メディアの進行形 2005.12/vol.8-No.9

本のデジタルばら売り
 アマゾン ジャパンが書籍全文検索サービス「なか見!検索」を開始した。03年秋に米国で始めた「サーチ・インサイド」の日本版で、和洋書13万冊でスタートした。日本語の文字認識は技術的に困難だと思うが、8月のドイツに続きよく実現したと思う。
 米国でサービスを開始した直後から、本文検索対象の本は売り上げが伸び、それが消極的だった出版社の参加を決断させた。サーチ・インサイドの成功は、さらに新しいサービスを生み出そうとしている。本をページ単位にばらしオンライン販売する「アマゾン・ページ」である。

本のばら売りは成立するか?

 日本では一般的ではないが、本のばら売りは実現している。必要なところを必要な部数だけ要求に応じて印刷するオンデマンド出版だ。
 全米の大学教科書ではオンデマンド出版が成功を収め、積極的に採用しているコーネル大学では教科書全体の17パーセントを占めている。またオンライン販売についても、米国プロクエスト社により専門書を中心に行われている。
 このため米国ではネットによる著作権処理も可能で、出版社にとってもばら売りによる印税収入は大きなものとなっている。もちろんページ単位での購入は数百円になるものもあり、かなり割高となっている。
 一部の愛書家が総革製の本を好むことを除けば、米国人の書籍に対する好みは一般に実利的である。個人が購入するのはペーパーバックが主流であり、ハードカバーは図書館で利用されている。便利だと思えば針金とじのオンデマンド出版物も積極的に利用するし、情報価値があれば多少高くてもページ単位の記事を購入する。
 アマゾン・ページは、この米国の出版事情と読書文化を背景に提案されていることを忘れてはならない。

一般雑誌は幕の内弁当の味

 書籍は本質的に一つのコンテンツだが、雑誌は記事の集合体である。書籍よりもばら売りに向いていそうだ。事実、学術雑誌では論文単位のオンライン販売が、かなり進んでいる。重要な論文はオンラインで先に入手できることから、印刷物より高価でも売れていく。
 一方、商業雑誌については日本でも90年代後半から試みられてきた。専門技術雑誌やビジネス誌などは、特集によって多少売り上げが左右される。そのため特集記事のばら売りが期待されてきた。昨年には週刊誌記事の販売も始まったが、いずれもニッチ市場すら成立していない。
 学術雑誌の論文は、中華料理の点心のようにそれぞれ独立した存在である。その例で言えば今の一般誌は幕の内弁当だ。多少、嫌いな物があってもバラエティーに富んだ味が楽しめる。いろいろあって満足するのが旬の雑誌かもしれない。

デジタル積ん読のコレクション
 
 ばら売りといえば、今や音楽である。アップル社のアイチューンズの成功により、リスナーはアルバムCD一1枚を買わなくても欲しい曲の購入が可能となった。しかし、1日が24時間である以上、情報接触には限りがある。それでもユーザーが消費可能な情報量を超えて購入するのはコレクションするからだ。デジタル技術が数百曲もの音楽を持ち歩くスタイルを実現したことで、音楽のばら売りビジネスは成功した。
 アマゾン・ページはアイチューンズ書籍版ともいえる。日本でマス市場が成立するには、本のデジタル積ん読が求められる。しかし、読むためにダウンロードされているうちは、オンデマンド出版のようにニッチか学術雑誌のような高価格での市場しか成立しないことになる。
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