で初めて3分社化が分かるというティーザー広告になっていますね。

 新聞は読者層の広い媒体なので、メッセージは世の中に対する宣言だけに徹しました。協和発酵が3つに分社化したことと、「世界の人たちの健康と豊かさに貢献したい」という理念さえ明確に伝わればいい、と。協和発酵は主に医療用の医薬品や健康食品、アミノ酸飲料などの原料を提供している企業ですから、具体的なことは専門誌など他の媒体で伝えればいいとシンプルに考えました。

新聞が置かれる場所も考慮

――これまでに企業広告を手掛けた経験は?
 経験はありますが、そのほとんどは最終的に商品広告を目的にしたものでした。新聞広告を通して会社全体の方針を描くのは初めてだったかと思います。少し違いますけど、日本新聞協会の「HAPPY NEWSキャンペーン」は企業広告に近い仕事ですね。

――2004年から始まった自分をハッピーにしてくれた新聞記事を募集するキャンペーンですね。
 私の中ではずっと続けたいキャンペーンの一つです。若い人たちは新聞を読まないと言いますけど、応募のサイトを見ていると、こちらが逆に感動するぐらいウァーって若い人たちから応募があるんです。新聞は基本的に世の中でも信頼の軸になる媒体ですから、あまり揺らいでほしくないというか、これからも変わって欲しくないですね。

――広告をつくるときに、媒体の違いは考える?
 どの媒体がいいとか悪いとかという優先順位はありません。ただ、ビジュアルや企画を考える際に、その媒体の特性は絶対に考慮します。協和発酵の広告デザインも新聞じゃなかったらこういうスタイルでやらなかったと思います。これ、フォークの背景にはナプキンが敷いてあって、端っこの方はテーブルの地が出ているんです。新聞を家の中で読むことを想定して、食卓や机の上で見てもおかしくないデザインの広告を考えているわけです。その季節とか、その時の企業の状況、その媒体に掲載される他の広告とのバランスも考えるし、広告を見る人のことはもっと考える。基本的に新聞広告は読む広告だと思っています。文章を読みながら、ページをめくっていく、その思考パターンを利用してメッセージを伝えることができる唯一の媒体だと思っています。

本気のおせっかい

――森本さんの中で、商品広告と企業広告をつくるときの違いはありますか?
 全くありません。全部同じです。仕事をする時には、広告を見せる相手も、企業のことも、商品のことも全部、本気で好きになってしまいます。対象が何であれ、それを「みんなに分かって欲しい、好きになって欲しい」という思いを込めてほんとに愛してしまうんです。本気のおせっかいなんです。(笑)

――関心のない人を振り向かせるのが広告の役割だ、という考えもありますが。
 ただ表現の強さや刺激だけの広告は、後で嫌な気持ちが残るだけです。基本的には、好きになってもらいたい。広告を見た人が、またほかの人に伝えたくなるような広告をつくりたい。

――10月からの協和発酵のコーポレートブランディング広告も、そういう気持ちで?
 企業活動の内容って、普通ボディーコピーで説明しますが、協和発酵のやっていることって少なくとも私には朦朧とするくらい難しいことだったんです(笑)。だから、こういうフローチャート形式のコピーなら一般の人にも分かりやすいのでは、と考えました。わずかの時間で読者に明確に伝えるには、このコピーの形式しかないな、と。

――それがバイオを象徴する緑の玉とも重なっている?
 この緑の玉を持つとみんなに幸せがあふれてくるような協和発酵の事業のシンボルにしようと思った。後はフローチャート形式の文章でちゃんと説明していこうと。それでテレビコマーシャルにも使いましたが、「BIO designed by KYOWA HAKKO」と書いてありますけど、緑の玉がワシャワシャ製造されるような新しくなった協和発酵を象徴する車をまず製造した。ピー、ガシャンってほんとに緑の玉が出てくるんですよ。フランスの映画のセットを作っている会社に実際に走る車を1か月かけて作ってもらいました。

――仕事は、とことんやらないと気が済まない?
 最近、それが自分の性分なのだと認識してきています(笑)。なぜなら、せっかくこの企業と出会えたからには、私がつくるこの広告を世界に一つだけの新しいものにしたい、という気持ちになってしまうんです。そんなふうにして仕事に没頭していってしまうんですね。

3月31日 朝刊 4月1日 朝刊 10月24日 朝刊
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